干した芋ですっ!
「はい! それじゃあ今日は新入部員の歓迎会をやるよ!」
有馬が前科部に入ると宣言した日の翌日、自然観察部では先輩の独断により
謎の歓迎会が行われようとしていた。
「いえーい! パチパチパチパチ。モグモグモグモグ」
「何でお前が此処に居るんだよ」
笑顔で拍手をする有馬に井上がツッコむ。有馬は陽キャの代名詞のような存在として
二年生の中では有名だと聞いた。そんな有馬がこんな日陰者の集まる部活の歓迎会に
ひょっこりと混じっていたのだから、井上が驚くのも無理はない。
「んー? 井上憂君だっけ。キミだけだと部員不足が解決しないのは知ってたでしょ?
其処でもう一人の新入部員として皆に勧誘されたのが僕ってワケ。そんなことより
僕はキミが此処に居ることの方が驚きだよ。幽霊部員になるって聞いてたんだけど?
モグモグモグモグ」
「今日は偶々、サッカーが休みだったから来たんだよ。文句有るか?」
二人のやり取りを聞いている限り、有馬と井上は初対面らしい。初対面とは
思えないほどに仲が悪そうだが。
「いや、別に。モグモグモグモグ......」
「すまん。ツッコんだら負けだと思って敢えて無視してたけど我慢の限界だわ。
有馬、お前はさっきから何を食ってるんだ。部活はもう始まってるんだぞ」
咀嚼音を立て続ける有馬に井上が注意をする。畜生、コイツも調月枠か。
常識人の井上も殆ど部活に来ることは出来ないらしいし一体神は俺に何の恨みが
あるって言うんだ。
「ん? ああ、これ? 机の上に置いてあった干し芋。誰のか知らないけど」
干し芋は俺の好物だが俺は今日、学校に干し芋を持ってきた覚えは無い。
ということはつまるところ、『芋』と付く食べ物の持ち主なんてこの部活に
一人しか居ないわけで......。
「それ、ボクの干し芋ですよ!?」
「やっぱり小戸森だったか。流石、芋天娘めぐめぐ」
「先輩は茶々入れないで下さい!」
怒られてしまった。
「そーだよー、上里君。茶々入れちゃ駄目~」
「有馬先輩の方が駄目なことしてますからね!? 何で勝手に人のモノを
食べるんですか!?」
小戸森はかなり怒っているようで、顔を真っ赤にしながら地団駄を踏んでいる。
ちょっと可愛い。
「だって、食べやすい位置に置いてあったんだもん。ほら、盗む方より盗まれる方が
悪いって言うか~、バレなきゃ犯罪じゃないっていうかー」
「この場合、ボクにバレてるから犯罪ですよ!?」
「有馬知~らないっと。モグモグモグモグ。うん、美味し美味し」
やっぱり勧誘相手間違ったか?
「ボクが折角、ネットで取り寄せた茨城県産の干し芋が......」
目の前で完食されてしまった干し芋を名残惜しそうに見つめながら小戸森は
絶望したように言った。
「は? 茨城県産? おい有馬、幾ら食べやすい位置に置いてあったとしても
茨城県産の干し芋は駄目だぞ。犯罪だぞ」
「上里君の『駄目』の基準は茨城県産かどうかなの......?」
有馬は呆れたように言っているが、本当に茨城県産の干し芋というのは美味しいのだ。
中国産の硬く、甘味の少ない干し芋とは次元が違う。ねっとりとしていて甘く
一度口に含めば天にも昇る気持ちが味わえる。その分、値も張るのだが。
「はあ......」
「ま、有馬には何時か毒を盛れば良いんだし、元気出せよ。そうだ、今度ウチ来るか?
雪加にもその味を認められた大学芋をたらふく食べさせてやるぞ?」
どす黒い溜め息を吐く小戸森を俺はそんな風に慰めた。別にやましい意図はない。
大学芋だけは何処よりも美味しいモノを作れると自負しているので是非とも芋評論家の
小戸森に食べてもらいたいのだ。
「え、ちょっと待って。何? 僕、毒盛られるの?」
「ほ、ホントですか? ありがとうございます。じゃあ近々お家に伺わせて頂きますね」
「ちょっと無視は酷くない? 僕、めっちゃ不安なんだけど」
「あ、そう言えば井上君の自己紹介忘れてたよね。井上君と初対面の人も多いだろうし
軽くで良いから自己紹介してくれないかな?」
先輩は思い出したように手を叩いて井上に頼んだ。そう言えば井上と直接面識が
有るのは俺と調月だけで、他の奴らは全員初対面なのか。
「芦原、お前も僕のことを無視するのか! おい、幼なじみ! てか、自己紹介って
井上君だけなの? 僕は? 僕も昨日のこと抜きにしたら、面識が有るの上里君と
芦原くらいなんだけど。僕もした方が良くない?」
「分かりました。自己紹介......えっと、二年三組の井上憂だ。趣味はスポーツ。
血液型はO型。上里と調月は一応、知り合いだ。宜しく頼む」
井上が頭を下げると、皆が一斉に拍手をした。
「はいはい! 二年四組、有馬岬! 趣味は井上君と同じようにスポーツと自然観察。
血液型はABで芦原とは幼なじみ。上里君とは知り合い!」
しかし、有馬の自己紹介に向けられた拍手の音は小さかった。
「あ、有馬君の自己紹介は需要無いから」
「芦原っ!? 何で僕、さっきからイジられてんの!? てか、皆も拍手しろよ!
してるの幻中さんだけじゃんっ!?」
流石、まもまも。優しいな。
「有馬ジロがめぐるんの干し芋を勝手に食べたから」
有馬が俺達に抗議すると、雪加が冷静にそう述べた。というかもうアダ名
付けたのか。早いな。俺も何か考えなければ。
「有馬ジロっ!?」
「うるさいわね。壊れたヤカンみたいに叫ばないでくれるかしら?」
「調月さんキミ、昨日は入部してくれてありがとうって言ってたよね!?
何で急に辛辣なの!?」
「今のは調月の挨拶みたいなもんだ。辛辣でも何でも無いぞ。意外とメンタル
豆腐なんだな。よし、調月の毒舌の片鱗を見せてやろう」
俺はそう言うと調月の方を『ジーッ』と見つめた。
「妙な真似はやめなさいゴミ虫。気分が悪いわ。その醜悪な視線を此方に向けないで。
私に暴言を吐かせようという魂胆なのでしょうけれど、私の暴言は見世物ではないわ。
私が貴方の思惑通りに貴方を罵ると思った? 馬鹿ね。そういうのを『下手の考え
休むに似たり』というのよ。身の程を思い知りなさい、愚か者」
「な?」
俺は苦笑しながら有馬の方を見た。何と無く予想はしていたが、これは酷い。それに
調月は、今自分が放った言葉が暴言にあたるだなんて夢にも思っていないのだ。
そういうところがまた酷い。俺はもう慣れているので軽く受け流せるが初対面で
これを言われた佐藤がキレたのも無理はない気がしてきた。
「え、えっと......あ、うん。皆、キャラ濃いね」
有馬が動揺している中、有馬と同じ進入部員にも関わらず井上は調月の暴言を
聞いても全く反応していなかった。
「いにょんの反応薄い......もしかして、隠れMだったりする?」
雪加もそのことに気付いたらしく、彼女は初対面だと言うのに恥ずかしげもなく
そんなことを聞いた。質問がピンポイント過ぎる気がするが。
「ちげえ。俺は調月と知り合いだし、何度か話したことがあるから調月が
毒舌なことも知ってるんだよ。てか、いにょんって何だ」
確かに井上は山本の件のことで礼を言うために調月と話したことや偶々俺と井上と
調月が通学路で出会った時に俺が調月に罵倒されているのを見たことが有った。
それを考慮すれば井上が調月の暴言に驚かないのも不思議ではなかったのかもしれない。
「貴方の渾名。ほら、井上、いにょうえ、いにょん、って感じで」
「いや、全く分からん」
「安心しろ。ソイツと6年以上の付き合いの俺でも何言ってるか分からないから」
「・・・あの」
俺達が適当に雑談をしていると、幻中が遠慮がちに手を挙げた。
「何だ? 幻中」
「・・・その、井上さんと有馬さんに自己紹介をして頂いたのですから
私達もお二人に自己紹介をした方が良いのでは無いでしょうか?」
あ、忘れてた。




