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前科部!  作者: 蛇猫
仮面と古傷
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仮面の少年の決断と毒舌症候群


「......岬さあ、私達の味方じゃなかったの? ここに居る奴岬以外、全員前科部の

 連中じゃん。それも頭良いアピールが鼻につく女に猫背の根暗女、性根の腐った

 クズ男にキチガイ眼帯女、女の癖に一人称が男みたいな奴に、そんな意味不明な

 面子を集めた生徒会長。前科部のメンバー全員が揃ってるし」


俺達の一人一人を指で差しながら罵る佐藤。そんな中、笑みを溢した人物がいた。


「フフッ」


「は? 何笑ってんの?」


佐藤が眉間にシワを寄せながら言う。


「いえ、別に。そんなにシワを寄せると元から醜い顔と心が更に

 醜くなるわよ? あまりお勧めしないわ」


こんなことを平気な顔で言い放てる人間はこの場に一人しかいない。


「貴方は私のことを根暗女、これのことを性根の腐ったクズ男と罵った。どんな美しい

 言い回しをしてくれるのかと期待していたけれど、ありきたり過ぎて冷めたわ。

 他の方は兎も角、私が根暗でこれの性根が腐っていることは紛れもない事実。

 当たり前のことを言っても全く響かない。貴方には罵倒のセンスが無いわね」


そう、調月だ。


「きゅ、急に喋り出して勝手なこと言うんじゃないわよ!」


こればかりは佐藤の意見に同意する。誰が性根の腐ったクズ男だ。

まあ、何も言い返せないのだが......。


「突然現れて人の話を遮り、好き勝手言い始めた貴方に言われなくないわ。

 後、私の言ったことについて具体的な反論が無いのは私の罵倒を認めたということで

 良いのよね? それじゃあ、心と体の整形をするのは勿論、ついでに語彙力も鍛えて

 出直しなさい。そうね、語彙力を鍛えるには『三匹の小豚』がお勧めよ。貴方の

 読解力で読んで理解することの出来ると思われる書籍は残念だけど絵本くらいしか

 無いだろうし、登場人物が貴方にそっくりだからきっと感情移入出来ると思うわ」


これは酷い。化け物には化け物をぶつけろ、という有名な言葉が有るが毒舌に毒舌を

ぶつけるにしては佐藤があまりにも無力で調月が容赦無い。


「黙れっ! ボソボソ喋ってるんじゃないわよ!」


「あら、また怒鳴り散らすだけで反論の一つも言えないの? それとも言い返す力が

 無いの? どちらでも良いけれど、私達は有馬岬という人間と話しているの。

 貴方はお呼びでな......」


「黙れって言ってんでしょうがあっ!」


佐藤はそう言うと、背負っていたリュックサックを振りかぶり調月の頭に

降り下ろした。『ゴスッ......』と鈍い音が辺りに響き渡る。頭を殴られた衝撃で

調月はバランスを崩し、そのまま後ろに倒れてしまった。後ろに倒れた調月は

手を付くことが出来ず、地面に頭をぶつけてしまい、再び鈍い音が響く。


「ちょっ......調月!?」


俺は慌ててしゃがみこみ、彼女の名前を呼んだ。


「......ぅぅ」


しかし、調月は唸るだけで俺に返事をすることは無かった。


「・・・誰か、保健室に行って養護教諭を呼んできて下さい。

 救急車を呼ぶかどうかは養護教諭の判断に従いましょう」


「わ、分かった! 私、呼んでくる!」


「頼みました、先輩!」


俺は校舎に駆けていく先輩にそう叫んだ。


「わ、私は悪く無いからね!? アンタ達だって見たでしょ? コイツが私に

 暴言を吐きまくったのを!」


ヒステリーを起こしたように佐藤は甲高い声で自分の無実を訴えた。しかし、自分が

やってしまったことの重大さに焦っているのだろう。額からは汗が吹き出している。


「うるせえ。そもそも、お前が先に俺達のことを罵ったんだろうが」


俺がそう言いながら依然として、唸るだけで言葉を発しようとしない調月の頭を

触ると手に液体のような物が付いた。血だ。紅い調月の血液が俺の手には付いていた。

恐らく、頭を打ったときにケガをしたのだろう。幸い、そこまで血の量は多くない。


「私、清潔なハンカチ持ってるから出血してる所に当ててあげて」


「おう、ありがとう」


俺は雪加からハンカチを受け取ると、出血箇所にそれを当てた。


「......付き合ってられないわ。ただ、倒れただけじゃない。私は帰るわよ」


「待ってください」


佐藤が校門の方へ歩いていこうとしたとき、小戸森が彼女の手を掴んだ。


「ちょ、離しなさいよ!」


「調月先輩にケガをさせたんです。逃げないで下さい......」


小戸森の目は何時にも増して真剣で、鋭かった。


「だから知らないっての! 私はちょっと押しただけでしょ? それなのに

 こんな風に倒れるなんて大袈裟なのよ。私を悪者にしようったって

 そうはいかないわ。岬、アンタも無関係なんだから一緒に帰りましょ」


「......もう、何でも良いや」


責任から逃れようとするばかりで少しも悪びれる様子のない佐藤に有馬は

何時ものふざけた口調ではなく、素の口調で答えた。


「は?」


「僕は此処に残る。佐藤恵美、君も此処に残れ。逃げてもどうせバレるんだ。

 大人しく此処で教師が来るまで待っていた方が僕は良いと思う」


「は、え? 何その喋り方。キモ。え、何なの? マジで」


「この話し方が僕の素だよ。でも、何時もの口調の方が皆に馴染めるから

 何時もはあっちを使っていたんだ」


有馬は吹っ切れたように今まで佐藤達に隠していたことを話し始めた。佐藤は

この学校の二年生の中でもかなり影響力のある人間。有馬が今まで通りの連中と

付き合っていきたいのであれば、間違っても佐藤にそんなことを教えてはいけない。

そのことは有馬も重々承知している筈だ。だというのに、有馬が自分の本性を自ら

佐藤に教えたと言うことは......。


「は? 何? じゃあ、これからは皆と馴染まなくて良いってこと?」


「ああ、そうだよ。話は聞いていたかもしれないが、前科部の皆から入部しないかと

 言われていてね。最初は入部する気なんてさらさら無かったんだけど勘解由小路さんの

 話と君の行動で気が変わったよ。僕は皆から嫌われるのは嫌だけど、それよりも頭から

 血を流す方が嫌なんだ。それなら僕は芦原を優先する」


その言葉を聞いたこの場にいる全員が言葉を失った。やっぱり有馬は今まで

築いてきた関係の殆どを捨てて、前科部に入部する気になっていたのだ。


「......それ、本気で言ってんの?」


「佐藤恵美、くどいよ。僕は案外頑固なんだ。一度決めたことは簡単に変えない。

 勿論、僕が前科部の部員なんだって言うことと僕の素を受け入れてくれる今までの

 友達とは付き合っていくつもりだけど少数だろうね。それでも僕は頭を打ったら

 皆で心配してくれる部員達がいる部活に入ることを決めたんだ。今まで、芦原にも

 悪いことをしたしね」

 

「......んん、手をどけなさい」


有馬がそんな言葉を佐藤にぶつけると、呻き声をあげていた調月がやっと言葉を

発した。どうやら、ハンカチで出血箇所を押さえていた俺の手が邪魔だったらしい。


「へいへい、頭から血が出てるからこれで押さえとけよ。雪加がくれたから」


「ありがとう。......うっ」


「・・・痛むのでしたらまだ動かない方が良いかと」


立ち上がろうとして、突然頭を押さえた調月に幻中がそう言った。

この二人の絡みは初めて見た気がする。


「ええ......悪いけれど、そうさせて貰うわ。後、有馬岬」


「ん、何だい?」


「入部を決めてくれて、ありがとう」


「ああ。佐藤恵美には何も言わなくて良いの?」


「暴力でしか事を解決できない下等生物にわざわざ掛けてやる言葉は無いわ」


「このクソ女......」


いい加減、煽り耐性を身に付けろと言いたいが佐藤はまたしても苛立ったように

唇を噛み、拳を握りしめた。そんな佐藤と調月の間に有馬が割って入る。


「おっと、次は殴らせないよ? 流石に目の前で二度も人が殴られるのは

 見たくないからね」


「ふんっ......」


「調月さん、保健室の先生呼んできたよ!」


そんなこんなで一連の事件は有馬が前科部への入部を決め、佐藤が不貞腐れた

ところにタイミング良く、養護教諭を連れた先輩が戻ってきたことで幕を閉じた。

その後、調月は養護教諭の車で近くの病院に行って検査をしたところ、彼女の

頭には何の問題も見つからなかったらしい。出来れば、毒舌症候群か何かの

病だと診断して欲しかったが。

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