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前科部!  作者: 蛇猫
前科者達との自然観察
31/108

それでも上里はやっていない


俺は見ていることが女子生徒達に勘づかれない程度に幻中の席の方へ

目を向ける。これを言うのも何回目か分からないが上里さんの勘は異常に

良く当たるのだ。そして、俺の勘は何か起こるかもしれないから、

女子生徒を見張っておけと言っている。もし、何も無ければそれこそ

女子生徒を観察する変態になりかねないが......。


すると、幻中に動きがあった。空のコップを三つ持っている所を

見ると、水を汲みに言ったのだろう。というか、一度に三杯も幻中に

汲ませに行く時点でどうなんだよ。給水器は幻中達の所からはかなり、離れている。

すると、


「はあっ!?」


思わず声に出てしまった。幻中が十分に離れた時、女子生徒は

幻中が席に置いていたバッグを漁り始めたのだ。いや、どう見ても

完全犯罪。気になるのは何を取ろうとしているかなのだが......。

漁っているのは一人の女子生徒、先程幻中に声を掛けた生徒で周りの

女子生徒は何やらキャアキャア騒いでいるが、止める気は無いようだ。


そして、バッグから出したのは長方形のポーチの様なもの。いや、率直に言おう。

『マジもんの財布』を取りやがった。やっぱりかよ、何だかキナ臭い気がしたがマジの

犯罪にあいつら手を出しやがった。観察とか宣ってたけど、すいません!

此処までのことになるとは思わなかったんですうっ!

いや、もうコレ、虐めの範疇に収まって無いよな!? 


「治安悪すぎだろうがよおっ!」


俺は転校してきた高校に悪態を付いて、女子生徒達が座っている

席の方へ走っていった。


「おい!見たぞ、見たからな!? 現行犯逮捕ぉっ!」


あれ、なんか俺のテンションおかしくね?


「あ? 何を見たって? 上里君?」


いやいや、この状況でしらを切るのは無理が有りすぎだろ。

言い訳マスターの上里さんなら、もうちょっとマシな手を打つぞ。


「何を見たってって......いや、お前の持ってる財布誰のだよ」


「財布? そんなもの持って無いけど?」


女子生徒は財布を後ろに隠して、そう言う。


「いや、思いっきり後ろに隠してるだろ、それ誰のだよ」


「後ろって......どうしてそんなことが分かるの? 其処からじゃあ

 見えないでしょ?」


確かに今の俺の位置からは見えないが、確かに先程急いで

隠していたのを見た。


「じゃあほら、後ろを見せてみろよ」


「嫌よ、貴方に見せる義務は無いでしょ」


そう言いながら、女子生徒はそおっと後ろに手を伸ばして

財布があるであろう位置に手を届かせた。恐らく、横に座っている

生徒に渡そうとしているのだろう。その証拠に意図に気付いた生徒は

下から手を伸ばして受け取ろうとしている。しかし、一瞬幻中の財布が

俺の目に映ったのを見逃さず、その財布を女子生徒から証拠に奪おうとした。

意外にも女子生徒は俺が財布を奪おうとする力に抵抗せず俺に財布を渡してきた。

観念したのかと思いきや、次の瞬間女子生徒は急に声を高くして、


「泥棒! スリが出たー! 助けてください!」


と、叫んだ。その叫びは騒がしかった学食に一瞬の静寂をもたらし、

その一瞬が過ぎると、静寂を更なる大きなざわめきへと変換させた。


「ちょっ、先輩!?」


俺の昼食を買った小戸森が帰ってくるなり、驚愕の声をあげる。


「皆さ~ん、この2ー3上里祐也君が同じく、2ー3幻中玲奈さんの

 財布を盗みました~! 勝手に玲奈のバッグを漁って財布を

 取ったから私は止めようと思って一瞬取り返したけど、この人に無理やり

 突き飛ばされて、財布を取られたんです~!」


確かに端から見ると、俺はこの女子生徒から財布を力ずくで

奪ったような体勢になっていてどう考えても俺が悪者にしか見えないだろう。


「い、いや違うって。俺は奪ってない!」


我ながら、小物の様な発言をしてしまった物だ。

何処から見ても、俺が犯人なのにこんな分かりやすい言い訳

更に俺が犯人である信憑性を高くしてしまうだけだ。


「うわあ、あの人達のこと良く知らないけど絶対やったなら

 あの暗い人だよね」


「うんうん、何か不良みたいに目付き悪いし暗そうだし。

 そもそも、あんな女の子が嘘言う筈無いじゃん」


周りのざわめきは全て、俺への批判と女子生徒を庇うような

言葉ばかり。完全に嵌められた。


「おい、俺の夢華に何やってんだよ! てめえっ離れろっ!」


極めつけはこれだ。今回の事件の主犯格である女子生徒の交際相手だろうか、

黒髪で細目の体の男が野次馬の中から飛び出してきて俺を殴り飛ばした。

頭に鈍い音が響き、俺は床に頭と体を打ったことを悟った。

俺は男に殴り飛ばされて、仰向けに倒れたのだ。


「っ......」


俺は言葉にならない激痛を押し殺して、男の方を向いた。


「夢華、大丈夫だったか!? ケガは!? 突き飛ばされたんだろ?

 保健室行くか!?」


男は女子生徒に詰めよって、質問を浴びせる。基本引きこもりの

俺は勿論、怪我なんて殆どしない。だからこそ、激しい痛みは耐え難い物だ。


「だ、大丈夫だよ井上君。それより......これ」


井上と言うらしい、男に女子生徒が見せた物は幻中の財布だ。


「あ、ああ。幻中さんの財布だなっ!? 幻中さ~ん!

 出てきてくれ~!」


男はそれを受けとると、人だかりへとそう呼び掛けた。見たところ

名札は銀色、2年生のようだが幻中のことを下に見ていない様だ。

その声が響くと、野次馬の中から水を取りに行っていた幻中が

歩いてきた。


「・・・これは、どういうことでしょうか?」


幻中は井上の持っている財布、横でわざとらしく井上にくっついて

嘘泣きをしている女子生徒、周りに集まっている野次馬、そして、

仰向けで倒れている俺を見て確認するように井上に聞いた。


「いやあ、夢華、いやコイツが言うにはさあ。幻中さんの財布を

 其処の男が奪おうとしたんだってよ。コイツは幻中さんの財布を守ろうと

 財布を奪い返したんだけれど、其処の男の力に負けて突き飛ばされたんだってさ。

 これ以上、夢華に何かあるといけないし今にも暴れそうだったから無力化しておいた」


いや、暴れる気なんてさらさら無いから。っ......頭が、骨が痛む。


「・・・そう、なんですか? 山本さん」


幻中は財布を取ろうとしていた女子生徒、山本夢華に聞く。

どんどん、名前が出てくるな。


「ぐすん。うん、ごめんねっ玲奈。私がもうちょい力が強ければそんな男に

 お財布奪われずに済んだのに。ひっぐ、ひっぐ。うわあーん」


棒読みのわざとらしい嘘泣きにも周りは感情移入してしまうらしく

更に俺への批難が野次馬から殺到する。


「・・・本当なんですか?」


「ほ、本当だって! だって私は」


「・・・貴方には聞いていません」


幻中の言葉に食って掛かる山本に幻中はそう言った。

そして、その問が俺に向けて問われた物だと理解した。


「なあっ!?」


「・・・今の話、本当ですか?」


声を荒らげる山本を無視して俺に幻中は聞いてくる。


「......全部、出鱈目だ」


俺は事実を伝える、その事実を幻中が果たしてどのように

受けとるのか、分からないがわざわざ此方が折れてやる筋合いは無い。


「・・・そうですか」


「え、いや、ちがっ!......」


俺の言葉を聞いて何かに納得する幻中に山本は抗議の声をあげる。

そして、何故山本の話を信じてやらないのかという批難の声が

幻中にまで降り注いだ。


「・・・では、実際に私の財布を盗った所を目撃した方は居ますか?」


幻中がそう言うと辺りは静まり返った。俺は女子生徒に注意するとき

大声を出していなかったので周りも現場は見ていなかったのだ。


「わ、私! 私、見てたわよ。上里君が盗る現場!」


「私も、私も見てた!」


すると、山本の取り巻きの女子生徒達二人がそう騒ぎ立てた。


「・・・他には?」


幻中の質問に再び周りは静まり返る。


「な、何よ! 玲奈は私を信じないって言うの!?」


「・・・そんなことは言っていません」


「じゃ、じゃあ!」


「・・・ですが、完全に信用するには証拠が」


成る程。自惚れでは無いと信じたいが、恐らく幻中は俺が本当に

そんなことをしたのか疑っているようだ。それなら......。


「幻中、もういい」


下手なトラブルに発展する前に止めておく。

その一手に限るだろう。


「・・・ですが......」


「はあっ!? 何よもう良いって!? 貴方がそんなこと

 決めれる立場じゃないでしょ!」


山本の声に周りも『そうだそうだ』と俺に罵声を浴びせてくる。


「分からないか? こんなところで言い合いをしていても一向に決着が

 着かない。詳しいことは教師を絡めて......で、どうだ?」


俺は下卑た笑みを浮かべて言った。


「それは......」


山本は俺の提案に言葉を濁した。


「別にやましいことが無ければ、断らないよなあ~?

 それとも、もしかして教師の調べが入ったら不味いことでも

 有るのか? 俺が悪でお前が善。そう言えるんなら別に良いだろ?」


俺は依然として、仰向けになったまま山本を煽った。


「お前! 何も其処まで言う必要無いだろ! 夢華は嘘なんかついてないよな? な?」


怒りに震える山本を井上はどう勘違いしたか、俺にそう叫んで山本に確かめた。

大方、怒りで震えているのを男の俺に煽られて震えているのだとでも捉えたのだろう。

周りからは『女の子を泣かすなんて最低』やら『見るからに性根腐ってそう』だのと

聞こえてくる。なんだ? お前らは男なら泣かせて良いとでも思っているのか?

後、性根腐ってるのは否定出来ん。


「う、うん。井上君。分かったわ、昼休みが終わったら教師も合わせて

 話をしましょう。玲奈もそれで良いよね?」


周りから見れば、泣きそうになりながら幻中に同意を求めている

風に見えるが、山本の目は確かに憎しみを込めて俺も睨んでいた。


「・・・はい」


幻中は小さな声で同意する。


「それじゃあ、決定な。まだ、昼休みが終わるまでに時間が

 有るから、俺は飯を食いに戻らせて貰うぞ」


俺は軋む体に鞭打って、立ち上がり席の方へ戻っていった。

それを見送ると、一人、また一人と俺達のいさかいを囲んで見ていた野次馬が

消えていき最後には全員席に着いた。


「よっと。小戸森、待たせたな......小戸森?」


俺が席に着いて、小戸森に話し掛けると小戸森は返事を返さなかった。


「おーい、どうした小戸森。先輩が格好良すぎて見惚れたか?

 そうなら仕方な」


「馬鹿じゃないですかあっ!?」


俺が何時ものノリで小戸森に話し掛けると、急に小戸森が叫んだ。


「こ、小戸森さん?」


「何が、『先輩が格好良すぎて見惚れたか?』ですか!逆です、逆!

 また、厄介なことに巻き込まれて! おまけに男の人に殴り飛ばされて頭部を強打ぁ?

 格好悪すぎます! アホ! 低脳! もう少し、後先を考えろってんですよ!」


「あの、小戸森キャラが。キャラが崩れてる。」


俺は小戸森の罵倒なのか説教なのか分からない言葉に圧倒されながら指摘する。


「......すいません。少し、取り乱しました。怪我は有りませんか、先輩」


小戸森はむすっとしながら聞いてくる。


「ああ、まだ痛いけど多分大丈夫だ」


俺は打った箇所を擦りながら言う。


「本当に......ボクが何でさっき焦ってたか分かります? 先輩が幻中先輩の事を

 聞いてきたとき嫌な予感がしたんですよ、だから、先輩が幻中先輩の取り巻きの

 人達と絡まないように気を逸らそうとしていたのに......」


「いや、それに関しては本当にすまん」


俺は手を合わせて、『この通りだ』と謝る。


「はあ、先輩が本当に馬鹿なのは分かりましたけど、結局何が

 あったんですか?」


「は?」


俺は小戸森の質問に俺は思わず疑問の声を出してしまう。


「だから、結局何があったんですか?」


「いやお前、山本の話聞いてなかったのか?」


確かに山本が周りに叫んだ時、小戸森も居た筈だ。


「山本......ああ、あの生徒さんですか。聞きましたけど?」


「いや、聞いたのに何でまた俺に聞くんだよ」


俺の言葉に小戸森は呆れたようにため息を吐き、


「なんですか、先輩。ひょっとしてボクのことを馬鹿にしてます? あんな出鱈目

 信じる訳無いですし、大体先輩も認めて無かったじゃないですか。

 付き合いは短いですけど、先輩がそんなことする人じゃ無いって分かってますよ?」


・・・・。


「それ、本気で言ってるのか?」


「勿論です。どうせ、汚いやり口で嵌められたんでしょ。

 ご飯食べながらでも良いんで、話してくださいよ。

 あ、まだ頭が痛むようなら保健室に行きますか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「小戸森、お前さあ」


「はい?」


目を見れば分かる。今の言葉は哀れみからでも偽善からでもなく純粋に、

その言葉が本当に強い意味を持つことも考えず無意識に俺に放たれた言葉だった。

そういう事を言う奴の事をなんと言うんだっけか......ああ、そうだ


「天使だわ」


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