上里祐也の下した判断
「ふう、雪加のケーキも調月の紅茶も旨かったな」
滅茶苦茶というか、いつも通りというか、前科部クオリティの狂った誕生日
パーティーに出席し、部活を終えた後、幻中と俺は俺の欲しい物を探すために
街をブラブラと歩いていた。
「・・・はい。絶品でした。私は何をお贈りすれば良いでしょうか」
「う~ん......。中々、思い付かないんだよな」
今の俺にはこれといって欲しいものがないから、というのもあるだろうがそれよりも
欲しいものが思い付かない大きな理由として今、幻中と二人きりでいることがある。
今まで一友人として彼女と二人で何処かに行くことはあったが、いざ、自分が彼女に
恋をしているという自覚を持った状態で彼女と居ると頭が全然回らないのだ。
「・・・そう、ですか」
幻中は困った様子で俯く。ああ、可愛い。愛おしい。幻中と恋仲になれたらどれだけ
良いことかと思う、が、彼女には想い人がいるのだ。雪加は今日のデートで告白しろと
言ってくれていたが、はっきり言って振られるのは目に見えている。それでも、玉砕
覚悟でツッコむべきか? ううむ。
「なあ、幻中」
「・・・はい」
「そう言えば、幻中の好きな人と何か進展はあったか?」
取り敢えず、探りを入れて見よう。
「・・・進展、ですか」
「そう」
「・・・その人のことが段々、嫌いになってきてはいます」
幻中の口から嫌い、なんてドストレートな言葉、初めて聞いたわ。
「いや、何があったし」
俺がそう聞くと、無言で足を彼女の足で小突かれた。え。
「・・・申し訳ありません。足が当たってしまいました。嫌いは流石に冗談ですがその人があまりに腹の立つ行動をするので最近、イライラとしているのです」
「だから最近、幻中は不機嫌っぽかったのか」
「・・・そうかもしれませんね」
幻中は何処か呆れたような、投げやりな口調で言う。
「俺の誕生日プレゼントのことなんだけどさ」
「・・・はい。何か、決まりましたか」
「......いや、やっぱり良い」
「・・・言ってください。予算はかなり有ります」
幻中は俺の言葉に食い下がる。
「いや、こればっかりは金の問題じゃないんだ。変なこと言おうとして悪かった」
「・・・ではせめて、何と言おうとしていたのかだけ教えて下さい。それならば宜しいですよね?」
どうにか、誤魔化そうとする俺に幻中は一歩も退こうとしない。まだ、誤魔化せたかもしれない。後には引けない状況であったのは確かだが、他にも選択肢はあった筈だ。しかし、俺は彼女の言葉にこう返してしまった。
「......幻中」
「・・・どうしましたか?」
「あの、さっき言おうとしてた言葉なんだけどさ」
穴が有ったら入りたいというのはまさにこの事。ヤバい、恥ずかしい。帰りたい帰りたい帰りたい。
「・・・ええ」
幻中が首を傾げる。俺は緊張とあまりの恥ずかしさで足がガタガタと揺れた。雰囲気は
全然ロマンチックじゃないし、場所は本屋の前でムードは最悪だが、んなもん知るか。
これが上里祐也の生き方じゃ。ええい、ままよ!
「誕生日プレゼントは! 幻中玲奈が! 良い! 俺はこの前! 幻中の笑顔を見て! 完全にまもまもに惚れちゃったの! ああ、恥ずかし。死ねる。あ、マジで死ぬ。今、脈拍計ったらエグいことになってるんだろうなああああ!」
俺は体温の上昇を感じながら発狂した。ああ、駄目だ。本当に興奮し過ぎて死ぬかも。
「・・・冗談、ではなく?」
「これが冗談だったら、俺はこんなに茹でダコみたいになってねえよ!」
「・・・成る程。上里君は誕生日プレゼントに私を所望と」
幻中は顔色を一切、変えずに確認をしてくる。止めて。そんな冷静に対応しないで。
「そうだよ! 無理だろ!? さあ、盛大に振ってくれ! それが俺の誕生日プレゼントで良い!」
「・・・私も今、少し混乱しています。お互い、冷静になりましょう。私の家は此処から直ぐなので、一先ず落ち着くために行きませんか?」
思いっきり、振られてスッキリする予定だったのにお預けを食らってしまった。
まあ、突然、告白されたらそら混乱するよな。俺はそう思い、頷いた。
☆
そんなこんなで幻中の家に着いたのは良いのだが、彼女の家に着くなり俺は
幻中に抱き付かれてしまった。
「あ、あの、幻中さん?」
「・・・必死に平静を装っていたのですが、貴方に告白されたという事実が現実味を増してきたので流石に耐えられなくなりました。恥ずかしさから、今の私の顔はとても貴方に見せられない状態になっているので顔を見られないように抱き付かせて頂きました」
「いやあの、柔らかくて良い匂いで俺としては嬉しいんだけどさ。こういうのはやっぱり
好きな相手とやるべきだと上里さんは思うのよ。幻中は好きな人が居るんだろ?」
バクバクと己の心臓が拍動するのを感じながら、俺は何とか平静を装ってそう聞いた。
「・・・それ、貴方です」
ポツリと、一言。
「え」
「そもそも、私の恋愛対象になり得るような人が貴方以外に居ると思いますか?
私の知り合いはあの部活の方々と蜂須賀さんくらいのものですし、私は貴方と
会ってからずっと貴方にお世話になってきました。初恋の理由には十分過ぎます。
貴方はやはり、変なところが鈍いですね。まあ、私も貴方が私を選んでくれるとは
夢にも思わなかったのですが」
幻中が早口で俺に畳み掛けるようにそう言ってくるので俺は状況を整理するために
暫しの間、沈黙し、ふと出てきた疑問を彼女に投げ掛けた。
「じゃあ、幻中が不機嫌になってたのってもしかしなくても俺のせい?」
「はい。貴方が自分の好きな人は誰なのかを探していたとき、ことごとく貴方が
私の存在を忘れていたからです。特に知り合い全員の魅力を探してみる、と
言っていた時は提案者の私をスルーするということをしていましたよね。自分が
選ばれる筈はないと思っていたものの、少し腹が立ちました」
幻中は不機嫌そうに俺を抱き締める力をぎゅっと強めた。あれかあ......。
「も、申し訳ありませんでした! 今思えば、幻中のことを一番恋愛対象として
意識していたから恥ずかしくて無意識的に忘れてたのかもしれないです!」
「・・・まあ、最終的に私を選んでくれたので許しましょう」
「ありがとうございます」
それにしても、本当に幻中の体は柔らかい。彼女のペタンコな胸もこうして
抱きつかれると、僅かに膨らみがあることに気付く。永遠にこうしていたい。
「・・・上里君」
「はい」
「・・・改めて誕生日おめでとうございます。プレゼントです」
そう言うと、幻中はそっと俺の頬にキスをした。その柔らかな触感に俺の体が固まる。
「あ、有り難く受け取らせて頂きます。じゃあ、そろそろ、顔を見せてくれないか?」
「・・・お断りします」
「ええ......」
「・・・まだ、顔が紅いと思うので」
俺はキスをしてきたところまでは積極的だったのに、急に弱気になった彼女の顔を
無理矢理、自分の肩の上から外して観察した。
「あ、可愛い」
思わず、そんな声が出てしまった。幻中の顔は何時も無表情な彼女の物とは思えない
程に真っ赤になっており、口許は緩み、何処かバツの悪そうな表情をしている。
「・・・強引ですね。貰ったばかりのプレゼントなのですからもう少し
丁重に扱って頂きたいです」
「何の前触れもなくキスをしてきた奴には言われたくない」
「・・・すみません」
「其処で謝るの止めて? 何か俺が悪いことしたみたいになってるから」
俺は苦笑しながら彼女に言う。幻中が此処まで冗談を言ったり、感情表現を
してくれるようになって嬉しい限りだ。
「・・・上里君、時間は大丈夫ですか?」
「ああ、うん。どうせ、明日土曜日だし。親にも連絡してるから余裕」
「・・・でしたら、夕飯も食べていって下さい。もう少し、貴方と結ばれた
余韻に浸りたいです」
そう言って静かに笑う彼女は何物にも変えがたく、溜め息が出るくらいに
美しかった。
見事、前科部は100話を迎えることが出来ました! これもひとえにこの小説を読んで下さった読者様方のお陰です!
本当に、本当にありがとうございました! 前科部はこれにて完結......ではありません! 取り敢えず、この話が本編の最終話にはなりますが、後日談やサイドストーリーのようなものをちょっとずつ更新していくつもりです!
リアルが忙しいのと新作の執筆もしないといけないので投稿頻度は少し、落ちるかもしれませんがまだまだ前科部は終わらないのでどうか、宜しくお願いします!
あ、感想、評価、ブクマ、レビューも宜しくお願いします!




