Quod Erat Demonstrandum
「じゃあな。今からだと風呂に入る時間もあると思うから上手くやれよ。
私は早速、温泉に入ってくる」
先生は俺達を部屋に送るとそう言って、自分の部屋に帰っていった。部屋は結構広く
これなら5人でも余裕で布団を敷けそうだ。清潔感も合わさって中々良い感じである。
「先輩、今何時ですか?」
「5時半だね。丁度、夜ご飯まで2時間もあるし先にお風呂入っちゃおうか」
「了解です」
俺はそう言うと、荷物の中から着替えやバスタオル等、風呂に必要な物を取り出して
浴場へと向かった。
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俺が風呂から部屋に帰って本を読んでいると、幻中が帰ってきた。
「おう、幻中早かったな。先輩達は?」
「・・・まだ、入浴中だと思います」
「そうか」
幻中はバスタオルや着替えを入れた袋をカバンの中に入れるとその場に座った。
また、幻中と二人きりか。幻中が嫌いな訳ではないのだが、やはり気まずい。
そんなことを思っていると幻中が此方に顔を向けて
「・・・少し、外に出ませんか?」
と言ってきた。
「今からか?」
「・・・はい。丁度宿の付近に綺麗な夜景の見える場所があるので」
「分かった。行くか」
幻中が何故、俺をそんなことに誘ったのかは分からないが取り敢えず誘いに
乗ってみることにした。
「・・・ありがとうございます」
そして、俺達は宿から外に出て目的の場所へと向かった。季節は梅雨だが暑さは
近頃の初夏と同等だ。
「......暑いな」
俺は歩きながら、幻中に話し掛ける。
「・・・すみません」
「いや、別に幻中は悪くない。悪いのはこの気温だ」
「・・・そう、ですか」
「ああ」
それから更に歩いていくと、開けた場所に出た。綺麗な夜景が見える落ち着いた
雰囲気の場所だ。目の前には木製の柵がつけてあり、その下は崖のようになっている。
落ちたらひとたまりもないだろう。
「・・・綺麗ですね」
幻中は独り言のように言葉を漏らす。先程まで昇っていた日も落ちてしまったらしく
遠くを見れば街の光が、周囲を見れば暗闇が見えて神秘的な雰囲気が漂っていた。
「バスで来たから良く分からなかったが結構高かったんだな。俺達が居る場所」
俺は見知らぬ街の光に目を向けてそう言う。
「・・・確かに、私も此処まで高いとは思いませんでした」
周りには一本の街灯が設置されているだけで光源は殆どないため、見えるのは光に
照らされた幻中の顔と夜景だけ。そんな状況で俺は焦燥感でも、期待でもない興奮を
覚えていた。徹夜明けの興奮や動悸に近いだろうか。苦しいような、楽しい様な良く
分からない感情だ。
「なあ、幻中」
「・・・はい」
「単に夜景を見に来た訳ではないんだろ? 何の用だ?」
俺の質問に幻中はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「・・・少し、貴方と話がしたかった。それだけです」
「というと?」
「・・・私が虐められていることはご存知ですよね」
「......まあ、一応」
先輩にも聞いたし、実際陰口も聞いている。虐めをどう定義するかにもよるだろうが。
「・・・しつこいと思われるかもしれませんが、何度も言います。私と関わるという
ことは二年生の多くを敵に回すことに繋がります。私は......」
暗くて顔は良く見えないが、その声は震えているようだった。
「私は、貴方が私を虐げる側に回っても文句は言いません」
幻中は喉から声を絞り出すように、今にも泣き出しそうな声でそう言った。
「あのな、幻中」
「・・・はい」
「俺が自然観察部から抜けてお前とも関わらないようにしたとする。
それで、何か変わるか?」
「・・・それは、また虐めの矛先が私に向いて......」
幻中が言い終わる前に俺は口を挟む。
「どうだかな。実際、俺が転校してきた初日からクラスの俺への印象は悪かった
みたいだし。どっちにしろ、俺もお前と似たようなことになるだろ」
幻中は前々から自分と関わることで俺が虐めの標的にされることを心配してくれていた
みたいだが、近藤や女版の近藤の怒りを買っているのでどっちにしろ俺が嫌がらせの
対象とされるのは確実だろう。
「・・・でも、貴方が私を虐める側に上手く回れば貴方の第一印象を揉み消すことも
出来ると思いますが」
「まあ、確かに。上手く繕って、周りに合わせながらお前を虐めれば済む話かもしれないな」
俺の言葉に幻中は何も言わない。
「そうすれば、俺は虐められないし嫌がらせも受けない。世間様の言う友達って奴も
同時に手に入れる事ができる。......ま、現実問題そんなことは不可能だろうがな」
「・・・え?」
幻中は不意を突かれた様な声をだす。
「そもそもだ。俺がそんな世渡り上手に見えるか? いや、やっぱり言うな。
上里さん、自分のことは一番分かってるから」
そもそも、世渡り上手ならこんな状況になってないだろう。ぼっちでコミュ障の
典型的なヲタクだぞ、文句あっか。
「・・・つまり、どういうことですか?」
「簡単だ。俺には現状維持以外に選択肢は無いってことだよ。自然観察部を抜けて
幻中とも関わらなくなっても俺に対しての利益は一つも無い。先輩や小戸森と
別れるのも嫌だしな」
「・・・また、貴方はそう言うんですね」
幻中は俺の方を見て言う。
「と言いますと?」
「・・・私は何度も貴方に言ってきました。私と、自然観察部と関わるとロクな
ことが無いと。それでも、幾ら私が言っても貴方は聞きませんでした」
「悪かったな。でも、俺は自然観察部から、幻中玲奈から離れるつもりはないんだ」
「本当に」
幻中は俺の言葉を聞いて、何かを言った。
「ん?」
「本当に、貴方は私から離れて行かないんですか?」
幻中は掠れた声で聞いてくる。
「お前が実は凶悪な殺人鬼とかじゃなかったらな。てか俺としてはお前が俺から
離れていく可能性の方が高いと思うが」
「うっ......く......」
俺が軽口を叩いていると、突然幻中が呻き始めた。
「幻中!?」
苦しそうに呻く幻中に俺は近寄って背中を擦る。緊急事態だしセクハラにはならないよな!?
「うぅ......ああ......」
背中を擦っていた手に重い感覚が走る。幻中が後ろに倒れて来たのだ。俺は幻中の横に
回って、膝枕の要領で幻中の背中を手で支えながらゆっくりと膝に凭れさせた。脳裏を
過るのはこの前、小戸森が言っていた幻中が倒れていたという話。幻中の持病なのだろうか。
「幻中! 幻中! 聞こえるか?」
雑学なんて覚えている暇があればこういった場合の応急措置か何かを学んでいれば良かった。
こんな山奥だが、救急車を呼ぶしかないと思って俺はスマホを取り出す。
「・・・すいま、せん」
俺が救急車を呼ぼうとスマホの電源を点けた時、幻中は確かにそう言った。
「幻中、今救急車を呼ぶから安静に......」
「・・・大丈夫、です。私、たまに目眩がする体質なので」
幻中はまだ目眩がするらしく、途切れ途切れにそう言った。
「本当に大丈夫か? 心配掛けたくないとかだったら」
「・・・いえ、違います。違いますから大丈夫、です」
「分かった。なら、もう少し凭れとけ」
俺は自分の膝に仰向けで倒れる幻中の位置を調節して、幻中に負荷が
掛からない体勢にする。
「・・・すみません」
「いや、こっちこそすまん。俺の膝なんかで」
いつか膝枕をされてみたいとは思っていたが自分がする側になるとは夢にも思って
いなかった。てか、何だこの状況。さっきは焦ってたからやってしまったが冷静に
なると意味不明過ぎる。
「・・・もう、大丈夫です」
幻中はそう言って起き上がった。
「そうか。それじゃあ、そろそろ夕飯だし帰るぞ」
「・・・はい。先程はお見苦しい姿をお見せしました。先程のことは忘れてください。
少し、感情的になってしまっていたみたいです」
「......善処する。本当に体は大丈夫なのか?」
「・・・はい、お陰様で。有り難う御座いました」
「おう。んじゃ、早歩きで宿に戻るか」
「・・・はい」
その後、俺達は暗闇の中を進んで無事に宿へたどり着いた。今まで何度も幻中と似たような
会話をしてきたが、今日は特に濃かった。まあ、何はともあれ今回で俺は絶対に自然観察部
から抜けたり、幻中を虐めるグループに入る気は無いということが示せただろう。
更新遅れました、結構忙しくて(汗)
これからも見て頂けると幸いです。
そして、どうか評価、感想、ブクマお恵み下さいw




