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僕は神様、君は人  作者: はんぺん
第1章 望まれぬ献身
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18話 遅くなった帰り

 



「ちょっとちょっと、ノマ、外を見て」



 扉の向こうから聞こえてきたおばさんの声。自室で出る準備をしていたボクは外を見ると、そこにはフォトナさんの姿があった。



「え」



 ご飯を持たされてはやく家を出るように言われて急いで準備をして外へ出る。挨拶するやいなや「早速行きましょう」と言ってフォトナさんはスタスタと歩き出してしまった。寝坊した訳じゃないし時間は指定されてなかったと思うんだけど……。


 黙々と歩き続けて集落の端っこへたどり着く。見張り役ももう慣れたようでボクらが集落を出ようとしても何も言われなかった。まだ緩やかな丘を歩きながらボクは尋ねる。



「あの、聞きそびれたんですけどお墓ってあのお花畑にあるって言ってましたよね」



「……ああ、そうだったわね。移動されたのはずっと昔よ。リドリー家がリグルさんのお墓を作るのを禁止したって言ったでしょう?でもリアナさんの熱心な説得によって集落の外に作ることは許可したって、伝えられてるわ」



「なるほど……それで、作るなら花畑の近くに」



「おそらく、ね」




 本当にリアナはリグルを大切に思ってたんだ。でも、きっとリグルの両親もそれは同じだったはず。どうして作ることを禁止したのだろう。弟のアウリだってお墓を作ろうとしていた。集落のほかの人も大切な集落の仲間だ。よっぽどの事がなければ嫌うとは思えないんだけど……と、今の集落の雰囲気を見ているからそう考えてしまう。




「それにしても、見せてもらった髪飾り。とても綺麗だったわ、どうやって手に入れたのかしら」



 思い出すようにまだ薄い青の空を仰ぎながらフォトナさんはボクに尋ねた。



「多分ですけど行商人から買ったんだと思います」



「あらそうなの……フォンテ家かしら」



「フォンテ家? あ、ダグラスの家名……やっぱり昔から行商人は来てたんですか?」



「今よりも頻度は少なかったし、昔はお金の取り引きもあったらしいけどね」




 フォトナさんが言うには、まだ行商人との信頼関係が確立していなかった頃は今みたいな品物の交換ではなく、金銭やり取りがあったと言う。作った商品を売って得たお金で行商人の商品を買うと言ったように。

 リグルの頃はまだお金のやり取りがあったと言うから、きっとリグルはやっぱり行商人から買ったんじゃないかな。真実は分からないけど。



「これ高そうだな……」



 改めて髪飾りを眺める。サビひとつ、汚れや傷ひとつ見当たらない綺麗な髪飾り。取れそうな石も無いし、しっかりした作りであることが分かる。



「そうね。きっと苦労して手に入れたのね、リグルさんは」



「……ですね」



 この髪飾りに込められた思いは、正確には分からない。それはリグルにしかきっと分からない。絵になるくらい綺麗な髪飾りだ、値段もそこそこしただろうに……あ。



「そうだ、この髪飾りを描いた絵をダグラスが持ってたんです。代々受け継がれていたらしいんですけど、それ以上はよく分からなくて」



「へぇ……わたしも分からないわ」



 まあ、持ってるダグラスが分からないんだから、そりゃそうか。



「ですよね……あとダグラスに髪飾りについて聞かれたんですけど、詳細は言わないでおきました」



「リグルさん達の事ね。そうね……お気遣いありがとう。極力、集落の人にはリグルさん達の事は教えないようにしてるから」



 丘を立ち入り禁止にしているのもそれが理由よ、と顔を伏せて憂いた様子でフォトナさんは言った。ボクの選択は正解だったのかと安心したけど、そこまで隠す理由はなんなのだろうと今更ながら気になった。でも悲しげな顔をしたいまのフォトナさんに聞く勇気はボクには無かった。



 そこからはまた黙々と進み続けて、先日1度見た花畑をまた見下ろす。そしてまた同じように下に降りて花畑に近づいたところで、先日とは違う方向へフォトナさんは進んだ。



 ザッザッザッザッ


 ザッザッザッザッ



 二人分の草を踏む音が響く。少し草の背が高いけど、歩けないほどではない。余裕そうなフォトナさんに遅れないように足を動かし続けて数分後。



「ほら、見えるでしょ」



 草に気を取られていたら、そう言われて顔を上げる。少し先に小さな石が立てられてるのが見えた。それだけでは何なのかよく分からないけど、お墓に向かっているんだし多分お墓だろう。



「なにも、ないところですね」



「ええ、ここが良かったんでしょう。とてものどかだし」



 確かに丘にしては風も強くなくて、静かだ。優しい風が草を撫でている。上に広がる大空に、小さな白い雲がポツンポツンと浮いている。まさに、平穏。なんて切ないのだろう。



「これがリグルさんのお墓よ」



 ボクは穏やかな空間を漂い、胸を抑えながらゆっくりとお墓に近づいた。




<リグル・リドリー ここに眠る>




 そう書かれた石の横には小さな、あの薄桃色の花が1輪だけ咲いていた。しゃがんで茎を撫でて、花弁を指でなぞる。

 ああ、なんでボクは泣いているんだろう。悲しくはなかった。どうしてボクはここに居るんだろう、どうしてボクが? どうして、リアナはここにお墓を作ったの? どうして?





「……髪飾りを」





 ただ声もあげずに、ボクはお墓の前で涙を流し続けていた。ボクはフォトナさんに言われて現実に戻り、目的を思い出す。ボクは髪飾りを出して手にのせた。



「……かみかざり。君のだよ、ごめんねボクが持ってて」



 お墓の前に髪飾りを置いた。本当は、リアナのお墓に置くべきかもしれなかった。でもそうしちゃダメな気がした。ボクじゃない、リグルがあげるべきなんだ。



「きっと、渡してね」



 髪飾りを一撫でして、リグルのお墓を見つめる。



「リアナさんのお墓は、やっぱりリドリー家の近くに?」



「ええ。本当はリグルさんの隣が良かったらしいけど、その権利はないからって」



「……権利なんて」



「でもね」



 ボクの言葉をさえぎってフォトナさんは悪戯げに言う。



「見て、この花。不思議なんだけどね、1輪だけずっとここに咲いているの」



 ポツンと、お墓に寄り添うように咲く花。風に揺られて、たまにお墓に擦れるくらいの距離。




「お墓なんて形だけよ。きっと、ね」




 眉を垂らして目を細めて笑うフォトナさん。その言葉の意味を考えて、思って口に出そうとした、その時。




『リアナ』




 強い風がボクの髪を吹き上げながら、その声はボクに響いた。




「っあ」




 喜びと切なさが胸に溢れる。また込み上げてくるものを感じて、最近泣いてばかりだなとおもうけど、自分では制御出来なかった。




『遅くなったけど 戻ったよ』




 悲しみのない優しく語りかけるように。でも、やり遂げたような少し重い声。ボクは、無意識にお墓の前に膝をついていた。自然と手が花に伸びて、触れるか触れないかの所で止まる。風に揺られる花は指に近づいたり、離れたり、たまに掠めたり。しばらくそうして、腕を下ろすと




『ありがとう』




 そして、その言葉に続いて




『忘れろ 仕方なかった』




 ただその言葉を残して、声は消えた。呆気なく声が消えてしまいボクはどこか寂しさを感じた。




「……ノマ?これで、拭いて」



「……すみません」




 四角い布、ハンカチをボクに渡して涙を拭くように促される。ああ、フォトナさんには情けないところばかり見せてしまっているな、はは。



 しばらくボクは目元からハンカチを外せなかった。














 ✴

















 あの後、髪飾りをむき出しに置くのはどうかと言ったフォトナさんが木彫りの箱に入れてからお墓の前に置いた。確かにそこまで考えてなかった。


 涙が落ち着いた頃にはお昼をすぎていて、ボクらはお花畑まで戻りお昼ご飯を食べた。相変わらず、フォトナさんはボクに何も聞かないんだな。逆の立場だったら気になって聞いてしまうかもしれない。



「明日は、どうする?」



「え」



 明日か……もう、何をすればいいか分からなくなっていた。バリバラナらしき人物が病のことを知ってたり、リグルと接触していたのは分かったけど。リグルの声がボクに聞こえるのは未だ謎のまま。空色の石とかリドリー家の事だってよく分からないまま。リグルの言葉だって、きっと意味があるはずなのに。



「……今にとこ、特には」



「そう、ならゆっくり休んで。色々、疲れたでしょう」



 ボクの頭を撫でて、母性の微笑みを見せるフォトナさん。そんな歳じゃないんですけど……ボク、神様なんですけど……泣いてばっかだけど……


 そんな内情を知らないフォトナさんは立ち上がって、そろそろ行きましょうと言った。ボクも立ち上がろうとしたところに声がかかる。



「ノマ」



「?はい」




 くるっと振り返って、前で手を組んでボクに向かう。




「ユグルに、この場所に来てくれてありがとう。きっとリグルさんもリアナさんも、そう思ってる」



「え、っと、どういう意味……」



 目を逸らさずにじっとボクのことを見つめながら、また続ける。




「私、フォトナ・リドリーは、この日のことを忘れないでしょう」



「……フォトナさん、ボクはそんな」




 ボクの言葉を許さないかのようにフォトナさんはニコっと笑ってボクの手を取った。そしてそのまま花畑を抜けて来た道を戻った。






また、どこかで



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