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前科部!  作者: 蛇猫
前科者が集う部活
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紫色の本屋にて


「ここは......駄目だな。ブログがあまり書かれてないし、此処も人が多そうだ」


 土曜日が過ぎ去り、時は月曜日へのカウントダウンが始まる日曜日の午前中。俺は一人自室に引きこもり調べ物をしていた。


「マジでロクな所が無いな。まともな緑茶公園一つも無いぞ......」


 そう、企画書の執筆である。何しろ、自然観察の基本的なフィールドと言える緑地公園の類いがこの街には全く無いのだ。俺が企画書に苦労する訳である。


「別に、その辺に生えている草木や虫を観察するとかでも良いんだろうが、折角なら自然の中で観察したいよなあ......」


 そんな言葉を溢しながらパソコンに別ワードでヒットしないかひたすら検索をする。親父は趣味のスポーツジムに行ったし、この家に居るのは俺だけだ。


「たく、何でこんな自然の無い地域の高校に自然観察部なんて物があるんだよ。せめて、自然科学部とかだったら他にやりようもあっただろうに......」


 そんなことを言いながら俺は、また検索ワードを変えて検索してみる。すると気になるタイトルのブログを発見した。


「えーと、なんだって?『自然溢れる、命の聖域』......ねえ」


 ブログには何やら大層なタイトルが付けられており、内容は自然豊かな山道の宿が宣伝の為に自然観察の紹介をするものだった。数多くの野性動物が生息しており、自然観察に最適らしい。この街からは少し遠いが、電車を使えば1時間もかからない距離のようだ。

 どうせ自然観察なんて休日に行くんだし、少し遠くても良いだろう。宿は......日帰りの俺達には関係の無い話か。


「まあ、月曜日に幻中と調月が来るのかって話だがな」


 部活に来なかった幻中。俺と言い合いになり、帰った調月。二人が揃わない事には何も始まらない。月曜日にちゃんと来るかも怪しいし。


「シジュウカラとヒヨドリにイソヒヨドリ......だろうな」


 気晴らしにコンビニにでも行こうと、外出した俺はブツブツと不審者のようにそう呟いた。何をしているのかと言うと、勿論、聞こえてきた鳴き声から鳥の種類を断定しているのだ。


「お? 本屋なんてあったのか」


 コンビニに到着した俺が見たものは、コンビニから数軒先の本屋の看板だった。


「後で行くと、アイス溶けるな」


 行くのであれば、コンビニより先に行った方が良さそうだ。俺は本屋へと行き先を変更した。丁度、暇をしていたので良い暇潰しになるだろう。

 早速、本屋に入ると、中はかなり賑わっており、レジにはかなり長めの列が出来ていた。流石に大型ショッピングモールの中にあるような店と比べるのは酷だがただの道にある本屋としては十分な大きさと言えるだろう。


「自然観察部で役立ちそうな本があれば買うか」


 俺がそれなりに知識があるのは鳥類だけであり、植物、昆虫、魚等になると全く分からない。この機会に踏み込んで見るのも手かもしれない。

 それっぽい本が並ぶコーナーを探し出し、どんな本が有るだろうかと辺りを見渡すと、何やら見覚えのある人物が立ち読みをしていた。

 紫の長髪に悪い姿勢、溢れる陰キャ感。そう、調月雹霞(つかつき ひょうか)だ。


 喧嘩別れみたいな関係になってしまっている調月とまさかこんな所で再会するとは思いもしなかった。話しかけるべきだろうか。それとも、このコーナーを立ち去るべきだろうか。俺は悩んだ末に気付いていないフリをして調月がどう出方を伺うことにした。俺は本を手に取り、わざとらしくペラペラと捲る。


「・・・・」


 だが、調月は全く俺に気付く素振りを見せず、食い入るように本を読み続けていた。そんなに本が面白いのだろうか。僅かに疑問を持ちつつも俺は引き続き本を読むフリをし続けた。


 ......俺が本を読むフリを初めてから約40分。暇なので実際に本を読みながら調月が気付くのを待っていると、やっと本を読み終えたらしく、彼女は本を売り場に置いた。買わないのかよ。


「ふう......え?」


 息を吐き、新しい本に手を伸ばした時、やっと彼女は俺に気付いた。


「ん? おお。よう、調月。こんな所で会うとは奇遇だな」


 俺は白々しくも今初めて調月の存在に気付いたかのように振る舞う。


「え、ええそうね......。あ、チッ」


「思い出したように舌打ちするな」


「......帰るわ」


 ちょっと待て。今、帰られたら、関係を修復するために待っていた俺の40分が無駄になる。


「逃げるのか?」


「は?」


「いやあ、金曜日と同じように今日も逃げ帰るつもりなんだな、と思ってな」


 引き止めるためとは言え、何言ってるんだ俺。そもそも、逆に関係悪化しそうだし。


「私はただ本を読み終わったから帰るだけ。其処に勝ち負けなんて存在しない」


 うん。その通りだよ調月。


「どうだかな? お前、別の本を読もうと手を伸ばしてたじゃねえか。それなのに俺と会った瞬間、お前は帰ろうとした。俺如きに自分の計画を狂わされたお前の負けだ」


 自分でも自分が何を言っているのか分からないが、兎に角、彼女に帰られたら困る。


「女子高生を観察....もしもし警察ですか? 此処に性犯罪者が。はい、場所ですか?」


 すると、彼女は突然、スマホを出してそう言い始めた。


「おい、止めろ。それマジの前科持ちになる奴だから」


 前科持ちの部活に入るどころか、牢に入って罪を償わないといけなくなる。


「いっそ、前科持ちじゃなくて終身刑になれば良いのに......」


「で、結局、どうなんだよ。お前が俺と目が合っ瞬間、手を引いた理由」


「はあ、面倒臭いわね......そうよ。貴方の横で本を読むのが不快だから帰る事にしたのよ。これで満足? .......それにしても何故、貴方は日曜の昼からこんな所に居るのかしら?」


 調月はどうでも良さそうに聞いてくる。


「俺が本を買いたかったからだが」


 どうやら、直ぐに帰るつもりは無くなったらしいので素直に答えた。


「そういうことじゃない。何故、数ある本屋の中から此処なのか、と聞いているのだけど」


「そりゃ、家から一番近い本屋だからだよ。他の本屋知らねえしな」


 俺がそう言うと、突然、調月の体が硬直し始めた。


「う、嘘でしょ? 此処、私の最寄りの本屋でもあるのだけど......」


「非常に残念だが、変わることのない事実だ。まあその、なんだ。お互い家も近い訳だし......」


 あまり険悪にならないようにしよう、そう言おうと思ったのだが。


「これからは少し遠いけれど別の本屋に行く事にするわ」


 と、調月は断言した。どれだけ俺のことを嫌いなんだお前は。


「でも、それってお前的に良いのか?」


「どういうこと?」


「それって、わざわざ、俺が居るかもしれないがために遠くの本屋に行くという無駄な労力を使わないといけなくなる訳だろ? 合理主義のお前としてどうなんだ?」


「......一理あるわね。確かに私が貴方ごときの為に労力を使う必要が無いのも事実」


「いや、ストレートに言われると結構傷付くんだが。まあ、そういう事だ」


「貴方のために時間と労力を割くのは癪だし、これからも此処の本屋を使うことにするわ」


「さいですか......。あ、俺そろそろ帰るけどお前どうする?」


 特にめぼしい本は無かったし、俺は当初の目的であるアイスの購入を遂行しなければならない。あまりこの本屋に居る意味は無いのだ。


「私もそろそろ帰ろうかと思うわ......。貴方と帰るのは嫌だから少し時間をずらすけれど」


「本は買わないのか?」


「大体、気になる本は立ち読みで読破したから大丈夫よ」


 ......猛者だ。


「いや、買ってから家で読めよ」


「家より、外の方が好きなのよ」


 そういう問題じゃないと思う。


「意外だな。お前は外より家の方が好きだと思ってた」


「貴方ね......私と会ったのはまだ二回目よね? その程度の付き合いで私のことを推し測ろうだなんて考えは止めなさい。確かに外よりも、落ち着ける屋内が好きなのは認めるけど」


「じゃあ、家帰れよ」


「残念ながら、私の家は条件を満たしていないの」


 調月は僅かに顔を曇らせて言う。


「はい?」


「いえ、何でもないわ」


 調月は誤魔化す様に言った。


「......そうか」


 何か事情があるのだろうが、其処まで踏み込むのも違う気がする。


「じゃあ、そろそろ私も帰る事にするわ」


「俺も帰るが......時間ずらすとか言うのは、どうなったんだ?」


「貴方の理論よ。帰りたいのに、貴方如きの為に帰る時間を調整しないといけないなんて面倒臭いわ」


「じゃあ、帰るか」


「ええ、そうね」


「あ、月曜日は部活来いよ?」


 調月に俺は念を押す。


「・・・善処するわ」


 善処って良い言葉だな。


「いや、マジで来いよ?」


「・・・・」


 物凄く心配だ。

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