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僕は神様、君は人  作者: はんぺん
第1章 望まれぬ献身
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17話 叶われた平穏

 

 朝早く、鳥の綺麗な声とともにボクらは出発する。



「んじゃ行くか!」



 元気よくバロンは集落にあった4輪の荷車を引く準備をした。今は空っぽだけど集落を回ったあとはこれがいっぱいになるらしい。



「バロン、いつも通り左回りで行くよ」



 りょー、とバロンはダグラスの声に返事をする。進み出した2人について行く形でボクも歩き出す。見たところダグラスは商品を持っていないけど、どんな風に集落の人と取引をするんだろう。



「お、早いじゃねえかバロン。少し待ってくれ」



 隣の家の男性がボクらを見つけて声を掛けてきた。家の中に戻ったと思ったら大きな袋を持ってボクらの方に駆け寄って来た。



「おお、今回も沢山だな」



「ダグラスさんの持ってくる酒だけが俺の楽しみなんだ! 」



「分かるわー、酒って大事だよな!」



 がはは、わははとお酒の話で盛り上がる男2人を置いてダグラスはしゃがんで袋からなにやら取り出していた。どんな物が入っているのか気になってダグラスの横にしゃがむ。



「ふむ、中々……」



「わ、すごい」



 ダグラスの手には押し花の栞があり、袋の中にも色鮮やかな栞がたくさん入っていた。



「ああ、ノマ。これが私の買う商品のひとつだよ」



「へぇー、確かにこれは売れそうだね。特に女の人とか」



「それだけじゃないんだ、よく見てご覧。ここユグルには美しい草花が豊富でね、こんなに綺麗な色の出る栞は中々無いんだ。形も様々で見栄えがとても良い」



 綺麗な色、と言われ確かにと思った。昔に隠れて街へ出た時のことだけど、街で売っている押し花の商品は少し花の色が薄かったりぼやけていたり、色褪せてる印象があった。勿論わざとそうしている商品も有るだろうけど、もう少し濃くても良いかなって思う物が多かったかもしれない。


 この栞は紫と水色の花に緑の細長い草をあしらっている、ありふれた色合いかもしれない。だけど、上品な紫色をした1つの花を支えるように下から生えた細長い薄緑色の草、寄り添うように飾られた涼し気な水色に彩られたこの栞の雰囲気は、街ではかんじられないものだった。


 他にも可愛らしい小さな花や、大ぶりの真っ赤な花など沢山の種類の栞が袋には詰まっていた。一つ一つじっくり見たいと思ったけどダグラスは5つくらい手に取って眺めたあと、盛り上がってる2人の方に向かいこう言った。



「ちゃんと酒は持ってきたから、落ち着いてれんかね」



「ああ、ああ、すまんな。で、どうだ? 家内の作った栞は」



「相変わらずとても綺麗だと伝えておくれ。前回頼んでた紫や青色の栞も多く作ってくれたみたいだし、このくらいでどうかね」



 そう言って何かを書いた紙を男に渡すダグラス。なんか数字っぽいのを書いてたけど……



「おお! こんなにいいのか?」



「ああ、落ち着く色合いが街では人気でね。次も頼むよ」



 伝えとくぜ!と男は渡された紙を持ち家に戻っていく。バロンが袋を荷車に載せて再び出発する。



「ねぇダグラス、さっき何を渡してたの?」



「紙のことかい? あれには後で渡す商品の種類と数が書いてるんだよ。場合によっては作ってもらう材料もね」



「へぇ、後で渡すんだ。信頼されてるんだね」



「昔からの付き合いだからね、重たい商品を持ちながら回るのは大変だからそういうやり方にして貰えたんだ」




 昔からの付き合いと聞き、ボクは昨日抱いた疑問を思い出した。髪飾りが描かれた絵について聞こうと思っていたんだった。でも今は聞けないか……もう次の家に着きそうだ。また後で聞こう。



 次の家では濃淡の緑色の草を使った草籠が、また次の家では押花を使ったネックレスや指輪など。家によって様々な種類の商品が荷車に載せられていく。そして集落を1周した頃にはもう載せられないくらいの量になっていた。



「2人とも、お疲れ様。なんとか今日中に終えることが出来たよ」



「ダグラスもお疲れ様。草花って色んな用途があるんだなって改めて実感したよ」



「俺も初めて見た時は魔法かと思ったぜ、道端に生えてるやつがこんなんになっちまうんだからよ」



 バロンはある家の子供から貰った草花で作られた腕輪を掲げながら笑う。ボクもダグラスもお揃いの腕輪を嵌めている。なにかお返しできるものがあれば良かったんだけど、お礼の言葉だけで別れてしまったのが申し訳なかった。



 集落の人々はみんな明るくて、仲がいいように見えた。ここに来るまでは、どんな辛いことがあって街では無く離れた地に居るのか思っていた。実際に見て、考えが変わった。

 此処に住み着いた理由は辛いものだったのかもしれない。だけど、いまここにいる人はきっとこの集落が好きだから此処に住み続けている。そう考えられるようになった。子供達も街に憧れはあるみたいだけど集落が好きなんだ、と小さいのに自分の意見をちゃんと持っていた。



「じゃ、自由時間ってことで!」



 夜ご飯の時間には少し早いから、バロンは出掛けてくると言い、ボクとダグラスは部屋に戻るべく階段を上がった。



「あの、少し聞きたいことがあるんだけど」



「ん? なんだい」



「この髪飾りって、見覚えある?」



 踊り場でポケットから髪飾りを取り出す。



「これは……ノマの……?」



 髪飾りをじっと見た後驚いた顔をしてボクの左耳を見つめる。そういえば、とダグラスはボクの耳に石が無いことに気づく。



「理由はよく分からないんだけど、ぴったり嵌って。おばさんにも見せたらダグラスがこれに似た髪飾りの絵を見せてくれたって聞いて」



「確かに、たしかに、まさかこんな、本当に」




 誰に聞かせるわけでもなく、自分に言い聞かせるようにつぶやくダグラス。おそるおそるボクの手から髪飾りを持ち上げて、揺れる瞳で見つめている。いつの間にか止まった足、しばらく考える素振りをした後、ダグラスは言った。



「ノマ。どこでこれを」



「それは……」



 リドリー家のことをボクが勝手に言っていいものか悩み言い淀んでいると、察したかのように



「……ああ、そうか。いや、いいんだ。すこし気になってね」



 首を力なく横に振りながらダグラスは言った。明日フォトナさんに確認しよう。丘に誰も行けないようにしてたり、リグルやリアナの事は集落の人は知らないのかもしれない。本当は髪飾りについても隠さなきゃいけないのかもしれない。だけど、これだけは気になるんだ。知りたいんだ。



「ごめんなさい。その、髪飾りについて聞きたいことがあって」



「……そうだね、私も話したいことがある。私の部屋においで」



 踊り場で止めていた足を再び動かしてダグラスの部屋に入る。部屋は特にこれといった特徴はなく、ボクの部屋と同じような間取りだった。ダグラスに促されてボクは椅子に座る。


 ダグラスは部屋に置いてあったカバンから1つの細長い包みを取り出して、中を机に広げた。



「これが、その絵だよ。確かに似ている、というよりそのものだろう」



「ほんとだ……形も、色も、石の場所も一緒だ」



「これはね、父から渡されたものなんだよ。そして父は私の祖父から。代々受け継がれてきたんだ」



「……なるほど」



 それなら納得がいった。でももうひとつ疑問が出てくる。どうして髪飾りの絵が受け継がれているのか。綺麗な絵だけれど、わざわざ残す理由はなんなのか。



「この絵はどっかで手に入れた物?」



「ちがう。髪飾りに一目惚れした祖先が絵描きに描かせたそうだよ」



 あまり、詳しいことは知らないんだ。とダグラスは申し訳ないように俯く。いつ、誰が手に入れて、描かせたのかも分からず、何故髪飾りがこのユグルに渡ったのかも分からないとダグラスは言った。でも、と続けた。



「この集落には祖先も商売に来ていたから、もしかしたら売ったのかもしれない。だれが売ったのかも分からないが……」



 残念ながら知りたかった髪飾りの事は分からなかったけど、リグルはダグラスの祖先から髪飾りを買ったのかもしれないと予想を付けることはできた。そろそろ部屋に戻るね、とボクはお礼を言って部屋を出た。





 そのまま夜ご飯まで自室で時間を潰し、ボクは窓辺に飾られた花の隣に子供から貰った腕輪を置いた。










彼の願いは叶った、きっと



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