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前科部!  作者: 蛇猫
進み始める日々と不安
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誕生日


「祐也君、誕生日おめでとう!」


12月22日、部活に行った俺は先輩のそんな言葉に迎えられた。


「おめでとう」


「おめでとうございます、先輩」


「ハッピーバースデイ! 上里君」


「誕生日おめでとう、上里」


「わざわざ、受験で忙しいのに来てくれてありがとうございます。先輩。

 皆もありがとう」


雪加を初めとする部員の面々に誕生日を祝われる中、俺は調月に視線をやった。


「こんにちわ」


「いや、祝えよ。俺もお前の誕生日、祝ってやっただろ」


調月の誕生日は俺よりも丁度、11日早い12月11日だった。その時、俺は彼女の

好きな紅茶の茶葉を誕生日プレゼントとして送ってやったのだ。プレゼントに

見返りを求めるのは間違いだろうが、せめて祝いの言葉くらい欲しい。


「たんじょうびおめでとうあなた」


「心が籠ってないんだよなあ」


「注文が多いわね。宮沢賢治?」


「注文の多いって言葉と宮沢賢治って名前から注文の多い料理店に行き着くのに

 結構、時間要したわ。分かりにくい喩えすんな」


まあ、最近は周囲の変化が凄まじいので安定の調月で安心はするのだが。特にここ

数日間、ずっと俺を悩ましているのが


「・・・誕生日、おめでとうございます」


そう。幻中玲奈、その人である。


「おう、ありがとう」


この前の上里さんガチギレ事件の時、俺は初めて見た幻中の笑顔に惚れてしまったのだ。

俺はあの時、彼女の笑顔をずっと見ていたいと思った。可憐で美しく、割れ物のような

彼女の笑顔を。きっと、あの気持ちが俺の中の『好き』なのだろう。そう思ったのだ。

思えば、前から他の奴らとは積極的に絡めるのに幻中が相手になると少し、恥ずかしく

なってしまうことが少なからずあった。


もしかしたら、その頃から彼女を恋愛対象として認識していたのかもしれない。

こういうときって、どうしたら良いのだろうか。やはり、告白すべきか? その場合

雪加には何か言った方が良いのか? いやいや無理無理。それって、雪加を振ることと

同義ぞ。キツいって。


「それじゃ、皆で上里君にプレゼントを渡そうか。はい、どうぞ」


俺が人知れずそんな葛藤をしていると、先輩がそう言った。よし、折角の誕生日だ。

嫌なことは忘れて、楽しもう。俺は先輩から小箱を受け取り、そう決心した。


「開けてみて良いですか?」


「どうぞ~」


その小箱を開いていくと、中にはアルバムのような物が入っていた。


「これは......」


「一年間、私がカメラで撮っていた部活動の様子の写真を纏めてみたんだ。

 初めて、自然観察に行ったときのとか懐かしいのがたくさんあるよ」


ペラペラと捲ってみると確かにそのアルバムの中には部活動の写真がたくさん

張ってあり、一つ一つ何時の何をしているときの様子か注釈が書いてあった。


「うわ、クオリティたっか。ありがとうございます!」


普通に滅茶苦茶嬉しいし面白いプレゼントだった。


「どういたしまして!」


「じゃあ、次は私の番。はい、プレゼントっていうのか微妙だけど誕生日ケーキ。

 流石に生のケーキは学校で保管できないからシフォンケーキを焼いてきた」


雪加はそう言って可愛らしいラッピングをした長方形の箱を渡してきた。

なんと、手作りらしい。


「ありがとな。後で皆で食べようぜ。雪加の菓子に間違いはないから」


「あ、じゃあ、次はボクが渡します。ボクは無難に安納芋にしました」


小戸森はそう言うと、小さな手でかなり大きな段ボールを持ち上げ俺に渡してきた。

やはり、結構重みがある。安納芋とは焼き芋にすると、アンコのようにトロトロに

なる品種のサツマイモのことだ。


「無難とは何か、という難しい疑問を投げ掛けてくるようなチョイスだな。

 ありがとう。家に帰って、焼き芋にさせて貰う」


「僕と井上君はこれ! たくさんのビーツ!」


「......ちょい待て。え、何、誕生日プレゼントに農作物を渡すのって普通なの?

 というか、安納芋はまだ分かるとしてビーツって何だよ。何に使えば良いんだよ。

 ボルシチくらいしか分からんぞ。いや、ありがたく頂くけど」


「悪い、上里。有馬が二人で大きなプレゼント渡そうって言ってきたから金を

 渡したら勝手にこんなのをネットで買ってきやがったんだ」


何やってんだよ有馬、とよく分からないプレゼントに俺が戸惑っていると

俺の顔めがけて何かが飛んできた。


「へぶしっ!?」


その何かは俺の顔とぶつかり、地面に落ちる。俺が何だろうと拾い上げてみると

どうやらそれは紅茶の茶葉らしかった。俺がこの前、調月にあげた茶葉の店と

同じところのまた違う種類の茶葉だ。


「感謝しなさい」


「誕生日プレゼントを人の顔に投げつけるとか前代未聞だから」


「良いから、黙って受け取りなさい」


「うん。まあ、その、サンキューな」


プレゼントを投げ付けてくる辺りは調月らしかったが、きちんとした

プレゼントを彼女が用意していたことに俺は驚いた。


「・・・あの、上里君」


調月から受け取った紅茶と雪加が焼いてきてくれたシフォンケーキを見て

心が潤うのを感じていた俺に幻中は恐る恐る、といった風に話し掛けてきた。


「ん?」


「・・・この後、空いていますか?」


「ああ、うん。特に予定はないが。どったの?」


「・・・貴方に喜んで頂けるようなプレゼントを必死に考えたのですが、どうしても

 これといった物が思い付かなかったので今、プレゼントを用意出来ていないのです。

 そのため、この後、貴方の意見を聞いてプレゼントを買いに行きたいと思いまして。

 申し訳ありません」


萎む幻中に俺は首を振る。


「謝らないでくれ。そもそも、プレゼントを渡すか渡さないかなんてその人の

 匙加減な訳だし。そこまで俺のことを考えてくれてた、ってだけで嬉しい。

 そういうことなら、何か買って貰いに行くよ」


「・・・ありがとうございます」


てか、それって幻中との実質的なデートじゃん。いやもう完全にそれ自体が誕生

日プレゼントなんですが。そんなことを考えていると雪加が俺の近くに寄って

耳打ちをして来た。


「おめでとう」


「......っ!?」


「折角だし、ついでに告白してこれば?」


周りに聞こえない程度の本当に小さな声で雪加は言う。俺は驚いて彼女の顔を

見ると、彼女は少しだけ笑っており、その表情はからかうようにも、何処か

寂しそうにも見えた。


「いや、え、あの、その」


「どうしたの? 大丈夫?」


先輩が動揺して変な声を出してしまった俺に心配そうに聞いてきた。


「あ、はい。すみません。少し、寒気がしただけです」


「あ~最近、一気に冷え込んだもんね」


「そうなんですよ。俺、冬は好きなんですけど寒さには其処まで強くなくて」


必死に誤魔化す俺に雪加は更に耳打ちをする。耳がヒクヒクと動いているのは

動揺のためか、それとも彼女の息がこそばゆいためか。


「祐也、私が気付いていないと思っていたの? 幼馴染みなんだから気付かない

 訳がない。私は応援してる」


「......お前は、それで、良いのか?」


俺は自分が出せる声の中で最も小さな声を出して、彼女に聞く。例の如く、雪加に

隠し事が出来ないのは分かったが、雪加は仮にも俺に想いを寄せてくれていたのだ。

何も思わない筈がない。


「良くはないけれど、仕方がない。それが祐也の決断だから。それに、もう悲しい

 気持ちとかは消えた。祐也が玲奈のことを好きなんだって気付いた時点で感情を

 整理したから。頑張って」


やはり、勘解由小路雪加は強い。俺は彼女に申し訳ない気持ちになりつつも

静かにありがとうと、礼をした。

99話だあああっ! 

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