雪加
「と、まあそんな感じで解決しました。心配かけてすいません」
「あはは、私もほっとしたよ。良かったね、濡れ衣が晴れて」
放課後の理科室、俺はことの顛末を先輩に話していた。
というか、先輩と会うのが結構久しぶりな気がする。
「幻中は何か話し合いがあるとかで遅れてくると思います。
もしかしたら、長引き過ぎて先に部活が終わるかもですけど」
「オッケー。それにしても、調月さん大活躍だったんだね。
やっぱり、祐也君を助けたかったの?」
先輩は笑いながら言う。
「おぞましいことを仰有らないで下さい、部長。私は生徒として当たり前の
責務を果たしただけであって、これを助けたくて助けた訳では有りません」
うん、予想通りの回答だけど流石に此処まで断言されると傷つくよ?
「だから、何度も言うが人のことをこれとか言うな」
いや、本当に何度目か分からないが。
「あら、ごめんなさい。じゃあ、何と呼べば良いかしら?
廃棄物? 狂人? 性犯罪者?」
選択肢がちょいと酷すぎやしませんかね。
「何と呼べば良い以前にもう、最後の選択肢は前から呼んでるんだよなあ.....」
「あ、あはは。相変わらずだね」
先輩が少し呆れたように言った。
「それで、今日の部活動は何をするんですか?」
何せ、自然観察部だ。生物研究部でもなければ、植物研究部でもない。
部活動が曖昧なので、毎回ロクに部活動をしてこなかったこの部活は
やることに困っている。
「そだね、何しよっか?」
先輩は至って楽観的に答える。
「いや、質問に質問で返さないで下さいよ......」
「だって、本当にやることないしね~」
どうなってんだこの部活は。
「調月さんと、小戸森さんは何か意見ある?」
先輩は、調月達の方を向いて言う。
「特には。お任せします」
先輩の質問に調月がすぐさま答える。
「お前は只考えるのが面倒なだけだろ」
「甘いわね。何か下手に案を出してそれを実行するのも面倒なのよ」
じゃあ、お前なんでこの部活入ってるんだよ。
「あ、あはは......じゃあ小戸森さんは?」
先輩が調月の清々しいダメ人間アピールに戸惑いながらも
小戸森へと質問の対象を変える。
「ええと。この前ボクが提出した、企画書の場所に
郊外学習に行くとかは......駄目、ですか?」
そういえば、そんなのもあったっけか。
「あ、それいいね! 何処にしまったっけ」
名案とばかりに手を打って先輩は棚をごそごそと探し出す。
「小戸森の企画書なら先輩、其処の机の下に直してましたよ」
俺は下が棚になっている机を指して言う。
「お、あったあった。ありがとう」
先輩は企画書をヒラヒラとさせて其処に目的の物があったことをアピールした。
「それで? どこを観察地にしたんだ? この辺りのことはまだ詳しくないんだが......」
色々あったせいで、長く感じるがまだこの町に引っ越してきてから
1ヶ月も経っていない。未だに何処に何が有るかも分かっていないのだ。
「えっと......」
「あ、此処行ったことあるよ! 大きな池がある公園だよね」
小戸森が説明しようとすると、それを先輩が遮った。
「はい、ネットで調べたら動植物が豊かだって書いていたので」
「因みに、俺は知らないんだが調月はこの公園知ってるか?」
俺の質問に調月『愚問ね』と答え髪を払った。
「知っている訳無いでしょう?」
「滅茶苦茶ドヤ顔してるけど何も凄くないからな?」
コイツの常に自信に溢れた態度は何処から来るのだろうか。
「じゃ、じゃあ次の自然観察地はこの公園ってことで良いかな?」
先輩は確かめるように俺達を見て言う。別に拒否する理由も無い。
「良いんじゃないですか?」
「ボクはそもそも企画した側ですし、勿論良いです」
「同意見」
俺達は口々に先輩へと答える。
「よし、じゃあ近い内にこの公園に行こっか」
先輩は小戸森の企画書を少し指で弾いて言った。
そのことに俺は少し思うところがあり、口を開いた。
「折角デカイ池があるのに冬鳥のいない6月後半に行くのは
なんか勿体ないですね。いや、別に良いんですけど」
水鳥の大半を占めるカモ類の多くは秋に渡来し日本で越冬して
春に帰る冬鳥が殆どなのだ。
「あはは、本当に鳥が好きだね祐也君は。何か鳥が好きになった
切っ掛けでもあったの?」
先輩はくすくすと笑いながら聞いてきた。
「切っ掛けですか......一応無いことも無いですけど」
脳裏に映るのはとある、少女の影。切っ掛けといえばアレしか
無いだろう。
「え、本当に? 知りたいな」
先輩は少し食い気味に聞いてくる。
「いや、そんな期待されても大した話じゃないですよ。
大体何でそんなに気になるんですか」
俺のゴミみたいな自分語りを聞いて楽しい奴は少数だと思われる。
「だって、この前の郊外学習で祐也君の書いた自然観察帳、鳥の部分だけ
凄く詳しく書いてあったんだもん。ほら、名前は勿論分類とかも」
まあ、即座に野鳥の分類を言えるのは我ながら変態だとは思うが。
「調月の爬虫類も結構凄かったじゃないですか。
カナヘビの雌雄を見分けるとか」
特に、インドタイパンのくだり。俺は基本的に日本の野鳥しか分からないが
調月は海外の爬虫類も知っているようだった。
「あ、確かにそうだったね。調月さんもカナヘビとかシマヘビとか
他にもニホンヤモリに色々カエルとか、カメとか観察してたよね。
名前は忘れちゃったけど......」
コイツ、そんなにも観てたのかよ。
「調月さんは何か好きになった切っ掛けとかあるの?」
よし、さらっと質問相手を変える作成成功。
「特に有りませんが、強いて言うならば父が爬虫類好き......なことですね」
調月は最後の部分を少し濁して気味に言う。何か、思い出したのだろうか。
「へえ、やっぱりお父さんの影響とか受けてるんだね。じゃあ、祐也君も?」
おっと、其処で俺に振ってくるのか。
「俺は違いますね。あの人はもっと、ライオンとかクマとか
獰猛そうな哺乳類が好きですよ。あ、ティラノサウルスとかも
結構好き筈だから、鳥好きでもありますかね?」
俺はあまり非鳥類形恐竜については詳しくないが。
「え、何で? ティラノサウルスって恐竜だよね?」
先輩は俺の言葉に疑問を溢した。結構、有名な話でテレビなどでも
よくやっているので一般人でも通じるかと思ったのだが。
「鳥類は恐竜である。多くの古生物学者や鳥類学者が認めている
現在の鳥類についての起源の定説ね?」
調月は察したように俺へと確かめてくる。
「ああ。まあ、簡単に説明しますとK-Pg境界って呼ばれてる昔の大量絶滅が
あるんですけど、それを生き残った恐竜が今の鳥類だっていう説です。
この説では明確に恐竜と鳥類の境目がなくて、その辺にいるスズメを
恐竜って呼んでもあながち間違いじゃないっていう話ですよ。てか
調月良く知ってたな」
因みに言うと、鳥類は確かに恐竜である獣脚類の一種だが恐竜自体は
非常に多くの種類があり、必ずしも恐竜という言葉が鳥類を指すわけではない。
恐竜と鳥類が同じというのは、悪魔でも鳥類から恐竜への一方通行なのだ。
「恐竜、翼竜、首長竜、海竜、全て爬虫類よ。
私がその程度の知識についていけないと思ったのかしら」
調月は誇らしげに言う。
「あはは、仮にも自然観察部の部長なのに全然話に付いていけないなあ......。
でも、結構面白いこと聞けて良かったよ。雑談とかで使えそう」
先輩が苦笑しながらそう言った。
「安心して下さい。ボクも全く分かりませんから」
小戸森が理解し難いように言ってくる。なんだよ、知識豊富な
先輩格好いいだろ。
「あはは、だよね。それで? お父さんに影響されてじゃないなら
何で鳥が好きになったの?」
「まあ、なんというか知り合いに鳥好きが居てですね
なんというかその人に影響されてですよ」
「ふ、貴方に知り合いなんて居るのかしら? 恐らく仮に貴方が知り合いと
思っていても向こうは赤の他人と思っているかもしれないわよ」
え、何俺。友達はともかく、知り合いが居るって言っただけで
そんな反応されるレベルなの?
「お前、一周回って俺のこと好きなんじゃねえの」
だって、一々俺の揚げ足取るじゃん。ほら、気になる奴には
ちょっかい掛けたくなるとかいう、昭和理論で。
「消えろ」
しかし、返ってきたのはシンプル且つ鋭い言葉だった。
「すいません」
ド直球過ぎて逆に恐ろしいわ。
「え、えーと。そ、それで? その知り合いの人ってどんな人なの?」
先輩が調月の辛辣な言葉に引きながら聞いてきた。
「どんな......って言われると難しいですね」
俺は記憶を辿り、その少女の特徴を探した。
結構濃いキャラだったと思う。
「先輩、もしかしてその人ってこの前の自然観察で先輩が言ってた
料理のレシピをくれた人ですか?」
今まで話を聞いていた小戸森が何かを察したようにそう聞いてきた。
「ああ......まあ、そうだな」
一応事実なのでそう答える。
「え!? ということは、冷凍食品食べたら怒る人だよね?」
だからその呼び名はどうなんだろうか。
「ま、そういうことになりますね」
「話を纏めると、陰気で特筆すべき点もない性根の腐った
貴方にその『知り合い』とやらは、家庭料理の自作レシピを渡し
健康を気遣い、挙げ句の果てには趣味に影響されるほど付き合っていた
ということになるわね............どう考えても貴方の極度の孤独が生み出した
架空の友人としか思えないのだけれど」
似たようなこと小戸森にも言われたが、俺ってそんなにボッチに見えるのか?
「あのな......確かに俺がボッチなのは認めるが、其処まで重症じゃないから」
「じゃ、じゃあ名前は? 名前は何て言うの?」
アイツが俺の妄想の産物だったことにされそうになっているのを見て
先輩はそう聞いてきた。名前を言えば、現実にいるという証明に
なるということだろう。
「名前ですか......調月や幻中に負けず劣らず珍しい名字してますよ?」
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次の自然観察の予定も決まり特に部活動のない自然観察部はあの後
解散し、俺は下校していた。本当なら自然と調月と帰る流れなのだが
調月は野暮用があるらしく、俺は一人だ。
「はあ......はあ。あ、あの」
校門を抜けて、少ししたところで聞いたことのある声が話しかけてきた。
少し低い男の声だ。というか、この学校で男の知り合いは2人くらいしか
いない。対して女子は4人、それに圧倒的にその4人の方が関わりが多い。
あれ、俺ってばハーレムじゃん。
「ん? ああ、井上......だよな?」
自棄に息をきらしているので、少し驚いて目を合わせると
井上は口を開いた。
「ふぅ......やっと追い付いた」
どうやら俺を追いかけてきたらしい。
「ストーカーなら間に合ってるぞ」
ストーカーネタはもう飽きた。先輩にはストーキングされ調月にはストーカー
呼ばわりされているからな。
「違、う。言いたいことが、あったん、だよ」
息切れを起こしているせいで井上は酷く話しにくそうに見えた。
「なんだ? 言っとくが山本の件は......」
また山本のことで喚かれるのかと思い俺がその件について詳しく話を
しようとすると、井上は物凄い早さで頭を下げた。
「上里祐也、本当にすまなかった。夢......山本のことは全て聞いた。全て、俺が
間違っていた。初対面で殴ったことも有らぬことで難癖つけたことも本当に
反省している。本当にすまなかった!」
物凄い剣幕で謝罪の言葉を口にするので俺は謝られている側なのに
怖じ気づいてしまった。同じことを二回も言ってるし。
「お、おう。そうか」
「こんなことを言ってもお前には関係無いことは承知の上だが山本があんな奴
だったことは俺も知らなかったんだ。だから、つい庇ってしまったんだよ......
本当にお前には関係無いことだが」
井上は頭を下げたまま、弁解する。あんなに俺に敵意を剥き出しにしていた井上が
ここまで下手に出るなんて、拍子抜けだ。
「いや、それは何と無く分かってたが......まあ、なんというか。人は自分で見定めろよ?
今回みたいに性悪が猫被ってることも有るんだから」
「ああ、心に刻ませてもらう。当たり前だが山本とは別れるつもりだ」
「別れた後にまた別の奴にたぶらかされて道化になるなよ?」
俺は少し皮肉を込めて言った。
「っ......ああ、それに関しても気を付けさせて貰う」
何か言いたげだが、井上はその言葉を言わずにただ頭を下げてそう言った。
其処まで反省しているのなら、俺に言うことはない。
「理解してくれたならそれで良い。それじゃあ、面倒臭いし今回の件はこれで
水に流すということで。じゃあな」
俺は軽く手の平を見せて、帰ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「まだ、何か?」
井上が急に呼び止めてきたので、少し驚いて振り向く。
「あー、そう言えば名前もきちんと言ってなかっただろ。謝るだけ謝って名前を
名乗らないのもどうかと思うからな。俺の名前は井上憂だ」
......俺と名前一文字違いじゃねえか。パクったな。てか、謎のヒロイン『ユウ』は
まさかのこれの伏線だったのか? ヤバい色々と情報が多すぎる。
「知ってるみたいだが俺は上里祐也だ」
「ああ、丁寧にどうも。それと、何度も言うが本当に今回はすまなかった」
井上はもう一度深々と頭を下げる。
「おう」
俺は軽く井上にそう言い残して、帰宅を急いだ。それにしても予想通り井上自体は
其処まで悪い奴ではなかった。それに、山本みたいな奴から解放されるのだから今回の件の
解決は井上にもプラスになっただろう。井上を見る限り、相当山本に貢いでそうだったしな。
それから少し歩くと、愛しの我が家が見えてきた。家が好きすぎて修学旅行では狂いそうに
なったことを知れば俺がどれだけ家好きなのか分かるだろう。扉の前まで着き、引き戸を
引いてみるも鍵は掛かっているので親父が早めに帰っているということは無さそうだ。
「ただいま、って誰も居ないか......」
つい、人が居ないと分かっていても帰宅の挨拶をしてしまう。
家に人などいない.....のだが?
「お帰りなさい」
誰も居ない筈の家に帰ると、其処には玄関に立つ人が居た。
「・・・・」
「どうかした?」
黙る俺を見てその人物は、首を傾げた。
「帰れ」
俺はその人物を目にとらえた瞬間、即答した。
「嫌」
即答されてしまった。
「刑法、130条住居侵入罪」
では、正当な権利を振りかざしてみる。
「許可はある。この家の名義は上里徹也の筈」
親父が持ち歩いていた合鍵を見せつけられ正当な権利を振りかざされてしまった。
「お茶漬けでも......」
なら、搦め手で。
「京都流の暗に『帰れ』っていうメッセージを送ってもダメ」
種がバレてしまった。
「はあ.....何で此方に居るんだ?」
もう、降参して状況を聞くことにする。
「お父さんが転勤して、私も転校したからこの町に住むことになったけど
今日は学校休みだし、折角なら祐也と顔合わせしたらどうかって徹也が」
「犯人親父かよ......待て、今お前何て言った?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。
「シュバルツシルト半径」
即答。
「何を間違ったら今の会話でそんな言葉が出るんだよ.....。
いや、マジでもう一度言ってくれ」
「お父さん、転勤、私、転校、学校、休み、祐也、顔合わせ、徹也が」
「何でカタコトで話してるのかは敢えてツッコまないが、お前が転校って
マジで言ってるのか?」
俺の質問にソイツはこくりと頷く。
「因みに何処高よ?」
「岬川」
一切の迷いなく、ソイツはそう答える。
「Oh......」
「ソーリー、ジャストキディング(ごめん、ほんの冗談)」
発音を無視した英語をソイツは言った。
「え? ああそう.....驚かせるなよ。マジでビビったからな?」
そもそもコイツの父親が親父と同じところに転勤する確率なんて
微々たる物だしよく考えれば当たり前だろう。コイツがここにいる理由は
おおよそ、遊びに来たというところだろうか?
「という、冗談」
「どっちなんだよ!」
相変わらずボケが激しい奴だ。
「新しく出来た会社の支部らしいから転勤が集中するのも確率的には低くない。
それに、そうじゃなかったら私が平日に前の町からかなり離れたこの街に
いる理由の説明がつかない」
さらっと俺の心を読んでることはもう無視である。
「じゃあ、明日にでもうちの高校に転校してくるのか?」
「うん」
また、ソイツはこくりと頷いた。
「はあ......マジか」
「嫌?」
「......さあな」
俺はそっと、顔を逸らす。
「祐也の『さあな』は満更でもない時」
「......さいで」
「うん、明日から同じ学校だし......宜しく」
左目に小さく王冠の描かれた眼帯をし、ややゴスロリチックな
私服に身を包んだグレーの短い髪を持つ、俺に世話を焼き、レシピを渡し
俺が影響されて鳥好きになった人物。
勘解由小路雪加はそう言って以前と変わらぬ笑顔を見せた。
後書きを頻繁に書いている作者様は少ないようですが、何と無く好きなので(自己満足)
出来るだけ書かせて頂きます。えーと......なに書こう。あ、投稿遅れました。
本当に忙しかったので許してください(免罪符) 基本的には約週一投稿をしたいんですが
やはり私生活と両立させると中々時間を捻出出来ないのが現状です。申し訳ありません。
伏線......というか、あからさま過ぎというか。蛇足のように地の文で書いてきた
新キャラが登場しました! 脇役は一杯登場してましたけど......これからは
レギュラー化する予定です。どうぞ、宜しくお願いします。
後、時間があれば今回の新キャラやサブキャラのキャラ紹介、もとい裏設定置き場
みたいなのも書く予定です。そういうのが受け入れる方は楽しみにしてください!
そして、何度も言いますが設定厨の戯れ言が見たくない方も本編に影響は
ございませんので、飛ばして頂いて結構ですw では、長文失礼しました!




