第二話:信仰が冷めかけていた聖女、冷笑の真理に開眼する
「……ふぅ。やっぱり静かでコストパフォーマンス最高の飯に限るな」
パーティを離脱した僕は、街の隅にある大衆食堂で、一皿3コッパーの謎の煮込み料理をつついていた。
無駄な人間関係の維持費もゼロ。勇者アレンの根性論に付き合わされる時間的損失もゼロ。
これぞまさに、タイパ至上主義者の理想郷だ。
ニチャァ……と口角を上げながら一人で満足感に浸っていた、その時だった。
バンッ!!
食堂の扉が激しく開かれ、店内に場違いな清廉さが広がった。
そこに立っていたのは、僕を追放した勇者パーティの専属ヒーラーであり、街の教会で『奇跡の乙女』と称される聖女——クレアだった。
彼女は室内を見回すと、僕の姿を捉えた瞬間に瞳を輝かせ、まっすぐに席へと歩み寄ってきた。
(……チッ、嫌な奴が来たな。勇者をバカにされた腹いせに仕返しでもしに来たか?)
僕はうんざりしながら、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げた。
「何の用ですか、クレアさん。僕はもうパーティーをクビになった身です。今更『回復役が足りないから戻ってくれ』なんて情緒的な泣きつきをされても、僕の時給に見合わないのでお断りしますが」
だが、クレアから返ってきたのは怒声でも泣きつきでもなかった。
彼女はどこかすっきりとした、悟りを開いたような顔で僕を見つめていた。
「いいえ、レイン様。逆です。私は……ずっと探していた『答え』をあなたからいただいたお礼を言いに来たのです」
「……答え?」
クレアは迷いなく僕の向かいの席に座ると、静かな、しかし熱を帯びた声で語り始めた。
「実は私……ずっと前から、神への信仰心なんて冷め切っていたんです」
「……は?」
「教会は『神の愛を信じれば奇跡が起きる』と説きますが、私にはどうしても理解できなかった。どれだけ真摯に祈ろうが、傷が治るスピードは【消費魔力と細胞伝達率】の計算式通りにしかならない。愛だの慈悲だのという抽象的な感情は、回復の成功率にコンマ1%すら寄与していない……。神の愛なんて、最初から存在しなかったんです」
クレアの瞳には、長年抱いてきた信仰への冷ややかな冷徹さが宿っていた。
「教会や勇者アレンが語る『愛の力』なんて、都合のいい感情論の押し付けです。でも、誰もそれに疑問を持たない。だから私はずっと、自分の冷めた思考を隠して聖女のフリをしていました……。けれど先ほど、あなたがアレンの気合論を『データの裏付けがない感想だ』と一蹴した時、確信したのです」
クレアは身を乗り出し、まっすぐに僕を見つめた。
「世界を動かしているのは、感情でも神でもなく、冷酷なまでの物理法則とデータなのだと! あなたこそが、この世界の真理を唯一見抜いているお方だと……!」
(うわぁ……元から冷めてた奴が、僕のレスバを見て変な方向に吹っ切れたパターンだこれ)
僕は心の中で激しく引いた。
だが、元から冷めていたというなら、冷笑系ゲーマーとして追い打ちをかけてやるのが礼儀というものだ。
僕深々と溜め息をつき、いつもの半目で彼女を冷たく見下ろした。
「ハァ……そこまで分かっていて聖女のフリを続けていたんですか? 信仰心ゼロのまま神職にしがみつくとか、精神的コストもタイパも最悪なんですけど。自分の思考すら一貫させられないのは、ただの自己保身ですよね?」
【論理的否定】
僕の冷酷なロジックが、クレアの中にわずかに残っていた「聖女としてのタテマエ」すらも完全に打ち砕く。
その瞬間——クレアの全身から、これまで彼女を縛っていた「聖なる光」が完全に削ぎ落とされた。
「あ……あぁ……っ! すごい……! レイン様に『無駄だ』と指摘された瞬間、頭の中に残っていた不必要な祈りのプロセスが完全に消去されました……っ!」
クレアの手元に、冷たく無機質で、完璧に最適化された回復エネルギーが収束していく。
「見えました……! これが『概念の最適化』……! 信仰という無駄なノイズを完全に捨て去ったことで、私の回復魔法は消費魔力1で全回復する【絶対修復】へと昇華されました……!」
「……えぇ?(どん引き)」
「レイン様! 信仰心が冷め切っていた私に、本当の『世界の理』を示してくださりありがとうございます! 今日から私は、あなたという真理に一生ついていきます!」
「要らないです。維持費がかかるので」
「『要らない』と冷たく切り捨てるその合理性……痺れます……っ!」
僕が露骨に嫌そうな顔をすればするほど、クレアの「冷笑認識フィルター」が発動し、勝手に忠誠度が爆上がりしていく。
こうして、とっくに神への信仰を失っていた聖女は、僕の冷笑スキルによって「愛を完全に捨て、効率と数値のみを追い求める最凶の狂信ヒロイン」へと覚醒してしまったのだった。
第二話です!
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