晴れのち曇り
暑い、季節は梅雨。気温は夏。俺は冬生まれだからなのか無茶苦茶暑さに弱い。
どれくらいかと言うと、真冬でも扇風機をかけるレベル。更に言えば、
湿気が強いのも嫌いだ。したがって、湿気が強く気温が高い今年の梅雨は
控えめに言って地獄。早く教室に入って涼みたい。そんなことを思考しながら
俺は高校の校内に入り、廊下を歩いていると俺の方へ誰かが近寄ってきた。
「あ、上里君ジャーン」
誰だお前。お前のようなリア充の塊みたいな知り合いは居ないぞ。
後、その『ジャーン』は効果音なの? それとも『~じゃん』を
伸ばしたものなの?
「人違いだ。俺みたいな見てくれの悪いやつと間違われるお前の友人も気の毒だな」
俺は声を掛けてきた金髪の男にそう諭す。
「いや、上里君って言ったじゃんかよ~」
「ばっか、俺以外にも上里居るかもしれないだろ?」
「ええ~?」
金髪の男――有馬、有馬......某は間抜けな声を出す。
「用がないんなら、教室に行くぞ」
「ややや、ちょっと待ってて~。ほら、前科部って久しぶりに
活動して、郊外学習いったらしいジャ~ン?」
有馬は軽く聞いてくるが、有馬の言葉には聞き逃せない部分があった。
「......自然観察部が郊外学習に行ったこと、何故知った?」
郊外学習については、俺は誰にも言っていない。宗里先生が教師の間で
情報を共有することは有るだろうが、わざわざ他の教師が生徒にそんな
ことを教える意味は無いだろう。それに、幻中も小戸森も調月も先輩も
人に伝えるなんてことはしないだろう。
「ええ? 普通にみんながそうやって騒いでたけどお? 違うん?」
流石、現代高校生の伝達力。多分、駅で解散するときに見られてしまったの
だろうが、やはり侮れない。
「さあ、どうだろな」
下手に認めても、否定しても面倒臭いことになりそうなので
ぼかしておく。
「ええ~? どっちなのよお?」
「別に言う義理は無いだろ。てか、何でお前俺の名前知ってんの?
上里ガチ恋勢なの? そういうのに有りがちなメンヘラ?」
「ほらさあ、キミってば有名ジャーン? だかんだよ」
コイツの言葉聞きづらいの俺だけ?
「いや、先輩も似たようなこと言ってたけどだなぁ。俺のどこに
有名要素有るんだよ」
色々あってまだ聞けていないが先輩と初めて会ったときに、そんなことを言っていた。
此処でコイツから聞いておけばわざわざ聞かなくて済むし良いか。
「えっとねえ? まず、転校生でしょお?」
うんうん、転校生が来たら話題になるもんな納得。
うん? 今、『まず』って言ったか?
「それでえ、自己紹介の時に~ノリの悪いKYみたいな発言をして~」
おい、悪評じゃねーか。それに俺はKYではなくAKYだ。
「幻中さんの横の席で~」
......まあ、其処は確かに要因の一つだろうな。
「近藤正人に喧嘩を売ってえ~」
売ったんじゃない。売られたんだ。絶対にその辺の事実曲げて
噂したやついるだろ。先生、怒らないから出てきなさい。
後、近藤の下の名前は明らかに間違っている。お母さん、近藤は
正人という名前とは正反対の育ち方してますよ。
「佐藤恵美にも因縁付けて~」
誰だよ佐藤恵美。あれか、並んでる小戸森に絡んでた女か。
いや、あれも別に因縁なんか付けてないだろ。
「ほんでもって、前科部に入部して~、ほら有名になる理由
たくさんあるでしょ~?」
た、確かに......。え、何? 俺ってば知らない内に有名人に
なってたの? 成る程。俺に人が近寄ってこないのも俺が
有名で人気過ぎるが故に近寄りがたいんだな。何だ、そうなら
早く言ってくれれば良かったのに......嘘です、すんません。
「はあ......マジかよ」
有名になる、とは聞こえが良いが俺の場合悪評が流れているだけだ。
近藤も佐藤も中々のスクールカースト上位者のようだし面倒臭いな。
「それでさあ、何故に前科部に入ったのお?」
「んなもん決まってるだろ? 自然観察部何だから自然が好きで
入ったんだよ。他に理由有るか?」
「へえ......」
ほんの一瞬。それこそ瞬きをしてしまえば見逃すほどの一瞬。
有馬の目が変わった。先程までのアホそうなタレ目から獲物を狩るような
ツリ目へと。
「ま、そだよね~。でもさあ、前科部って学校の皆に嫌われってるっしょお?
部員も部活も。自分が一人になって、前科部の部員と同じような
待遇になる可能性もあんのに、そこまでして前科部行きたかったの~?」
しかし、一秒もしない内にその目はまた、元に戻り先程と同じような
喋り方を有馬はしてくる。
「まあ、そういうことだ。俺は別に嫌われても構わんしな。
ほら、某クラフトゲームだって最初は失うものなんて無いから宛もなく
さ迷ったりするだろ? 俺も同様に元より好感何てもの持たれてないから0が
-1に変わっただけで別にショックでも何でもない」
ある意味無敵、鉄壁、向かうところ敵なし。尚、物理的な
虐めには負ける模様。
「おい、有馬~! こっち来いよ~!」
「先輩が試合のことで話があるって~!」
俺が有馬の質問に答えていると遠くの方から汗だくの
生徒達が有馬へと声を掛けてきた。
「あ、上里君メンゴ~友達が呼んでるから行くね~」
有馬は謝る振りをすると、運動部の思わしき人物の方へと
駆けていった。
「ちょっと、有馬あれって上里祐也じゃんか。お前、何で
あんなのと話してたんだ?」
「え、マジもん? ヤバくね? あの上里だろ? えっヤバぁ。
お前、あいつが学校で滅茶苦茶浮いてるの知ってるだろ。
それに、あんな陰キャみたいな奴とつるむのは世間体云々抜きでも
止めとけって。俺達が居るんだしさあ」
「......ん~。そもそも、彼の方がお断りな気がするけどね」
「ん、何か言ったかあ?」
「え、何も言ってないってぇ~。 ご忠告感謝するぜい」
何やら有馬と同じ部活だと推測される運動部の部員二人が会話をしている。
有馬が途中で言っていた内容は聞こえなかったが、俺が無茶苦茶なことを
言われていたのは聞き取れた。というか、俺がマジもんの上里祐也じゃなかったら
偽物って誰だよ。
.......『それにしても友達が呼んでいる』、か。俺は有馬が別れ際に放った
言葉がずっと引っ掛かっていた。
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「幻中って昼食何時どうしてるんだ?」
昼休み、俺は幻中にそれとなく聞いた。昼休みに幻中が
何時、何処かに行っているのは知っているので教室で弁当を
食べている訳では無いのだろうが、学食でも見たことがない。
「・・・私、ですか?......私は」
幻中は何やらリュックの中に手を入れて中身を漁っている。
そして、幻中が俺の質問に答えようとしたとき、
「ねえ、玲奈? 久しぶりに一緒にご飯食べない?」
と、幻中に向かって話し掛けてくる女子生徒が居た。
突然の言葉に幻中は戸惑った様に
「・・・何故......ですか? 貴方は.....」
と、何かをいいかけたが女子生徒は幻中が話し終わるのを
待たずに言葉を被せてくる。
「別に『友達』とご飯を一緒に食べる理由なんて無いわよぉ。
ねえ、上里君もそう思うよねえ?」
コイツの俺への呼び方有馬と被るな......。まあ、普通に考えて転校生何て言う
距離感の難しい相手には名字に君づけが妥当か。
「生憎、『友達』とやらが居たこと無いんでな。分からん」
俺は見た感じ有馬よりも悪意が籠った目をしている女子生徒に嗜虐的な笑みを
浮かべてそう言う。
「うわあ、寂しい~。でも、玲奈には私がいるもんねえ~?」
女子生徒が幻中に顔を近づける。百合は嫌いではないのだが
滅茶苦茶やり取りを聞いていると気持ちが悪い。
「・・・・」
「ほら、何か言いなって~。ほらさあ、皆も居るから久しぶりに
一緒に食べよう? 学食なんでしょ?」
そう言うと、女子生徒は後ろを向いて他の女子生徒を指差した。
それが、『皆』と言う奴なのだろう。
「・・・はい」
「そ、なら話が早いわ。一緒に学食行きましょ。皆も玲奈と一緒の方が
良いよね~?」
「勿論だよ。最近皆、部活が忙しくて部室でお弁当食べてたから
中々、玲奈と食べれていなかったけど、今日は久し振りに
皆、学食でゆっくり出来るんだ~」
「うんうん、久し振りに4人で食べよ」
というか、コイツら何処かで聞いた声だと思っていたら俺が近藤と
トラブってた時に幻中の陰口叩いてた奴らじゃねえか。
「・・・分かりました。宜しくお願いします」
幻中は何かを堪えるように顔を下に向け、絞り出したような声で
女子生徒に応答する。何だろう、凄く胸糞悪い。
「じゃ、行こー」
俺が形容出来ない、気持ちの悪さを感じていると幻中と
女子生徒達は先に行ってしまった。俺は幻中達が教室から
出ていったのを確かめると幻中が先程まで漁っていたリュックの
中を少し覗いてみる。其処には綺麗な布にくるまれて存在感を
放っている箱が入っていた。
「......やっぱりか」
俺はそう呟くと、少し急ぎ気味に学食へと向かった。
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「先輩、自棄に遅かったですね」
学食に行くと直ぐ目に留まる所に小戸森が座っていた。
「まあ、ちょっとな。それより、幻中見なかったか?」
俺の質問に小戸森は少し黙り、無言で一点を指差すと口を開いた。
「......あれですか?」
小戸森の指差した所には確かに幻中と先程の女子生徒達が
机に座って飯を食っていた。やはり、幻中は居心地悪そうにしている。
しかし、
「別に、これと言って何もなさそうだな」
そう、確かに幻中は楽しそうでは無いが、これと言って
本人の言っていた虐めの様な物は無さそうなのである。
「な、なら良いじゃないですか。ボクたちはご飯を食べましょう?
あ、そうだボクが先輩の分も買ってきてあげますよ」
小戸森は少し、焦ったようにそう言った。何時もの小戸森ではない。
目を見れば分かる。何時ものジト目では無く、何かを心配している
見開かれた目だ。先輩程の感情を読む能力は無いが、少しくらいなら
俺にも分かる。
「......ま、良いけど。そう言うんなら、今日はうどんでも食うか。
ほれ、金。買ってきてくれ」
俺はそう言って、バッグの中から財布を出して小戸森に金を出す。
小戸森が何に焦っているのかは知らんが、聞いても教えてはくれないだろう。
「分かりました。直ぐに買ってきますから、先輩はきちんと座っていて下さい」
「おう、善処する」
小戸森の言葉に俺はそう答える。善処って良い言葉だよなあ。
俺の言葉に小戸森は多少訝しげな目を向けてきたが何を言っても
無駄と悟ったか、小戸森はそのまま学食のカウンターへと
向かっていった。
「......さてと、人間観察、開始だな」
俺の意味ありげな呟きは食事をする生徒達の声に消えていった。




