第5話まずは義姉のスパルタマナーレッスンから始まります
「背筋! 顎を引きなさいって言ったでしょう! その立ち方じゃ、誰がどう見ても『気後れしている』と思われるわよ!」
「〜〜〜っ、お姉様、スパルタすぎません!?」
同盟を組んだ翌日から始まったのは、まさに地獄のマナーレッスンだった。
レイカの指導は容赦がない。歩き方、グラスの持ち方、おじぎの角度に至るまで、ミリ単位のズレも許さない徹底ぶりだ。完璧主義の血が騒いでいるのか、それともこの前叩いてしまった罪悪感を隠すためにわざと厳しく接しているのか。
(……まあ、絶対に後者だろうけどね)
「次は社交ダンスのステップ! ほら、足が止まってるわよ!」
「はいっ! えーっと、右足から……っと!」
慣れないドレスとヒールに苦戦しながらも、私は必死についていく。元ヤン根性と営業時代の体力だけは伊達じゃない。
数時間後、ようやくレイカお姉様から「今日のノルマは終了」の宣言が出た。
「ふい〜〜……死ぬかと思った……」
私がその場にへたり込むと、レイカお姉様はツンと澄ました顔で紅茶を一口啜った。けれど、その視線はチラチラと私の足元や、腫れの引いた頬に向けられている。
「……別に、いじめたいわけじゃないんだから。無理なら無理って言いなさいよ」
「平気ですよ! これくらいで泣き言いってたら、一人前の令嬢になれませんからね!」
私はニッと笑い、あらかじめ用意しておいた冷たいハーブティーのカップをお姉様の目の前に置いた。
「これ、どうぞ。喉、乾いたでしょう?」
「……なによこれ」
「鎮静効果のあるハーブに、ほんの少し蜜を入れた特製ドリンクです。ストレスでお腹壊されたら困りますからね。お姉様、ここ数日まともに喉通ってないでしょ?」
プレッシャーとか、まだ課題はあるようだが、1つずつ解決していけば良いと思っている。
「っ……余計なお世話よ」
文句を言いながらも、レイカは冷たいカップを手にとり、一口飲んだ。
「……悪くはないわね」
「でしょう? さて、マナーを教えてもらったお返しに、今度は私がお姉様に『嫌味な貴族の撃退法』を伝授します!」
「撃退法……?」
怪訝そうな顔をするレイカお姉様に向かって、私は前世の営業時代に培った不敵な笑みを浮かべた。
「いいですかお姉様。社交界で嫌味を言われた時、一番やっちゃいけないのは『真に受けて傷つくこと』と『感情的に言い返すこと』です。相手が欲しいのは、お姉様の狼狽えた顔なんですから」
「……で?どうしろっていうのよ」
「簡単です。『フルスロットルの営業スマイル+華麗なスルー』です!」
「は……?」
期待はずれだったのか、ポカンとするレイカお姉様をよそに、私は前世で理不尽な取引先をあしらってきた「元ヤンOL式・無敵のメンタル術」を具体的に語り始めた。




