影で動く暗殺蛇
「......はあ。それで、上里からは弁明は有るか?」
生徒指導の教師は俺にそう聞いてくる。時は放課後、昼休みの件についての
話し合い中で山本が一方的に有ること無いこと説明し終えた所である。
気に食わないのは教師が財布を盗んだのは俺だと言う前提で話を進める所だ。
普通、確認とかするだろ。
「いや、弁明も何も、根本から話が違うんですが」
俺は少々やさぐれ気味に教師に答える。
「何が違うって言うんだ? 実際に幻中の財布をお前が山本から
奪ったのは皆見ているんだぞ」
俺は沸き上がってくる負の感情に懐かしさを覚えながら口を開く、
「正確に言えば、俺が山本から財布を盗んだように見える現場、ですけどね。
確かに、俺は山本から財布を取りましたよ。でもその時のやり取りは
誰も見ていない。それなら、俺が本当に悪意を持って財布を山本から奪ったか、
分からないじゃないですか」
俺は決して教師と目を合わせず不良じみた目付きで言葉を紡ぐ。
「はあ......何を子供のようなことを言っているんだ。そもそも、財布を
奪う理由に私欲以外の物なんて無いだろう」
事実の全く異なることを言っているのに余裕の表情で話す教師に俺は
ほんの少しの憤りを感じる。鼻から人の話なんて聞く気が無いようだ。
「いや、違います」
俺は淡々と昼休みの状況を教師に話した。
「そんな馬鹿げた話を信じられると思うか? 山本は極めて模範的な生徒で
犯罪に手を染めるような奴じゃない。しかし、お前はどうだ? 転校生で
私も詳しいことは分からんが佐藤を虐めたり、登校二日目から近藤と
喧嘩したという噂を小耳に挟んだぞ?」
近藤との喧嘩は百歩......いや万歩譲って認めても佐藤とかいう小戸森を虐めていた
性悪女を虐めた覚えは断じて無い。更に言えば、山本が模範的? お前の目は節穴か。
「何だ? その不満そうな顔は? 何か文句が有るなら口で言え」
教師が高圧的な態度で俺に追い討ちをかけ、その横で山本が少し笑っていた。
......哭かしてやる。
「......それなら言わせて貰いますけど。先入観で生徒の話をロクに聞かないって
生徒指導として、学校職員として、教師として如何なものでしょうか?
それに、何ですか小耳に挟んだ? 生徒指導が裏も取れていないような
生徒間の噂を引き合いに出すってどうなんですか? 生徒間の噂って瞬く間に
広まりますけど、広める方と聞く方でどんどん事実が変わっていくんですよ。
勿論、生徒指導の先生なら理解しているでしょうが......それを除いても
自分の話を聞き流されて勝手な評価で決めつけられたら、そりゃあ
不満を感じても仕方がないと思いますけどね」
俺は死ぬほど噛みそうな長文を述べて教師へと反撃する。
いやあ、爽快爽快。
「っ......」
俺の思わぬ反撃に生徒指導の教師は言葉を失う。すると、部屋の扉が開き
「あ、河村先生遅れました。少し、用が有りまして......。何かありましたか?」
宗里先生が入ってきた。生徒指導の教師が俺にボコボコに言われて
黙っているのを見て、宗里先生は不思議そうに聞く。
「い、いえ何も有りません」
生徒指導の教師は少し、動揺しながらもそう答えた。
少なからず、自分に非があったのは理解したようだ。
「それで? 一応ある程度の話は山本から聞いているが、
上里からは何か有るか?」
宗里先生は生徒指導の教師の横に座って俺に聞いてきた。
生徒指導よりも生徒指導感が有るのは何故だろうか。
「ああ、はい......」
俺は宗里先生に先程と同様の説明をした。
「成る程。上里は財布を盗ったのは山本で、自分は悪魔でも幻中に変わって
取り返した、そう言うんだな?」
「はい」
俺はその言葉に頷く。
「幻中は何か分かるか?」
先程からずっと黙っていた幻中に宗里先生は聞く。
というか、静か過ぎて存在を忘れていた。
「・・・申し訳有りませんが、全く」
幻中はか細い声で答える。すると、その様子を見ていた生徒指導が
口を開いた。
「宗里先生、どう考えても可能性が高いのは上里の方でしょう。
実際に幻中の財布を盗った場面は全員見ていますし、上里の言い分も
筋は通っていますが、幾らでもそんな嘘は吐けます。何より、山本と
一緒に食事をしていた女子二人も山本の話が正しいと言っています」
我ながら清々しいほど綺麗に嵌められた物だと辛酸を舐めていると
山本が涙を流し始めた。
「もしかしたら、私なんかが取り返そうとするより先に人を呼べば
良かったかも知れないけど、友達の大切な物が盗られそうになっていて
自然と体が取り返さなきゃって動いたんです。本当です、私は玲奈の財布を
盗ろうとなんてしてません!」
そして、悲劇のヒロインの様に生徒指導と宗里先生に泣きついた。
「・・・・」
不意に幻中はどんな顔をしているのだろうかと思い、幻中が座っている
椅子の方を見ると、幻中は泣いている山本を静かに見ていた。
「......そうだなあ。分かった、もしかしたら人前では言い出せなかっただけで
他に事の顛末を見ていた生徒も居るかもしれん。河村先生、この場で
話を終わらせるのは難しいと思います。色々と調べましょう」
流石、宗里先生有能だ。
「本当に、認める気は無いんだな?」
生徒指導の教師は俺へと聞いてくる。
「ええ、全く」
何故、やってもいないのに認めなければならない。
俺は教師の目を見て断言した。
「じゃあ、宗里先生の言う通り、調べてみますか」
教師は溜め息を吐いて宗里先生に確認した。
それに宗里先生は『はい』と答える。
「三人の保護者には連絡を入れておく。何かわかったら全員こうして
召集するからそのように。これで今日は解散だ」
教師がそう言うと、山本を初めとする室内にいた全員が部屋の外へ出た。
というか生徒指導、山本の方には認める気はないか聞かないんだな。
俺は部屋を出ると、そのまま部室へと向かった。トラブルが起きたとは
言え、部活を休む訳にはいかない。
「・・・あの」
その道中同じく部室へ向かっていた幻中が声を掛けてきた。
「おう、どした?」
俺は何時ものペースで対応する。
「・・・その」
「おう」
俺は幻中の話の続きをゆっくりと待つ。
「・・・貴方は財布なんて盗ってませんよね?」
幻中は心配そうな声色で聞いてくる。随分ストレートに聞かれた物だ。
俺はなんと答えようか暫し迷い、口を開いた。
「盗っていたにしても、盗って無かったにしても、その質問には
普通、『はい』と答えるだろ」
盗っていた場合は保身のために嘘をつき、盗って無くてもそれが真実
なのだからその質問を肯定するのが普通だ。
「・・・それはそうですが......」
幻中は俺の言葉に言い淀んだ。
「ま、上里さんはやってないとだけ言っておく。『信じるか信じないかは
幻中次第です』って奴だな」
「・・・・」
俺がふざけたように言うと、幻中は沈黙する。
あれ、ネタ伝わらなかったか?
「・・・私は......」
「ま、現実的に言うとどちらも信じない方が後々楽だぞ」
何かを言おうとする幻中に被せて俺は言った。
「・・・それは、どういう?」
「俺を信じても、山本を信じても、結局はどちらかが嘘を吐いていることになる。
仮に幻中が俺を信じていたとして、もし俺が嘘を言っていたら、まあ......
ショックだろ? 信頼や期待というものを置くからこそ人間は裏切られたという
感情を抱くことになるんだ。別に信頼や期待を置くことで得られる利益なんて
殆ど無いんだし、あまり人を信じ過ぎないことを勧める」
逆に、過度な期待や信頼をされることでプレッシャーを感じ体調を
崩してしまう者もいる。勝手に期待して、勝手に落ち込む。勝手な信頼を置いて、
勝手に失望する。そんな物はエゴの押し付けにしかなら無いだろう。
「・・・信頼も期待もせず、希望を持たなければ傷つくことは無い」
幻中は立ち止まってそう呟いた。
「・・・最近、忘れていましたが私の持論です。貴方の考えに
似通っている部分があると思いまして......」
「まあ......似てるな」
俺は不意を突かれたように答えた。
「・・・ですが......」
「ですが?」
俺は幻中に言葉の続きを聞く。
「・・・これは期待でも無ければ、信じている訳でも有りませんが
単純な考察として、私は......」
幻中は其所まで言うと、目線を俺の方に向けて、
「・・・貴方が私の財布を盗った可能性は極めて低いと思っていますよ」
と、相変わらず無表情な顔で言った。畜生、こんなこと言われたら
無罪判決を勝ち取るしか無いじゃねえか。
「そりゃそうだろ。事実だからな」
俺は目線を合わせてくる幻中から目を逸らして言った。
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「あ、幻中さんに、祐也君」
部室の前で俺と幻中の姿を捉えた先輩はそう声を掛けてきた。
「おす、白嶺先輩」
「・・・こんにちわ」
俺達が返事をすると、先輩は何やらニヤニヤした顔で
「お、やっと名前で呼んでくれた」
と、言ってきた。
「毎度、毎度名前呼ぶか呼ばないかのやり取りするの面倒になったんで」
俺は部室へと入り、リュックを下ろしながらつまらなそうに言う。
「連れないなあ......」
先輩は何やらブツブツ言っている。
「こんにちわ、全校生徒に犯罪者認定されたクズ君?」
「ほっとけ。後、全校生徒じゃなくて小戸森を抜いた全校生徒だ」
俺は小戸森を指差して毒蛇に言う。
「人のこと指指さないで下さい。後、先輩は財布を盗まなくても
存在自体が犯罪みたいな所あるので、結局アウトです」
あ、あれえ? 学食で滅茶苦茶優しかった天使は何処に行った?
「ああ......学食では濡れ衣を着せられて、濡れ衣を着せた主犯の恋人に殴り飛ばされ
頭を強打して、部室へ行けば犯罪者だの存在が犯罪だのと否定されて......
俺、明日死ぬかもしれない」
俺はわざと哀愁を漂わせて、譫言のように呟いた。
「え、いや、冗談ですよね?.....」
「冗談じゃない。マジでそれぐらい精神的に追い詰められてる」
俺はボソボソと喋る。
「えと、すいません。先輩が色々と大変な時に......その酷いこと
言っちゃって.....」
小戸森は心底申し訳無さそうに謝ってくる。
「小戸森が慰めてくれたら、立ち直れるかもしれない......」
「ええ!? な、慰める......ですか?」
「うん、慰めて。慰めてくれないと死ぬ」
俺は駄々を捏ねる赤子の様に言う。
「ふぇ、えええ!?」
「ほら、早く慰めたまえ! じゃないと死ぬ」
俺は急かすように言う。
「え、ええと、せ、先輩には何時も一緒にご飯とか食べて貰って......
その感謝してます。だ、だから、ええと元気出してください先輩。
先輩は人の物を盗んだりする人じゃないって例え、世界中が分からなくても
ボクが分かってますから......こ、こんな感じで良いですか?」
小戸森は顔をマグマの様に紅く染め、目を回しながら言う。
――ピッ
そして、次の瞬間そんな音が俺のポケットから鳴った。
「え?......」
小戸森は間抜けな声を出す。
「はい、1デレ頂きました。きっちり録音出来たから安心......」
俺が急に声を明るくして、そう言うと、言い終わるよりも早く
手に刺激が走り持っていたスマホが手から消えた。
「......先輩、やっぱり世界中の人間が先輩のことを好きになってもボクだけは
先輩のことを嫌い続けます」
そう言って小戸森は、先程録音した筈の小戸森のデレ台詞が消えた
スマホを返してきた。
「俺の無形小戸森遺産が消えてるんだけど......」
「んなもん、消したに決まってんでしょうが、最低男!」
俺の発言は火に油を注ぐ結果になり、小戸森は持っていたペンケースで
俺の手を叩いてきた。あえて、今日痛めた頭を叩かなかったという所に
めぐめぐの優しさが見え隠れしているが......。
「何をやっているのよ、貴方達は......」
調月は呆れたように言う。やべえ、調月に呆れられたら終わりだぞ!
「部活動中にも関わらず、机に伏せて寝ているお前には言われたくないぞ、調月」
俺がそう文句を言うと調月は『チッ』と舌打ちをして
「あのね、睡眠とは人間にとっても必用不可欠な物なの。とある動物実験では
断眠させた動物は日に日に体重と体温が低下していき、皮膚にも異常を
来すようになり、数週間で死んだという報告がなされているわ。もし、
私が死んだのなら、貴方が今、この時私の睡眠を妨げたせいだと遺書に書くわよ」
と、宣った。コ、コイツ......。
「ま、まあまあ。そ、それで祐也君濡れ衣って何があったのかな?」
俺が怒りを抑えていると、先輩が仲裁に入ってくれた。
「ああ、聞きます?」
俺は嫌なことを思い出したように溜め息を吐いて言った。
「う、うん。出来れば聞いたい......かな? 何か困ってるのなら相談に乗るし」
ちょっと待て、この部活性格良い人多すぎないか?
え、なんか俺蚊帳の外なんだけど。
「ああ、じゃあ説明しますね?」
先輩に俺は本日三度目の説明をした。
「うわあ......」
先輩は何とも形容し難い、ドン引きしたような声を出す。
「まあ、俺はそう言う風に主張しますけど、生徒の中では既に
俺が犯人っていうことになっているらしいです」
「そ、それで? 結局幻中さんの財布の中身は大丈夫だったの?」
先輩は幻中の方に顔を向けて心配そうに聞く。
「・・・確認したところ、盗られた物はありませんでした」
「ま、俺の話が本当だという証拠は何処にも無いんですけどね」
俺は嗜虐的な笑みを浮かべて溜め息を吐く。
「で、でも私は祐也君はそんなことしてないと思うな」
「その心は?」
「何と無く、かな?」
「適当ですか」
「あはは、でも本当にそんな感じがするんだ。それに祐也君そんなこと
したくても出来なさそうだし」
それは、俺のことをヘタレだといっているんですか!? そうなんですか!?
「いやいや、俺には怪盗っていう設定が存在するのをお忘れですか? 白嶺先輩」
「でもって、私は探偵だから君の行動も推理出来るんだよね」
おい、何か言いくるめられたぞ。
「まあ......俺の話はどうでも良いんですよ。有能な宗里先生なら
きっと何とかしてくれるんで。それで、今日の部活動は何なんですか?」
たまに忘れそうになるが、此処は自然観察部だ。決して雑談をするための部活ではない。
「ああ、そだね。まずは......」
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「何か、今日ヤバかったよね」
「ああ、上里でしょ~!」
「でもさあ、玲奈の財布だったら盗んでくれてても良かったかも?」
「ああ、マジそれ~!」
「あの、上里って奴も滅茶苦茶陰キャみたいだったよね~」
「ああ、モテ無さそうだった~」
「モテないから、嫌になってあんなことしたんじゃな~い?」
うるっせえ! 部活が終わり、下校途中聞こえてくるのは二年生と思わしき
女子高生達の話し声。結局今日の部活は感想文を提出したり、郊外学習で
見た生物の生体や名前を調べる作業で終わった。いや、今はそんなことはマジでど
うでも良い。兎に角、女子高生がウザすぎる。誰が陰キャだ誰がモテなさそうだ。
俺のことか!? ああ、俺のことだろうな! なんなの? 今日の騒ぎ
そんな噂になっている訳? 何? SNSとかで晒されんの? 恐ろしいな、おい。
というか、すぐ近くに本人が歩いていること気付いてます? 気付いてたら
それは、それで悪質だよな。
「あ~あ、もっと面白い転校生来ないかな~?」
女子高生の一人がそう言う。いや、上里さん面白いだろ?
娯楽の塊じゃん。それに、来るとしても絶対ロクな転校生来ないぞ。
上里さんの勘が言ってる。
「女子か男子どっちがいい?」
「やっぱ男子かな~」
よし、女子が来ることを祈ってやる。
「でも、女子も悪くないかも~」
よし、男子が来ることを祈ってやる。
「まあ、面白ければ男子でも女子でも良いよね~」
よし、面白味の欠片もない性別不明のクリーチャーが来ることを祈ってやる。
いや、そんなのが来たら普通笑うけどな。てか、この子達マジで俺が近くを
歩いていること気づいてないの? もしかして、暗殺者とか向いているんじゃ無かろうか。ところで、暗殺者キャラって可愛いよね。
やがて、女子高生達はバラバラに別れ俺の家の方角に向かう者は居なかった。
調月は用があったらしく、職員室に行っていたので此処には居ない。
たまに通る、通行人と自転車を除けば俺一人だ。親父にも今日のことは
連絡が行っているらしいし、色々と説明を考えておくか。
ポイント、ブクマ、感想、お恵み下さいお恵み下さいお恵み下さいお恵み下さいお恵み下さい。
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