三十三 真相
熊谷は町から逃げ出そうとする車に撥ねられた。
そこまでは彼の失態で済むだろうが、彼が治療を受ける事になったのはパンデミックが起きている町の病院だ。
彼は命を取り留めたが、蔓延している疫病に罹患した。
「ペスト、というのも嘘だった。発端は美容に良いって変な植物を勝手に栽培していたサプリメント会社の工場で出た異常死からだね。皮膚が黒くなっての突然死。初期の頃は実際に壊死ペストに近い症状だった。だからそれで町を一つ囲んだ。ここで自衛隊に任せれば良かったものを、せっかく作ったからと俺達を投入したのが間違いだったのさ。」
亨君の肉体を奪った熊谷がカウンターに腰を下ろして私達に説明をし始め、私は高杉に銃を向けられているからと素直に椅子に座っているが、宇賀神は銃など向けられていなくてもここから動く事は無いだろう。
彼は嬉々として熊谷の話を聞いているのだ。
「どこが間違いなのかな?警察官だって隔離の為のバリケードぐらい築くでしょう。検問だって警察の仕事じゃないの。」
「災害からの救助活動と病気の解明に動く人達と、人災的災害について捜査してしまう警察官の違いですか?俺達は発端の工場に乗り込み、この病を作り出したと思えるもの一切合切を押収して、それを本部に送りました。工場に併設されていた温室は凄いものでした。種類はわからないが噛みついてくる蠅のような虫が生息していましたからね。」
「噛みつく。それで君は感染したのか。いや、その町に行った全員が。いいや、違う。君達が逃がして町に蔓延したのだね。やっぱりペストもあったのか?」
熊谷は嬉しそうに笑顔になった。
「虫を温室から逃がしたのは工場の従業員ですよ。まあ、俺が温室に残っていた虫に噛まれたのは事実ですが。それで、感染した俺は体中が真っ黒になってから心肺停止をしましたよ。足も一本無くなっているんだ。心臓が止まる時はもういいやって思った。これで楽になれるって。凄く、辛かったんですよ体が。それで、それなのに、もっと痛くて苦しいと次に目覚めた時は、俺は瓶に入っていた。氷漬けの容器に入っていましたよ。足と腕が無い胴体だけの部分でね。首と胴が切り離されていたら本当に死んでいたかもしれません。いや、胴体があるという感覚こそ幻肢痛だったのかもな。」
「何の実験だったんだ?」
「心肺は停止しているのに脳みその活動が止まらない、そんな不思議の解明ですか?俺は医者じゃないからわかりませんが、あれは単なる拷問ですよ。ハハハハ、怒りで俺の血が噴射してしまった事もある。いや、あれは俺の中に巣くっていた虫かな。」
「それでこのパンデミックが。」
「ハハハハ、違いますって。あれは、そうだな、俺の虫が目に入った奴を俺の状態を木村さんや立神さんに伝える使者にするのが精いっぱいだった。そんなことが出来ると知ったのも、そん時ですが。」
「その虫を育てて改良したのが保土谷結良博士、ということなのかな?」
「さあ、それは何とも。調べたのは木村さんだし。木村さんは裏切るから困りました。俺の状態に同情して助けて出してくれた癖に、この世界を連れてきたことに絶望して勝手に死んでしまうのですもの。」
「この世界を連れて来た?」
熊谷は亨君の顔を亨君が絶対にしないだろう笑顔に歪めた。
そして、誰もが聞きたくない言葉を吐いたのだ。
「俺の苦しみを解ってもらうために立神さんと木村さんには俺の虫を飲ませていた。ハハハ。宇津木さんにこそ飲ませたかったけどいないしね。亨は本当に邪魔ばかりだ。」
「熊谷君?」
「ああ、すいません。話がそれた。俺の救出に立神さんと木村さん、そして、なあ、高杉、お前も来てくれたんだよな。俺の全部のパーツを研究所から連れ出してくれたんだよな。」
「熊谷君。」
「ああ、すいません。偉い先生。でも、わかっているんでしょう。俺のパーツが適当な貯水槽に投げ込まれているって結末。ハハハ、そしてこの世界の到来だ。ああ、俺の言う通りに動いてくれた木村さんには、ずっと俺の兵隊でいて欲しかった。」
「お前に上に立つ資格なんてねえよ。」
低い声は高杉のものだった。
彼は銃口を亨君の頭に押し付けるや、その引き金を引いた。
「やめてええええ!」




