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前科部!  作者: 蛇猫
仮面と古傷
69/108

永遠の後輩 


「あの......祐也、これは一体どういう状況なんですか?」


赤い瞳の女性は、幻中を始めとする前科部のメンバーに戸惑い、俺に質問を投げ掛けた。

俺は此処に居る筈の無い女性がこの場に居ることに驚き、幻中達は突然現れた女性の

存在に驚いている。この場に居る者で唯一驚いていないのは雪加だけだ。


(つむぎ)、祐也はかなり動揺してるみたいだから私の方から説明する」


「あ、勘解由小路さんお久し振りです。勘解由小路さんがこっちに引っ越して来た

 ことは先輩から聞いてましたよ。それで、何故あのボッチの祐也がこんな愉快な

 仲間達を家に招いてるんですか?」


「この人達は祐也と同じ部活の部員。今日は皆で祐也の作るお菓子を食べに来たの」


完結に状況を説明する雪加。しかし、青髪の女性は納得するどころか唖然とした

様子で口を開けていた。


「勘解由小路さん、それマジで言ってます?」


「マジマジ」


「つまりこの方達は皆、祐也のご友人......?」


女性は机を囲む幻中達に視線を向ける。


「・・・幻中玲奈です。上里君が私をどう思っているのかは分からないので

 友人、と言って良いのかは分かりませんが上里君とは普段から同じ部活の

 部員として親しくさせて頂いています」


視線を感じ取った幻中は自己紹介をして、ペコリとお辞儀をした。


「ご、ご丁寧にどうも。上里紡(かみさとつむぎ)です」


「「「「「......上里?」」」」」


俺と雪加、そして青髪の女性以外の全員が怪しむようにそう呟いた。


「聞きたいことが有るのは皆、同じみたいだね。でもその前に自己紹介をしようか」


白嶺先輩が慌てた様子で皆に言う。聞きたいこと、とは一体何だろうか。そんな俺の

疑問を他所に彼女らは自己紹介を始めた。その最中、雪加が何かを企んでいるような

笑みを浮かべていたのが気になったが、考えても仕方がない。


「調月さんに幻中さん、勘解由小路さんと同じくらい難しい読み方の名字ですね......

 芦原さんや小戸森さん、有馬さんもかなり珍しいですし。ううむ。在り来たりな

 名字の私では張り合いがつきません」


別に張り合うことは無いだろう。


「そ、それで上里さんは祐也君とどういったご関係で? あ、お姉さんとか?」


「え、芦原さんマジでそれ言ってます!? イエイ! ヤッタア!

 祐也、どうやら紡さんはお姉さんに見えるらしいですよ!」


「.....母さんが年齢より幾らか若く見えるのは確かかもしれないが、その反応は

 年より臭いぞ」


「「「「「......ん?」」」」」


「だからお前らさっきから一体、なんなんだよ」


一々、声を揃えるんじゃ有りません。


「いや、だってほら。祐也君、お母さんは家に居なくてお父さんと二人だけで

 暮らしてるんだ、ってさっき......」


「母さんは長い間、病気にかかってて入院してたんで俺は親父と二人暮らし

 してたんです。俺自身、何でこの人が此処に居るのか知らないんですけど」


「へ、病気?」


先輩は間抜けた声を出す。


「そうそう、病気」


「え、あ、そうだったんだ。......てっきり、私達祐也君のお母さんは既に

 亡くなっていたのかと」


成る程。だからさっき、俺が親父と二人で暮らしてるって言ったとき皆が

自棄に神妙な表情をしていたのか。


「......ふふふっ」


俺が一人で納得していると、雪加が影でクスクスと笑っていた。


「お前、実は皆が俺の母さんは死んだものと勘違いしているのに最初から

 気付いてて面白がってたな?」


『にゃるほど......』と言っていたのもそのことに気づいたからだろう。


「勘の良い祐也は嫌い」


「え、じゃあ何ですか? 私は自分の知らないところで勝手に殺されてた訳ですか?

 うわ、酷い。それ虐めですよ。虐め」


母さんが抗議の声を上げる。自分の知らないところで故人扱いされていたときの

気持ちとはどんなものだろうか。俺は母さんではないので分からないが、微妙な

気持ちになったことは確かだろう。


「貴方の息子の説明が足りなかったせいです」


調月がすました表情で口を開く。調月が毒舌なのは親の前でも変わらないらしい。


「すいません。祐也はホント、昔から祐也なんで許してあげて下さい」


「俺の名前を悪口に使わないで頂けませんかね!?」


というか、実の母親の癖に調月サイドに墜ちるな。


「あ、あはは......なんと言うか、祐也君の性格が濃い理由。分かった気がするよ」


「先輩は親父にも会ったこと有りますもんね。濃いでしょ、ウチの両親」


「濃いのは先輩の方です。私は薄味です」


「薄味の人間は夫のことを先輩、なんて呼ばないと思うのですが」


耳を疑うような台詞を母さんが言った瞬間、調月が鋭いツッコミを入れた。

たとえ相手がかなり歳上の人間であろうと、差別せずに毒を吐く毒舌の鑑だ。


「だって私、心の中ではまだ学生で、先輩の後輩なんですもん。若き日の

 心を忘れない永遠の後輩です!」


「精神的に成長してないとも言え......むぐっむぐむぐっ!」


続けて毒を吐こうとした調月の口を白嶺先輩が手で押さえる。どうにか口を

開けようと、モゴモゴしている調月は珍しく間抜けな姿をしていた。


「調月さん、それ以上は駄目」


「あ、芦原さん気を使わなくても全然大丈夫ですよ。というか、何なら

 皆さんタメ口で話して下さい。面白いし」


「い、いやあ~流石にそれは......」


駄目だろう、そんな風に有馬が苦笑する。


「だって、祐也もタメ口ですよ?」


「そ、それは先輩が上里さんの子供だからであって......」


「紡が良いって、言ってるなら別に良いんじゃない?」


「勘解由小路さんもタメ口ですよ? 何なら呼び捨てですよ?」


「いやそれは勘解由小路先輩だからであって......」


小戸森の言葉に皆が頷く。どうやら、皆の中で雪加は独立した立場の人間らしい。

俺が『息子』なら彼女は『雪加』と言うように。


「まあ、皆さんがそう言うのなら強制はしませんが」


「てか、マジで母さんは何で帰ってきたんだよ。入院してた筈だろ?」


「ん? ああ、驚きましたか? 紡さん、退院したんですよ」


「は?」


そんなことは全く聞いていないのだが。


「おお、怖い怖い。そんな睨まないで下さい。ほら、サプライズですよサプライズ。

 連絡せずに帰ったら。祐也は驚くかなあ、と思って」


「いやまあ、驚いたけどさ。退院するなら先に言ってくれよ......」


「愛しの先輩には先に言いましたよ?」


「愛しの息子にも言え」


全く、この変態夫婦は......。


「んじゃ、そう言うことで今日からは三人で暮らすことになるから

 宜しくお願いしますね」


「おーう」


母さんはそう言うと、リビングから出ていった。


「なんか、ウチの母さんが迷惑かけてすまん......」


静かになった部屋で俺は頭を下げる。


「・・・いえ、迷惑では。楽しい方でしたね」


「紡とは元から知り合いだけど、かなりヤバい部類の人間」


「雪加、一応アレでも俺の母親なんだ流石にヤバい部類扱いは......ごめん。やっぱり

 事実だからフォロー出来ないわ。同じ後輩キャラでも小戸森はああなるなよ?」


「こ、後輩キャラというかボクは普通に後輩なんですけど。はい。なりたくても

 ああはなれないと思いますから大丈夫です」


ああはなれない、か。酷い言われようだ。まあ、事実なので同情はしないが。


「とか言いつつ、小戸森もアレだよな。仮に俺がこの学校を卒業したときに

 俺とまだ交流が有ったとしたら、絶対俺のこと先輩って呼ぶよな」


「そんなことは! ......多分、恐らく、ないと思いますけど」


「あ、結構自身無さげだ」


「有馬先輩は黙って下さい。てか、干し芋返せ」


「あ、あれ~? 今、スッゴいドスの効いた声で言われたんだけど......

 小戸森さんって結構、根に持つタイプ?」


食べ物の恨みが恐ろしいのは世界共通だが、小戸森の場合は更に恐ろしい。

後、貧乳ネタも恐ろしい。


「先輩。今、失礼なこと考えてませんでしたか?」


エスパーかよ。


「いや、全然。大学芋の評価はどれくらいなのかな~って」


「それにしてはボクの胸を見てませんでした?」


「いや、めぐめぐの胸に見るものなんて無......ナンデモナイデス」


小戸森は殺意を剥き出しにしながら、フォークを此方に向けてきた。ヤダこの

娘恐ろしい。でも、暴力系女子は嫌いじゃない。


「はあ......全く。大学芋、とても美味しいです。作り方まで教えてくれて

 ありがとうございます」


「おう」


どうやら、大学芋のお陰で小戸森の堪忍袋の緒が切れることは無かったようだ。

ナイス、大学芋。大学芋大好き。大学芋と結婚したい。


「見て見て。上里君の部屋からこんなものが発見されました!」


「有馬お前、勝手に人の部屋に入る......な?」


俺は言葉を失う。有馬が手に持っていたもの。それはPCやゲーム機のソフトの

パッケージだった。


「あ、それ祐也が中学生の頃お年玉でポチリまくったギャルゲー」


「雪加テメエは何でそんなことまで知ってんだよおっ!」


俺は息を荒くしながら叫ぶ。ま雪加に性癖がバレるのは正直どうでも良い。

てか既にバレてる。でも、幻中や調月、先輩や小戸森には絶対にバレたく無い。


「ふむふむ......ふ~むふむ」


「雪加ドケッ! ソイツ殺せないっ!」


俺はソフトのパッケージをジロジロと見る有馬の方に走っていった。


「おっと、危ない」


しかし、パッケージを取り返そうと突撃する俺を有馬は意図も容易く避けた。

それも、アニメの強キャラのように二歩くらい動いただけで。


「貴様アッ......!」


「どれどれ、見せて」


雪加は有馬に憎悪の視線を向ける俺を無視して、有馬の持つゲームの

パッケージを見に行った。


「上里君、かなり特殊な趣味してるね~」


「黙れ。返せ。さっさと引っ越せ」


「いや、引っ越さないけど!?」


「あ、有馬君。あんまりやったら祐也君がかわいそ......」


「祐也は兎に角、ジト目が好き。ほら、殆ど全部のゲームにジト目ヒロインが

 出てくるでしょ? 後、人外娘も好き」


「ファァァァァァァァァァァ!」


先輩が止めるのも聞かずに雪加は皆の前で俺の性癖を暴露し、俺は声にならない叫びを

上げた。雪加、マジで許さん。ホントに許さん。今まで、彼女にからかわれたことも

勝手に俺の部屋に入られたことも、俺の目を盗んで勝手に俺のベッドで寝てたことも

全て許してきたがこれだけは許さん。


「ほへー。あ、ドM向けの奴も有るね」


「ヒトが想像出来る限り最悪の方法でこの世を去れっ!」


「いや、貴方が罵られて喜ぶド変態のマゾ野郎だと言うことは昔から知ってたわよ?」


追撃。


「もうヤダ。おうち帰りゅ......」


俺の精神はもう駄目みたいだ。幼児退行が始まった。


「いや、先輩のおうちは此処なんですけど」


「うう......まもにゃかあ。皆が虐めるよお」


「・・・え? あの、その......え?」


「貴方、それ本当に気持ち悪いから今すぐやめなさい。でないと警察を呼ぶわ」


俺の味方は一体、何処に居るんだ。


「だってだってだって~皆が俺を虐めるんだもん! 調月、責任取って!

 俺の心を疲弊させた責任を取って俺の心に潤いをもたらして!」


俺は駄々を捏ねる幼児のように調月に怒る。


「戦犯は有馬と勘解由小路さんよ?」


「ちょっと待って調月さん! 今僕のこと呼び捨てにしたっ!? 僕以外の

 人間にはさん付けなのに僕だけ呼び捨てにした!?」


「うるさいわ。黙りなさい」


「え、ホントに何なのこの部活!? 僕の扱い永遠にこれ!?」


有馬が喚いているが、ヤツは俺の性癖をバラした相手だ。哀れみの感情は沸いてこない。

良いぞ。もっとやれ。


「有馬に癒して貰うのは絶対に嫌だし、雪加に癒して貰うのも違う気がする。幻中は

 なんか戸惑ってて可哀想だったし、先輩と小戸森には迷惑を掛けたくない。となれば

 調月しか居ないだろ?」


「待ちなさい。その理屈は正しいようで何かが可笑しいわ」


「ということで、祐也の部屋から犬耳を持ってきました。ほら、雹霞着けて」


いや、何でコイツらは当たり前のように俺の部屋に出入りしてるの? 俺の部屋は

公共スペースじゃ無いんだぞ? パーソナルスペースだぞ? 聖域だぞ? 英語にすると

サンクチュアリだぞ?


「嫌よ。というか、そもそも貴方の部屋に何故こんなものが?」


調月は蔑むような視線を俺に向けてきた。何か凄い勘違いをされている気がする。


「雪加がこの前、百均で買って遊んでた奴をそのまま俺の部屋に置いて帰ったんだよ。

 言っとくが決して俺の私物では無い」


「そうそう。だから細かいこと気にしないで早くこれを着けて」


「勘解由小路さん......貴方、楽しんでるわね?」


「勿論」


清々しい答えだ。


「でも、調月には犬耳より猫耳の方が絶対に合うと思うんだよなあ」


「めっちゃ分かるけど、此処に猫耳は無い。......この中で一番犬耳が似合いそう

 なのは廻るんじゃない?」


「そ、其処でボクに話が回ってくるんですかっ!?」


「いやでも、小戸森には悪いがかなり似合うと思う。というか、小戸森は犬耳でも

 猫耳でも似合いそうだな」


調月や幻中など、クールなメンバーはやはり猫耳が似合う。しかし、小戸森の

ような静と動のどちらの要素も持ち合わせている人間は両刀が可能なのだ。


「それ、褒めてるんですか......?」


「うん。褒めてる。だからさっさと犬耳を着けるんだ」


「嫌ですよ。というか先輩、機嫌直ってるじゃないですか。ボクの犬耳で癒される

 のかどうかも疑問ですけど、それ以前に癒される必要が無いじゃないですか。」


「人は常に癒しを求めているんだよ」


「意味不明です」


俺の渾身の名言は一瞬で小戸森に切り捨てられてしまった。


「うーん。私も小戸森さんの犬耳には興味が有るなあ......」


「部長!?」


先輩の言葉に小戸森が悲痛な叫びを上げる。


「私が着けなくて良いなら、別に何でも良いわ」


「調月さん、結構薄情だね」


安定の自己中っぷりを発揮する調月に有馬が笑う。


「・・・・」


「あ、幻中には今度銀色の猫耳を買ってきてやるからな」


「・・・え?」


「ということでさっさと小戸森は着け、ろっ!」


俺は小戸森が油断している隙を狙って、彼女の頭に犬耳を装着させた。


「ふぇやっ!?」


「「やっぱり似合う」」


俺と雪加の言葉が重なる。やはり、俺達の目は節穴では無かった。

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