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銀貨一枚

 ──どっから見つけてきたんだい? それは銀貨だよ。

 知らないのなら幸せさね。ヒヒ、だから教えてやろう。

 これがこの国の銀貨で、こっちが──ん? この金貨はどこのだったか……。

 ……まあ、どこのものでも同じさ。

 いいかい、このちっぽけな金属は危なっかしいが面白い。

 ちょいと転がしゃ、人が見せない顔ってものを見られるからねえ。





 それが母なのか単なる同族なのか定かではないが、オークの男の遠い記憶には、毛皮の腰巻と磨き上げられた骨の胸当てを誇らしげに身に纏う女のオークの姿があった。


 交易都市の酒場でオークを名乗る人間の女は、しかし確かにオークの装束で身を固めていた。


 女はオークを一目見るなり夜の森の獣が如く目を見開き、とびかかるように近づいてきた。



「お前!! オークだな!!」



 目の前だろうと街の外まで響きそうな大声で話されれば、嫌でも聞き取れた。


 男が紛れもなく本物のオークであると、他でもないオークの女が言い出したことで、酔客たちはざわめき立った。


 男が何者であろうと、新たな挑戦者の登場を囃し立てる者も多くいた。


 女は周囲の喧騒を歯牙にもかけず、それでいて牙を剥くような笑みで男の両腕を掴んだ。



「私と戦え!! なあ!! お前オークだろ!! 戦え!!」



 しなやかに伸びる腕は見た目よりも強い力で硬い皮膚に爪を食い込ませたが、オークは女に取り合わず、ミアネイラを探して首を巡らせた。


 男のオーク相手ならいざ知らず、酒場で人間の女と決闘を行う道理を彼は持ち合わせていなかった。


 背後のミアはほんの一瞬何かを思案したようだったが、オークと目線を交わすと頼もしく頷き、女との間に割って入ってくれた。


 そして女と、野火のように輪を作って騒ぎ立てる周囲の野次馬を鎮めるように、冷静な視線で見回した。


 男は胸をなでおろし、小さな背中を眺めながら、この後のささやかな食事と柔らかな寝床を思い描いた。


 少女が口を開く。



「この決闘ッ!  パオラシェナ商会のミアネイラ・パオラシェナが仕切らせていただきます! 一口銀貨一枚から!」



 本物のオークは、瞬く間に積みあがる銀色の山を、ただ茫然と見つめていた。





 風に炉の番を任せてはならない。 ──オークの(ことわざ)


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