むかむか
有馬と別れ、登校してからかなりの時間が経った。もうすぐ昼休みだ。今日の昼飯は
久し振りに雪加と一緒に食べることになっている。雪加が弁当を作ってきてくれた
そうなのでこれは楽しみだ。楽しい理科の授業が終わりチャイムが鳴ると多くの生徒は
一斉に学食へと飛び出して行った。弁当を持ってくる者は少ないのだろう。
「幻中」
「・・・はい」
「今日、雪加と弁当食べることになってるんだが幻中も来ないか?
幻中は学食じゃなくて、弁当だろ?」
「・・・いえ、私は遠慮させて頂きます」
折角だから、と思って誘ってみたのだが返ってきた言葉はNOだった。
まあ、俺も一人で食事をしたいときも有るし別に無理強いする必要も無いだろう。
「そか、分かった......あ、期末テスト学年一位おめでとう」
「・・・いえ、祝われる程のことでは有りません」
「確かに謙遜は美徳だが、そういうこと言ってると毒蛇に消されるぞ。
アイツ結局学年で並みよりはいい程度だったんだから」
俺は苦笑しながら幻中に言った。
「・・・そうですね。では、素直に受け取っておきます。ありがとうございます。
上里君も学年18位おめでとうございます」
「いや、18位ってかなり微妙だけどな。あ、そう言ったら駄目なんだった。
自分で言っといてすまん。ありがとう」
「・・・そろそろ勘解由小路さんのところへ行った方が良いのでは?」
「そうだな。じゃあ、行ってくる」
「・・・行ってらっしゃい」
幻中に見送られ、俺は雪加の机へと行った。この前までは多くの女子生徒で
囲まれていたこの机に近寄ってくる者は今じゃ一人も居ない。仮にまだ雪加と
友達になりたいと思っている奴がいたとしても今の段階では難しいだろう。
それほどこの教室全体には雪加を嫌う風潮がある。
「あ、祐也」
「よ、雪加。それじゃあ、行くか」
別に教室で食べたって良いのだが、何しろ教室にいるのは俺と雪加を毛嫌いしている
連中ばかりだ。そんな連中と同じ空間で飯などとてもじゃないが俺は食べられないし
雪加もそうだろう。なので、場所を変えようという訳だ。その場所も
もう決まっている。それは学校の裏庭にあるベンチだ。
この学校の原則として弁当は迷惑にならない場所であれば基本的に何処で食べても
良いことになっている。なので別にそんな場所でも良いわけだ。何より裏庭のベンチは
寂れていて、誰も近寄らないため静かに昼食が楽しめる。
「祐也。どうやってこんなところ見つけたの?」
雪加が引き気味に聞いてくるのも仕方のないことかもしれない。何たって裏庭とは
名ばかりのこの場所は雑草が辺りに生えまくっていてロクに手入れもされていない。
また、この場所に行くのも中々面倒で色々な場所を経由しなくてはならないのだ。
「適当に校内を探索してたら見つけた。凄いだろ。生徒の声一つ
聞こえないんだぞ」
「うん。祐也って地味なところ探すの本当に得意。尊敬する」
「それは褒めてるんだよな?」
「付き合いの長い祐也だったらそれくらい分かるんじゃないの?」
「多分だが、馬鹿にしてるな」
「正解。流石ね」
雪加は微笑を浮かべてそう言うと、手提げから二つの布に覆われた
箱を取り出した。
「はい。こっちが祐也の」
「お、ありがとう。開けていいか?」
「うん」
弁当の創造主からの許可を確認し、蓋を開けると弁当箱の中には笑えるほど
大きな卵焼きが鎮座しており、俺が主役だと言わんばかりにその存在感を
主張していた。俺は思わず言葉を無くす。卵は偏食家の俺の中でもトップレベルで
苦手な食べ物だ。しかし、作ってきて貰った手前食べないわけにはいかない。
「いた、だきま.....す」
俺が弁当を食べようとするのを見た雪加はニヤニヤしながら俺の顔を
覗いて、頬をチョンと人差し指で押してきた。
「凄い、祐也。卵食べれるようになったんだ」
「ま、まあな......」
俺が雪加から視線を外すと、雪加は別の方向を向いて独り言のように
呟き始めた。
「実はこれただのドッキリで、卵を抜いた弁当はちゃんとこっちに有るんだけど
......祐也が卵を食べれるようになったならそっちを食べてくれても別に」
雪加が其処まで言うと、俺は矢の如きスピードで二人の弁当箱をすり替えた。
「さ、弁当食うか」
「その早業には呆れるけど......分かった」
俺は卵の入っていない方の弁当を安心して食べながら、ふと口を開いた。
「あ、遅れたけど期末テスト二位おめでとう」
「......ありがとう。でも、玲奈さえいなければ一位取れてた。
玲奈、恐ろしいヤツ」
雪加は悔しそうに顔をしかめて言った。幻中が凄く頭が良いのは
分かっていたが、本当に雪加よりも点数が高いとは......。
「ま、ライバルが出来て良かったんじゃないか?」
今まで秀才の雪加にはライバルと言えるライバルがいなかった。越えなければ
いけない目標が出来たというのは自分に厳しい彼女にとって朗報な筈だ。
「うん。次は負けるつもりはない」
「おう、頑張れ」
久し振りの雪加の料理に舌鼓を打っていると、ふと気になることが有った。
「小戸森......大丈夫かな」
「廻るんがどうかした?」
「え何その呼び方、めっちゃ可愛い......じゃなくて、小戸森は佐藤恵美っていう
女子のリーダー格に目をつけられててこの前もそのことで一悶着有ったから
気になるんだよ。ほら、小戸森って俺やお前と違ってはっきり物事を言えない
タイプの人間だからさ」
この前は俺が通りかかったから良かったが、今日は俺が雪加と飯を食べているため
小戸森は一人だ。佐藤のような連中は放っておくと何をするか分からない。
「......祐也は廻るんが心配?」
「ん? まあ、そうだな」
「祐也って自分が気付いていないだけで結構、正義感強いから一人にしておくと不安。
だから......もし、廻るんや他の皆に何か有ったとしても必ず私に言って。自分で
言うのもアレだけど祐也、私のことは信頼してるでしょ?」
「してるな」
「即答......」
今までからして、雪加は俺の心の支えになってきてくれたのだ。
信頼、というよりも『それでも雪加ならやってくれる』という安心感がある。
「ま、何か有ったら相談するから頼むな」
雪加は俺の言葉には答えず、ただ静かに頷いた。
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自分が水を啜る音は残響も残さず、周りの喧騒にかき消された。彼のいない
昼食は寂しい。彼のいない昼食は味気ない。なんだ、自分はすっかり彼との
日常に毒されていたんじゃないか。人間、もとい自分は依存することに関しては
無駄に早い。そのくせ、依存する対象が居なくなると途端に心に穴があく。
自分達を創った神とやらがいるのならその神は随分、性格が悪いと思う。
別に、彼が居なくなった訳じゃない。彼は今日、別の人と昼食を共にしている
だけなのだ......それだけなのに、酷くその事実に嫌悪感を抱いている自分がいる。
彼との昼食は自分の特権だった筈なのに、と。そんな浅はかで醜い考えをしている
自分が嫌だ。一体、何時から彼は自分の物になったというのか。変な錯覚を
しているそんな自分が本当に嫌だ。
今日の芋天はボソボソとしていて、口の中に残り、甘さも全くと言って
良いほど無い。どうにか唾液を絡めて喉の奥に流し込んだ。
「先輩......」
気が付くと、目からは涙が一粒流れていた。別に1日くらい彼と会えなくても
泣くほどのことではない筈だ。それなのに何故だろうか。動悸が止まらない。
苛立ちにも似た、やりきれないような感覚に襲われる。
「あ、廻瑠じゃん~。アンタ、あの男はどうしたの~?」
「......別に。幼馴染みさんと、お弁当を食べているだけです。
私に何かご用ですか?」
「いや、今日座る席が無くてさ。この席座るわね」
自分の返事も聞かず、彼女は大きな声で二人の友人を呼ぶとさも当たり前の
ように自分の机の席に座ってきた。一人のリーダー格の女子にその取り巻き二人。
何と無く既視感を感じた。
「見て、この子が小戸森廻瑠。私の部活の元後輩よ。つまらない顔してるでしょ」
「ぷっ、確かに! ねえねえ『ボク』って言ってみてよ」
「アッハハ、ボク~可愛いでしょぉ? って?」
「......嫌です」
彼女らの無茶ぶりを拒否すると佐藤恵美は突如、自分を怒鳴り付けた。
「いい加減その弱々しいキャラ、止めなさいよっ! 見ていて腹が立つわ」
「......ごめんなさい」
何故怒られているのか分からないが、自分には謝る以外の選択肢は無かった。
「はあ......もう良い。つーか前科部って今、部員6人だよね?
ロクに部活動もやってないし、賞を取ってる訳でも無いのに何で続いてんの?
普通、そんな部活学校側に潰されるでしょ。ねえ?」
「うんうん。この前、部員7人の卓球部が潰れたっていうのに部員6人の
前科部が続いてるのか謎。てか、1ヶ月くらい前までは部員4人だったし」
「じゃあさ、じゃあさ、河村にそのこと聞いてみれば?」
河村、というのは確か二年生の生徒指導の教師だ。彼、上里祐也がこの前
濡れ衣を着せられたとき話し合いをしたらしく、聞く耳をもたない嫌な
教師だったと愚痴を漏らしていた。
「あ......」
まさか、女子生徒三人のせいで今まで潰れてこなかった部活が
潰れるとは思わないが何と無く嫌な予感がした。
「何? なんか文句ある?」
「......ありません」
「よし、決まりね。それじゃ、今日にでも河村に聞いてみよ!」
佐藤恵美の言葉に湧く二人の女子生徒。それをただ黙って眺めることしか
自分には出来なかった。彼なら、先輩なら、どうしただろうか。せめて
皆に迷惑を掛けることにはなりませんように。
ヤバい......マジでヤバいっす。
私のなろうで公開しているもうひとつの小説『数年前に死んだ筈の幼馴染み、記憶を無くして幽霊として現れました!? ーヒュゥゥゥドロドロドロ~でうらめしや~な彼女との生活ー 』に『前科部!』が総合評価で負けそうになってます......あっち五万文字こっち30万文字ですよ!?
お願いします、作者のモチベーション向上のためにこの後書きの下の星っぽい奴を
弄って下さい......ブクマも感想をレビューも宜しくお願いします(切実)
.......よし、では次も宜しくお願いします! モチベーションが向上すれば
するほどより良い文が書けるのでね! 頼みますよ!?




