第10話 融合マグナレイド
「街が――いいや、シュルティアも王城も燃えている!」
先ほどまで新月の暗闇が支配していたシュルティアの街が、今は真昼の様に赤々と燃えている。それだけではない、街の中央に立つ荘厳な造りの白亜の王城までもが燃えている。
「そんな……! 火事? それとも事故?」
というセイラの疑問の声。果たしてそうだろうか、マグナは考える。
これだけ広範囲の延焼、先ほどから断続的に続く「ドーン」という空気を震わせる爆発音、そしてここがアルクス雅国の国都シュルティアであり最も警備が固いであろう王城が燃えている事。つまりこれは――。
「いや、これは攻撃だ」
間違いない。これは何者かがアルクス雅国へと仕掛けた攻撃だ。
「攻撃!? どこから……」
「それはわからない。でもこのガルダナ大陸は戦争の真っ最中って話だ。こういう状況も不思議じゃないさ」
そう言いながらもマグナは正直この状況に恐怖を感じていた。部屋まで漂ってくる何かが焼ける匂いが、空気を切り裂く爆発音が、そして攻撃に気がついて砦中を駆け巡る兵士の声と足音が、嫌でも戦いの実感を湧きおこらせる。
そしてカンカンカンと七回鐘を打ち鳴らす音が響いた。起床の時間は五回で、一時間ごとに刻を知らせる場合は二回だから、少なくともそのどちらでもない。
「私、行かなくちゃ!」
「どういうことだ、セイラ?」
「鐘の音七回は魔錬機騎乗士召集の合図なの。だから行かないと」
知らなかった。魔錬機に乗れないマグナはそういったことは何も知らされていないのだ。
「危険だ!」
「私は大丈夫。マグナは避難……いや、たぶんここが一番安全だね。じゃあ」
「セイラ!」
「大丈夫だよマグナ! 私がきっとマグナを護ってみせるから!」
瀬名セイラはそう言って、マグナの制止を聞かずに駆け足で部屋を出て行った。
☆☆☆☆☆
セイラが部屋を出て行ってどれくらいの時間が経っただろうか? 依然として断続的に爆発音が聞こえてくる。まだ戦闘は続いているのだ。
マグナがいるこの砦は、国都防衛の為に多くの兵士が詰めている頑丈な石造りの要塞だ。セイラの言う通り、今のシュルティアで一番安全なのはここだろう。
「セイラ……」
ベッドの上で丸くなり、彼女の名前を呼ぶ。きっと無事でいてくれ、そう思う以上にどうしようもないほどの無力感がこみあげてくる。
「こんな俺が強いだなんて――」
――嘘だ。そう言おうと思ったけれど言えなかった。セイラの言葉を否定したくなかったからだ。
「おい、敵の魔錬機がすぐそこまで来ているぞ! 数が多すぎる!」
「ったく、あいつらどこから!? 防衛線を再構築しろ!」
砦内の兵士の怒鳴り声が部屋まで響いてくる。襲撃者は魔錬機を用い、それもかなりの兵力らしい。突然の襲撃に、雅国側は組織だった防衛戦を行えていないようだ。つまり――ピンチだ。
「セイラ……。雅国なんて、シュルティアなんてどうでもいい。けれど君だけは……!」
何ができると確信したわけじゃない。思春期特有の万能感なのかもしれない。けれどマグナは、自分が気づいた時には先ほどのセイラと同じように駆け出していた。目的地はそう――あの頼りになるか少し不安な“くず鉄”だ。
☆☆☆☆☆
「レイド! はあはあ、レイド!」
(マグナか。遅かったな)
息も絶え絶えに駆け込んだマグナを、レイドは落ち着きある声で迎えた。
「遅かった? どういう意味だ?」
(そのままの意味だ。君が私を信頼しているのなら、もう少し早く来てくれると思っていた)
「お前、今の事態を把握しているのか?」
ここは砦内にある魔錬機格納庫のさらに端。やかましく響く爆発音も遠くに聞こえるほどの位置だ。とても現状を把握できているとは思えなかった。
(ああ、把握しているぞ。敵の魔錬機は十機二十機の話しではない)
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
(魔力の流れを読めば、近い範囲ならおおよその位置関係はわかる。そして手練れとみえる。雅国側の方が数は多いが、押されているな。だいぶやられている)
「やられている!? セイラは!?」
(セイラとはあの雷のギフトを使う少女だったか? 彼女の魔力反応は……あるな。どうやら無事なようだ)
レイドの言葉にマグナはほっと胸をなでおろすが、戦況が不利――セイラがピンチだという事に変わりはない。逆転の何か、戦況を覆す何かがないといけない。けれど彼にはその力が無い。
(マグナ、君はどうしたいんだ?)
「どうって……」
どうしたいか。そんな事は決まっている。その為に考えもせずにここまで走って来た。あとはその言葉を、勇気を出して口にするだけだ。
「俺はセイラを護りたい。雅国もシュルティアもどうでもいい。無能勇者だって言われたってどうだっていいんだ。けれどあの子だけは――俺に優しくしてくれたあの子だけは、何としてでも護りたい!」
(承知した。さあ、乗れ)
乗れ。その言葉の意味が最初マグナには理解できなかった。けれどすぐにわかった。〈レイド〉の腹の部分が、ギギギとやかましい音をたてながら開いたのだ。
「乗れと言ったって、お前動けるのか?」
〈レイド〉は魔錬機だ。それは当然マグナも理解している。しかし正確には、“忘れられるくらい使用されていないくず鉄”という冠がついた魔錬機と言うべきだろう。
マグナは彼を掃除した。確かにしたが、それは表面を磨いたという話であって、そのボディは錆びだらけの錆色であるし、内部のメカニックなんて当然まるでいじっちゃいない。とうてい動作する機械とは思えないのだ。
(乗るんだマグナ。先ほど見せた君の意志が本物なら、間違いなく成し遂げられる)
レイドの言葉はいつものふんわりとした推測ではなく、はっきりとした断定口調だ。それだけの自信が彼にはある。
「わかった。お前を信じるよレイド」
マグナは一つうなずいてよっと〈レイド〉のボディを昇ると、そのまま操縦席へともぐりこんだ。長年放置されていた割に、中は綺麗なものだった。座学で習った〈単眼鬼〉とは似ているも少し違うレバーやペダルがある。
(さあ、まずはコントロールグリップを握り魔力を注ぎ込むんだ)
「なあレイド、俺に魔力は――」
ウォルデンの判定は元より、あれだけレイドと試してみても古代魔法ゆかりの魔力は片鱗すら示さなかった。
(君は先ほど私を信じると言ったはずだ。なら最後まで信じて見せろ!)
「そうだな。わるかった」
マグナは謝り、左右のグリップへと手を伸ばす。そして静かに瞳を閉じ、レイドから習ったように内から湧き出る力をイメージする。深呼吸を一つ、二つ、三つ。何かが身体の奥底から湧き出る感覚がある。
(よし、きたぞマグナ!)
「ああ、俺も感じる。動け〈レイド〉!」
グリップを押し、ペダルを思い切り踏み込んだ。すると〈レイド〉は、節々からギギギと音をたてながらも立ち上がった。紛れもない。マグナの魔力が〈レイド〉を動かしたのだ。
「ははっ、俺にも本当に魔力が……!」
(まだだ。次にすることはわかるな?)
「ああ! いくぞ《融合》!」
――瞬間、マグナの感覚に変化があった。
まず視界が違う。狭い操縦席にいたはずが、格納庫の景色が見えている。それもかなり高い視点でだ。そして両手両足、身体全体に力がみなぎる。
心の奥底から、何かのイメージが湧いてきた。これは――月だ。太陽の様にギラギラ輝く主役じゃなくていい、漆黒の闇を優しく照らす月の光になればいい。そして目覚めた――。
「これは……まさか……?」
(そうだ。これが古代魔法《融合》の力だ。私とマグナは一心同体。さしずめ新たなる魔錬機〈レイドマグナ〉と言ったところだな)
「そのまんまだな。けれど少し違う。名前はそう、〈マグナレイド〉だ!」
魔力の力か、錆びだらけだったボディは月の光を思わせるライトイエローに。〈単眼機〉よりも引き締まった、特撮スーツ染みたマッシブなボディ。顔には二つの眼がギラリと光る。融合魔錬機〈マグナレイド〉、その誕生であった。
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