八 目覚め
彼の言う通りに彼は死んだのだろうが、私は彼とは一緒に逝くことは出来なかった。
何しろ私はまだ死んでいない。
あの嘘つき。
私が嘘つきとのひと時を気絶した私が見た夢ではなく事実だったと認めるのは、目覚めた時には世界はモニターの砂嵐越しに見える風景だったにもかかわらず、沢山の涙が零れるにつれて視界は砂嵐を拭われてクリアなものと変わったからだ。
涙を拭った指先に、小さな動かなくなった虫の死骸がべったり付けば、私が化け物に取り込まれかけていたのは否が応でも真実だと認めるしかないであろう。
しかし、助かった私が目覚めた時には宇津木が語ったようなパンデミックが病院内で起きた状態であったらしく、なんと私は横倒しになったベッドの下敷きとなっていた。
私の視界を遮るベッドの横からそっと風景を覗くと、二台のベッドの上の患者は爆発したかの様な有様でシーツに破片と赤いシミを作っているだけであり、患者を助けようと駆け付けて誰かに殺されたのか、倒れている看護師は背中が見えるのに顔は私の方を向いているという捩れた姿で死んでいた。
「うそだろ。嘘つき亨君の言う通りに現実だよ。化け物の世界がこんにちわだよ。人と人が殺し合う最低映画の世界だよ。」
私はベッドが横倒しになっていたお陰か、人殺し達から逃れられたということらしい。
だが、畜生、私の足の痛みはベッドの下敷きになっていたが為だった。
息をつめ、両手でベッドを死ぬ気で持ち上げてなんとか隙間を作り左足を抜いたが、足首から先まで真っ青で、よく壊死しなかったと思う程だ。
私は左足の痛みをこらえながら、四つん這いで移動することにした。
命があるのならば、とりあえず逃げねばならないだろう。
それに、部屋から出れば、あの馬鹿野郎の幽霊に再び会えるかもしれない。