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第跋話 一人と一機

「ハルトよ、此度の武功も見事である」

「ありがとうございます」


 バルディア武国国都フリスティア。織田ハルトは、先だってのルミナス心国との戦いをバルディア武王へと報告するために参上していた。


「鉄壁城塞と(うた)われたかのオルビスを陥落せしめたのだ。この戦いはきっと将来語り草になるぞ。この俺ももう少し若ければこの戦に触発されて、単身敵陣に乗り込んでおったわ!」

「もったいなきお言葉です」


 ガハハと豪快に笑う武王は、若き日はこのガルダナ大陸でも有数の武人として知られた人物で、自ら剣を取り、魔錬機(マギティファクト)を乗りこなし、兵たちを率いて数々の激戦をくぐり抜けてきた歴戦の猛者だ。その鍛えられた身体は、老いた今もなお屈強である。


「――して、何か褒美を与えんとな?」

「武王陛下のお言葉だけでこの俺には十分でございます」

「そういうわけにはいかん! そなたたちニホン出身者は謙虚こそ美徳だと申すが、過ぎた謙虚は驕りと一緒ぞ。そなたに褒美を与えねば、この俺の王としての器が問われるわい! おっと、自分はいらないから配下らにというのもなしだぞ? そなたの配下らには別に褒章を与えるでな」


 アルクス雅国が崩壊したあの夜、織田ハルトは「将軍」の地位を要求しバルディア武国へと鞍替えした。――しかし、それ以降どれだけの功績を上げようとも、彼は何か要求するということはしなかった。曰く「必要な物は足りているので、自分に与えるのなら配下にお願いします」と。


「何が欲しい? 金が欲しいのならば使い切れないほどの金貨を与えよう。女が欲しいのならば選りすぐりの美女を与えよう。土地が欲しいならば潤った都市を与えよう。そして地位が欲しいのならば、そなたの為に新たな将軍位を設けようぞ!」


 おおっと、周囲に居並ぶ群臣たちがどよめく。

 武王の語った「新たな将軍位」とは、軍事大国である武国の歴史において武王に準ずる王位を戴くに等しい意味を持つ。

 つまり武王は、もしハルトが望むのなら自身の娘を娶らせ王家に迎え入れると言っているのだ。いかに実力主義の武国といえども、根無し草の勇者にその褒美を与えるのは長い歴史の中で異例のことである。


 実際、武王はハルトがこの選択肢をとるだろうと睨んでいた。

 彼が武国へ参陣する際に唯一出した「将軍」という地位の要求。それは地縁も血縁もなき異界人(いかいびと)である彼ら勇者が、使い潰されずに安心して生きていくための手段だと武王は考えていた。

 だから武王の血縁という地位を与え、域内に独立国のようなハルトの采地を与えることこそ彼の望みと合致すると睨んだ。


 そんな考えうる限り最高の褒美を提示されたハルトは、「ふむ」と少し悩む素振りをみせたあと口を開いた。


「――では、土地をお与えください」

「ほう、土地か。港湾都市パントラか? それとも肥沃な土地のラーシュか? 何処がよいか申してみよ」

「はい。旧雅国領、神殿都市クレインとその周辺をお願いいたします」

「クレイン? かの地は地脈集う地なれども、辺鄙ゆえ領国化しておらぬが」


 雅国は崩壊したが、アルクス山脈の全てが何処かの領地となったわけではない。山岳地ゆえ作柄も期待できず、輸送も困難な一部の地域は、緩衝地帯として無主の地となっていた。


「存じ上げております。現在は無主の地にて、山賊などが跋扈していることも。ですので攻め入り我が領地とする許可を頂きたい」

「領民はとうにおらぬし、作物も育たぬ土地だ。だとすれば目的は郷愁か? 自分たちが召喚された地という」

「……そのようなものでございます」

「であるならば断る理由などなにもない! よかろう! ハルトよ、神殿都市クレイン跡を含む周辺地域の、切り取り勝手の許可を与える!」

「ありがたき幸せ」


 それからすぐに織田ハルトは軍勢を率いて出発。松平マグナらが教団――跋扈する山賊を殲滅せしめた後は無人となっていたクレイン跡を、難なく領地とすることに成功した。



 ☆☆☆☆☆



 クレイン跡での激戦を終えたマグナ達は、フォトゥリの街へと引き上げてきていた。

 マグナは満身創痍だったし、〈レイド〉を始めとする魔錬機はかなりのダメージを負った。ガル率いる陸戦隊にも負傷者こそでたものの死者はゼロ。イライジャは討ち果たし、マグナは三年間抱いていた目的を遂げた。つまり、大勝利だった。


「――で、これが俺達の手に入れた“教団”の資料だ」


 そう言ってガルがテーブルに広げたのは、彼率いる陸戦隊がクレイン跡から回収した資料の数々だった。今回の作戦でマグナ達は、それまで実在が不確かだった教団が存在するという確たる証拠と、幾人かの捕虜をとることに成功していた。


「すごいな。これだけのものがあれば、必ずや終王様を動かして、終国としても正式に“教団”なる組織の暗躍を阻止すべく動けるだろう」

「頼みますマルティナさん。教団がどれほどの組織かはまだわからないけれど、イライジャが語った目的を遂げたいのなら、このガルダナ大陸にとって危険なのは間違いない」


 終国の騎士にしてこの戦いの功労者の一人でもあるマルティナもまた、フォトゥリの街を訪れていた。約束は違えぬ彼女の事だ。ここにある資料の写しをもって必ずや終国の女王を説得するだろう。


「オッリ老、魔錬機の具合はどうですか?」

「どうもこうも酷使のしすぎじゃよ。整備には数日かかるわい。(エルフ)の嬢ちゃん、手伝ってくれるかの?」

「師匠、当然ですともッ!」

「それにしても無事で何よりじゃ。ワシも複座の魔錬機を造った甲斐があったというもの。ようやったの、嬢ちゃんたち」

「えっへ~ん」

「オッリさんのおかげでなんとか戦えました!」


 ミアは胸を張って、クレアは照れながらオッリに答える。

 即席のコンビだったが彼女たちがいなければ作戦は成功しなかった。もちろん多くの敵をひきつけ戦ったヴィヴィの功績も忘れてはならない。


「さてと、明日にでも俺達は里へと帰るか」

「ガル、もう出発するのか」

「ああ、嫁や子どもが待っているからな。獣人諸国にいる教団の連中も対処しなきゃならねえ」


 若く見えて――実際十四なのだが――所帯持ちのガルはそう言って率いてきた若集たちに指示を出す。


「え、ガル様ー。私の〈叡魔白猫(ケットシー)〉ちゃんは整備が終わってないんですけどー」

「ああ、そうだったな……。でも爺さん、あれは俺達が持って行ってもいいのか?」

「良いぞ。今回の件に関するワシからの褒美と思ってくれてよい。一人乗りでも通常の戦闘なら問題なかろうて」

「やったー」


 オッリ老は自身の意図とは違う使い方をされていた〈紅艶魔王(アスモデウス)〉に心を痛めていた。それを打倒した感謝という意味だろう。


「ねえマグナ」

「なんだセルマ?」

「ガル達は帰るみたいだけれど、私たちはどうするの?」

「そうだなあ……」


 大きな目標であったイライジャの打倒は達成された。教団の別拠点の所在はさらなる調査が必要だろう。であれば、今のところ予定は未定だ。


「教団の事が一段落ついた以上ガルマーラ鎧国の件は気になるし、西に向かうべきかもしれないな」

「マグナさん……!」

「なんだヴィヴィ、里帰りは嫌か?」

「いいえ! 私として個人的な事情にみなさんを巻き込むことが……」

「巻き込んじまえよ。今回の件だって半分以上俺の個人的な事に巻き込んでんだ。教団絡みみたいだし、巻き込まれてやるさ」


 ヴィヴィ――ガルマーラ鎧国王女ヴィヴィアンヌ・ラ・テール・ヴィクトワール・ヴェルディエが狙われた一件は、教団が背後にいることはわかっている。イライジャの言う通り教団の目的が戦いを起こすことそのものなら、より大きな戦いが起こる前に防ぐことも重要なはずだ。

 無事ならば佐々レイラも鎧国周辺で動いているだろう。情報交換も兼ねて、協力を求めてもいい。


「西に行くなら途中にラッセル村があるな。俺達も久しぶりに里帰りといくか!」

「「里帰り! お父さん!」」


 大好きな父に会えると聞いて、あまり似てない双子であるセルマとクレアが、そろって顔をパアっと輝かせる。


「俺達にはまだまだやらなきゃいけないことが沢山ある。でも今日は勝利を祝おう! 共に戦った仲間のために!」

「「「おう!」」」



 ☆☆☆☆☆



 夜。マグナは一人でオッリ老の工房を訪れていた。


「よおレイド、調子はどうだ?」

「見た目はボロボロだが心地良い。私は飲食ができないが、これが勝利の美酒というやつだろうな」


 戦闘終了後に《融合》の力によって腕は再生したものの、精密機械の魔錬機である以上調整は必要だ。レイドが自分で言う通り見た目はまだボロボロだし、整備には相応の時間を要するだろう。


 そんなレイドに、マグナはおそるおそる問いかけた。


「なあレイド、お前はこの先も俺と一緒に戦ってくれるか?」

「当たり前だマグナ。私はレイド、君はマグナ。二人合わせてこその〈マグナレイド〉だろう? 実際そうだと先日の戦いで君は啖呵をきったじゃないか」

「……そうだな。そうだよな」

「それにだ――」


 レイドはそう言って、まだ動かし辛い頭をギギギと動かしてマグナを見据える。


「それに、セイラ嬢の願いを受けたのは君だけではない。私もまた託されたのだ。真の勇者という道を歩む君を助けるということを」

「レイド……」


 瀬名セイラが命を落としたあの日、レイドも一緒にいた。そして死の間際、彼女からマグナの事を頼まれていた。レイドがした「心得た」という返事が彼女に届いていたかはわからないが、レイドにとってその約束は果たされるべきものであるのだろう。


「レイド、俺は真の勇者になる。セイラが願ったこの世界に平和をもたらす真の勇者に。その前にたとえ世界の空気そのものが立ちふさがろうが、たとえ神様が立ちふさがろうが、全てぶっ壊して進んでやる! ここが地獄だというのなら変えてみせる! だからこれは下剋上だ。この世界そのものを下から上に動かす下剋上だ。それが融合の勇者〈マグナレイド〉の目指す道だ!」


 人は何かを成し遂げたいとき、突き進むための勇気を欲する。

 勇者という存在が勇気ある者ならば、真の勇者を目指すマグナは真に勇気ある者であり続けなければならない。それはすなわち、何が立ちふさがろうとどんな困難に見舞われようと道を突き進む勇気だ。


「行こうレイド、勇者って存在が本当はどういう意味かって事を、俺達が見せてやろうぜ!」

「心得た!」


 果てしない戦いの続くガルダナ大陸。

 長きに渡るその戦いはいつしか、俗に“勇者大戦”と呼ばれていた。


 そんな中、真の勇者を目指す一人と一機。

 片や本来勇者として持って召喚されるはずの魔力とギフトを持たず、無能勇者と蔑まれた少年――松平マグナ。

 片や倉庫の片隅でホコリを被り、くず鉄と蔑まれていた魔錬機――〈レイド〉。


 ……というのも過去の話し。


 片や大切なモノを喪い、その願いを受けて大望を果たさんとする男――松平真岐(マグナ)

 片や世にも珍しい意志を持つ魔錬機にして、相棒の大望を支える魔錬機――〈零人(レイド)〉。


 一人と一機、無機物と有機物という大きな違いはあれども、願う心は同じ。

 片割れだけでは果たせぬ夢も、両者が合わされば必ず成し遂げられる。


 その勇者の名は〈真岐零人(マグナレイド)〉。融合の勇者〈マグナレイド〉。

 長きに渡る勇者大戦を、自らの力で終わらせんとする真の勇者の名である――!


これにて完結です

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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