表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
嵐を呼ぶ者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/295

アイリ「マリーちゃぁぁん! 今日と言う今日は御仕置きさせて貰うわよ!」

「ひ゛ゃ゛ぁぁあ゛ごめんなさいアイリさんごめんなさい」


カンパイーニャに戻ったマリーが「出がけに他所の船に迷惑を掛けて行った罪」でアイリに捕まり、船長室に引き摺り込まれて御仕置きされている頃。前作の舞台コンウェイにほど近い海上を、二隻の船が進んでおりました。


このお話は三人称で御願い致します。

 日が落ちて、西の水平線に赤みが残る、黄昏たそがれ時。

 アイビスとレイヴンの間にある海を、古いコグ船のような船体に、変造したマストを二本立て、三角帆を三枚張った奇妙な船が進んでいた。

 相当な荷物を積んでいるのか、かなり喫水が深くなっている。


「船長、おかしな船ですよやっぱり。とても金を持ってるようには見えねえ」

「じゃあ何をあんなに積んでいるんだ、土砂を積んでこんな所まで漕ぎ出して来る訳はないだろう」


 その船を追跡していたのは甲板長は30m弱、二本マストのピンネース船で、レイガーラントの商船を装った、海賊船だった。


「だけどここはレイヴン本土に近過ぎませんか、海軍が来たら厄介ですよ」

「奴等だってこんな田舎の方まで警備する力は無いだろ、根こそぎ奪おうってんじゃねえんだ、行き掛けの駄賃に、少々の餞別せんべつを頂こうって話よ」


 国籍も人種もバラバラの海賊達は、とにかくその船に近づいてみる事にした。その船はかなり船足が遅いようで、近づいた所で危険は無く、都合のいいカモであるように見えたからだ。



 ピンネース船は次第に変造コグ船に近づいて行く。コグ船の乗組員の方もピンネース船の接近に気づいたようだが、特に警戒した様子も無く、そのままの進路で南へ進み続けている。


「おーい!」


 ピンネース船の海賊が手を振ると、甲板に居た、だらしなく肥満した男が手を振り返して来る。


「おぉーい!」


「随分、荷物が、重そうだなー!? そんなに積んで大丈夫かー!!」


「ハッハー! 積荷は全部、石炭さー! たいした事ねえよー!」


 石炭は臭いも煙も木炭よりだいぶ酷いので、人気の無い燃料である。値段も木炭の半分以下だ。


「どうします? 石炭ですって」

「石炭なんか積むのは面倒臭ぇな……でもよ、あいつあれだけ太ってるって事は、すげえ金持ちなのかもしれねえぞ」

「なるほど、そうかもしれませんね、じゃあやっぱりやりますか?」

「そうだな、やろう。よし、旗を取り替えろ」


 ピンネース船の海賊達は南レイガーラントの商船の旗を降ろし、甲板へと飛び出す。


「船を止めなデブ! 俺達ゴールデンバット王国海軍が積荷を検める!」

「違法な品は没収させてもらうからな! ハッハー!!」


 正体を現した海賊は、でたらめな名前を名乗りコグ船に停船を迫る。


「ひ、ひええっ海賊だー! 帆を張り増せ、逃げるぞ!」


 コグ船の肥満した男は動揺し水夫達に指示を飛ばすが、コグ船には張り増すような帆は見当たらず、水夫達も右往左往するばかりで何も出来ない。


「ちょろい獲物ですね、親分!」

「お前ら、石炭なんか要らねえから金だけ奪うぞ!」

「おう!」


 海賊達は熊手や鉤縄かぎなわを持って待ち構える。


「た、た、助けてくれぇぇー!」


 コグ船の男達がただ狼狽うろたえる中、やがて二隻は接舷する……その、瞬間。


「なーんちゃって」


 肥満した男、通称機械音痴のロブは、手投げ弾のような物をピンネース船の甲板に投げ込んだ。それは破裂して凄まじい白煙を吹き上げる。


「なな、何だこれは!?」「何も見えねえ!」「くそッ、獲物を逃がすなッ!」


「ヒャッホー!!」


 次の瞬間。一人の男が奇声を上げ、コグ船の帆桁ヤードからロープを使って飛び、一気に、白煙に煙るピンネース船の甲板へと飛び込んだ。たちまち、


「ギャッ!?」


 一人の海賊が煙の中から吹っ飛ばされたように飛び出し、海へと落ちる。


「ぐわあっ!」「ぐへえっ!」


 続いてまた一人、一人と。煙の中から投げ飛ばされた海賊が、海へと転落する。


「な……何だこの野郎は!?」


 白煙は、風に吹かれて次第に晴れて行く……そして薄れゆく煙の中から現れたのは。七色の刺繍のある覆面をすっぽりと被り、真冬のレイヴン沖だと言うのに上半身は裸で下半身はパンツ一丁、足にはシューズを履いた筋骨隆々の中年男だった。


「私はッ! 愛と正義と愛娘まなむすめの味方! キャプテン・コンドルー!」


 男は海賊の一人にヘッドロックを決めたまま、ポーズを取る。


「な……何をこのイカレポンチが!」


 抜き身の半月刀(シミター)を持った海賊の一人が、怒りに任せて覆面男(コンドル)に斬りつけようとするが。


「ぐぎゃああ!?」「があ!」


 凄まじい勢いで飛んで来た味方の海賊にぶつかり、吹き飛ばされる。覆面男(コンドル)が、小脇に抱えていた海賊を投げつけたのだ。


「畜生、囲んでぶちのめせ!」


 ピンネース船の海賊船長は子分達にそう指示を飛ばす。その次の瞬間。


「御望み通りだァァ!」


 真横から飛んで来た男がその船長の横腹に飛び蹴りを浴びせ、さらに革巻きの短い棍棒で横面を張り倒す。


「ぐへっ……」「お、親分!?」


 抵抗する隙も与えず、海賊船長を殴り倒してしまったのは、あまり背の高くない若い男だった。その男は何故か、レイヴン海軍士官の服を裏返しにして着ていた。


「俺が海賊船ストームブリンガー号船長(キャプテン)! マイルズ・マカーティだァ! 鼻血を流すのが好きな奴から掛かってきャあがれ!!」


 掛かって来やがれと言いながら、マカーティと名乗った男は手近な海賊に次々と襲い掛かり、短い棍棒で海賊達の白刃をかわしながら、顎や側頭部に一撃を加えて行く。


「だ、誰が船長(キャプテン)だよふざけんな、ストームブリンガー号の船長(キャプテン)は俺だァ!」


 更には先程までヨロヨロと狼狽うろたえる演技をしていたロブも、舷側を軽快に飛び越えてピンネース船に侵入する。



 この海賊同士(・・・・)の戦いは人数ではピンネース船の方が二倍以上乗っていたが、甲板の形勢はコグ船側が圧倒していた。

 コンドルは武器も何も持たないのにとにかく桁外れに強く、触れる者を片っ端から海に投げ込んで行く。

 マカーティは一見ただの乱暴者のように見えて、接舷戦の指揮に非常に長けており、少ない手勢を上手く使って甲板を支配して行った。

 ロブは実際にはほぼ甲板で踊っているだけだったが、彼の子分達からは良く慕われていた。


 戦闘は、コグ船側の圧勝に終わった。



「やったぜみんなー! 見ろ! このピンネース船が、新しいストームブリンガー号だァァア! こいつなら中太洋だって新世界だって行けるぞ!」


 ロブが快哉を叫ぶ。コグ船の乗組員達は、ほぼ全員がロブの子分達だった。


「すげえ、本当に新しい船を手に入れちまった! やったぜ親分!」

「この船なら交易をしたって負けねえぞ! 機械音痴のロブ万歳!」


 そこへ、メンマストの檣楼しょうろうからコンドルが飛び降りて来る。


―― ダン!


「ヒエッ、あんな高い所から飛んだ!?」

「コンドル! あんたマジですげえよ!」


「フフン。残念ながらこんなのは俺の本気の半分以下だ! ま、我ながらよく働いたとは思ってるけどね。さーて、早速俺の船長室を見て来るかな」

「おい待てェ!」


 そこへ飛んで来たのはマカーティである。


「のんびりしてる暇はねえんだ、レイヴン海軍に見つかる前にさっさと船を動かすぞ! 早く船尾に南レイガーラントの旗を揚げろ、登れる奴はマストに登れ、この風で出来る限り早く西へ行くんだ!」


 マカーティがそう指示すると、水夫達は顔を見合わせてうなずき合い、甲板に散らばって行く。


「フォアマストそんなに要らん、甲板に残った奴は来い、とっととあのボロ船を切り離すぞ! 覆面野郎、お前は操舵手だ」

「待てっ! ちょっと待てーッ!」


 今度はロブがマカーティの所に飛んで来る。


「何でお前が船長面してるんだよ! ストーム、ブリンガー号の、船長(キャプテン)は! この俺、機械音痴のロブことアーノルド・アンソニーだ!」


 ロブは被っていたかつらを甲板に叩きつけて抗議する。


「細けえ事はいいんだよ、海賊船の船長なんて単に何かの時に縛り首になる役なんだから、元海軍艦長の俺がやるのが一番いいだろ」

「いや待て待て! 海の上で物を言うのは何よりも経験、そして強さと男らしさだ! そうだろう? 船長に相応しいのはこの俺! 世界を知る男、キャプテン・コンドルに他ならない!」

「昨日今日乗り込んだ見習いのお前らが何を言ってるんだー!! ストームブリンガー号は俺が名付けた俺の船なんだから船長は俺に決まってんだろ!!」


「おおーい……何でもいいから、助けてくれぇぇ」


 真冬の海に投げ込まれた元のピンネース船の海賊達が弱々しく呼び掛ける。

 昨日今日この船に乗り込んだ男はもう一人居た。ストーク人傭兵のオロフは戦闘時も怪我をしないよう、後ろの方でウロチョロしていた。


「船長ー? 降伏した海賊は助けていいのか?」


 オロフは三人にそう呼び掛ける。


「ああー、ちょっと待ってね、今誰が船長か決めてるからさ」

「決めてるからじゃねーよ! 船長は俺だッ! 機械音痴のロブ様だッ!」

「そいつらにはそのコグ船と積荷の土砂をくれてやれ。俺達は先を急ぐぞ」


 そして三人の船長を乗せたピンネース船ストームブリンガー号は、そそくさとコグ船から離れて行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] このシリーズ読んできて一番びっくりして三度見くらいした後、めっちゃ笑いました マリー特効集団過ぎる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ