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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第2章 After 3 years
22/49

第22話 暗夜問答

 どこだかわからない狭い空間。そこでマグナは目覚めた。

 一つのランプを頼りに明かりを保つ、薄暗い部屋だ。


(ここは……?)


 彼は椅子に座らされ、縛られている。口には猿ぐつわだ。

 身動きできない中で混乱する脳内を落ち着かせ、懸命に前後の記憶を思い出す。

 街で同級生の稲葉イオに出会い、彼女の家へと案内された。そこで彼女から差し出されたお茶を飲んで、それで――。


「おはよう、松平君」

(――稲葉ッ!)


 おそらく彼をこんな目にあわせているだろう、稲葉イオ張本人が現れた。先刻までとは違い薄暗さもあってかとても不気味に感じる。


(稲葉、ここはどこだ!? セルマはどうした!)

「もごもご言っても聞き取れないよ? まあ見当はつくけど。とりあえず、あなたの大切なお連れさんはこっち」

(セルマ!)


 暗がりで良く見えなかったが、彼女がランプで照らした先にセルマがいた。

 マグナと同じように椅子に縛り付けられているが、意識はないようだ。


「大丈夫、眠っているだけ。これから松平君の猿ぐつわを外してあげるけれど、騒がないでね? もし騒いだらこの子がどうなるかわからないよ?」


 コクコクとマグナが頷いて了承を伝えると、イオはゆっくりと歩み寄って彼の口から猿ぐつわを外した。深く呼吸をすると、かび臭い部屋の匂いを感じる。


「稲葉、ここはどこだ? 何が目的だ?」

「ここがどこだか教えられるわけないでしょ。目的はと聞かれれば、いくつか質問をするためよ」

「質問……?」

「ええ。早速だけど、松平君はどこかの組織に私の捕獲もしくは殺害を命じられてきた?」

「いいや」

「じゃあどこかの組織に現在所属している?」

「いいや。言っただろ、単なる旅の途中だ」


 心を落ち着かせ、慎重に言葉を選ぶ。稲葉イオは警戒するあまりこんな事に及んだのだろうか? いや、まだ目的は読めない。


「まあギフトの無い松平君を刺客には仕立て上げないかもね。旅の目的は?」

「セイラを――瀬名セイラを殺した奴を探している」

「……死んだの? 瀬名さんが?」

「ああ、セイラも柴田も金森も平手も、みんな死んだ。殺したのはイライジャだ。俺はイライジャを追っている」

「イ、イライジャってあのイライジャさん!?」


 あまりにも驚く稲葉イオの反応を見て、少なくともイライジャの仲間や配下ではないと確信したマグナは、あの日国都シュルティアで起こった出来事をかいつまんで話した。もちろん〈レイド〉や《融合》の存在は伏せてだ。


「川尻くんは?」

「川尻は……山賊になったから討伐された。俺はその現場を見た」

「そうなんだ……」


 落ち込んだような声を稲葉イオが出した時、扉をノックする音が聞こえた。「誰?」とイオが聞くと、「俺です(あね)さん」と若い男の声で返答があった。扉を開けて、黒ずくめのいかにも怪しい男が入ってくる。


「ん? うちに商会に卸していただく新しい商品ですか? 男の方はともかく、ガキの方は変態に高値でさばけそうだ」

「……少なくともまだ違います。早く用件を言いなさい」

「失礼しました。今晩の狩りは予定通り行うので、オヤジが姐さんを迎えに行ってこいと」

「……この件が片付いたらすぐに向かいます。あなたは先に行っておいて」

「了解しました」


 男はイオに向かって深く一礼すると、部屋から出て行った。


「今のは? 弟には見えなかったけれど」

「それ冗談のつもり? 今の男はこの町を牛耳る奴隷商会の一員。私ね、ギフトを活かして奴隷商人のお手伝いをしているんだよ?」

「……奴隷商人の?」

「そう。反抗的な奴隷を従順にしたりだとか、主人に対して興奮しやすくしたりだとか、酷いのだと記憶や感情を消して人形みたいにしたり。そんな悪行に加担しているのが今の私。クラスの端にいるただの地味な生徒じゃない」


 そう語るイオは、外なんて見えないのにまるで星を見るように遠い目をしている。

 一方、マグナは彼女のギフトがどのような能力だったかを必死に思い出していた。自身が無能勇者と判定されたこともあって、彼自身はクラスメイトのギフトに対して関心が薄かった。自分より後に判定された女子に関してはなおさらだ。


 精神に関与するということは、闇属性相当の精神操作が思い浮かぶ。しかしあれは強力だが応用が効かないと座学で聞いたはずだ。だとしたら稲葉イオの能力は、確か――。


「――水属性魔法相当の薬物生成……!」

「そう、やっと思い出した?」


 薬物生成。水属性魔法で水流を発生させるように、彼女のギフトは液体状の薬物を発生させる。《水流》などの単純な魔法とは違い、発動するには繊細な操作や知識が必要だが、元来勉強熱心だった稲葉イオはその技能を会得したようだ。


「私が出したお茶をなんの警戒もせずに飲むんだもの。笑っちゃうよね」

「稲葉、お前その能力で他の人を操って……まさかあのお婆さんもか!?」

「さあ、それはどうだろうね? なにせ私は悪人だから」


 そう言ってイオは不敵に笑う。

 彼女が自ら語ったように、そのギフトをもってすれば人間の操作も可能だ。家主をただ生きるだけの人形にして、隠れ家として使うなんて造作もないことだろう。


「お前、俺達をどうする気だ?」

「さあ、どうしよっかな? 他のクラスメイトを釣るエサとか? 勇者って高級商品みたいだし」


 さっき入って来た男に、イオは「この件が片付いたら」と言っていた。この後用事があるようだし、遠からずマグナの運命は決まる。だからマグナは少しでも喋って、交渉の材料を掴む。


「狩りってのはなんだ? 奴隷狩りか?」

「まあそうだね。今夜のは特別だけど」

「特別……? 脱走(エルフ)族の捕獲とかか?」

「妖族……? いいや、違うけど」


 マグナは内心切らないで良いカードを切ってしまったことを後悔すると同時に、「良かった」と安心する。奴隷と聞いてすぐにヴィヴィの事が頭に浮かんだ。もし彼女を捜索しての奴隷狩りなら、一緒にいるクレアにも危険が及んでしまう。


「今晩狩るのは、珍しい魔錬機(マギティファクト)だよ」

「魔錬機を奴隷商会が?」

「そう。近頃珍しい型の魔錬機の目撃例がここらであって、話を聞いたどこぞの好事家(こうずか)が手に入れたら法外な値段で買い取るってウチの会長に相談したわけ。だから商会総出で捕まえて売ろうってわけ。おかげで専門外の私も出勤だよお……」


 珍しい魔錬機という言葉に心臓がバクバクと鳴る。嫌な汗がタラりと落ち、どうか間違いであってくれと祈る。


「その魔錬機の色は?」

「え? 派手なイエローって聞いているけど」

「――! 稲葉、今すぐ俺を解放してくれ!」

「え? なに言ってんの?」

「その魔錬機は俺の機体だ。一緒にいる仲間が危ない」

「――!? え? でも松平君、魔錬機に乗れる魔力がないはずじゃ……」

「その珍しい魔錬機とは相性が良いんだ。名前は〈レイド〉、俺の相棒だ」

「そんなの信じられるわけ……でも嘘をつく理由が……。


 混乱するイオだが、彼女はマグナの生殺与奪権を握っている。手札が無い以上、真摯に事実を並べて懇願するしかない。


「頼む稲葉、俺は死んだセイラに約束したんだ。皆を護れるような、真の勇者になるって!」

「真の勇者……ふん、ばかばかしい。だからって、松平君を解放するわけないじゃん。私は悪い女だよ?」

「本気で喋らせようと思ったら、ギフトで自白剤でも作れたはずだ! 君はそれをしなかった」

「……。でもほら、お婆ちゃんは私が操って――」

「操っていないだろう? 人形にただいまの挨拶をする演技をするような人間が、自分の行っている行為をして悪人と自嘲しない」

「――!」

「頼む!」


 稲葉イオは黙ってうつむき、それから机に置かれたナイフを無造作につかんでマグナの方へと近づいた。


「次の目的地は?」

「セカンダだ」

「そう、それなら大丈夫。ウチの商会の力はそこまで及ばないから」

「それってどういう――」


 マグナが問い返す前に、彼を縛っていた縄をイオがナイフで切った。

 続いてセルマの縛も解き、猿ぐつわもはずす。


「稲葉さん、ありがとう!」

「勘違いしないで。同級生のよしみでここは解放してあげる、けれど商会に根回しするなんてことはしないから勝手に頑張って。狩りには私も魔錬機で出る。仕事だからそこでは容赦しない」

「わかっている、それでもありがとう。ほらセルマ、起きろ」

「ふわえ……?」


 寝ぼけ眼のセルマをとりあえず背中に担ぐと、後ろからイオの声がした。


「ここはあの家の地下。外に出て道を二本過ぎれば大通り、門まではすぐだから」

「本当にありがとう」


 振り向かずにそう答えて、マグナは仲間の下へ疾駆した。


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