三十一 再戦
俺は段ボールの目張りを見つけるたびに剥がしていき、高杉が片っ端からLEDライトを感染者達に当てていった。
そこで判ったのは、爆発するものとしないものがいるという事だ。
頭が瘤でブロッコリー状態になっていても爆発しないものがいたのだ。
それらは、瘤の表面にコールタールをかけられて固まったような、あるいは道路に敷かれたばかりの柔らかなアスファルトで出来た様な瘤を持つ者達だった。
最初の病院を探索した時にはそんな者達はいなかった。
彼らはたった数時間で弱点を克服するべく進化したのか、これこそ最終形態なのか。
バシュン!
高杉が銃を撃った音だ。
体を硬化させた一人がライトを持つ高杉に突進したのだ。
銃の弾は当たり前だが敵の頭にめり込んで、それは後頭部から黒い血を放出させながら後ろへと倒れた。
黒い血は周りに広がることなく小川を作って流れていき、奇妙な液体の動きに高杉が自分がライトを当ててみれば、そいつの頭は俺達が立つ廊下の光沢とは違う質感、プラスチックのようなタイル状の床の上にあった事が分かった。
「ああ、左手の空間は病室では無くてシャワールームなんですね。そうか、病院だから扉が無いんだ。」
高杉はそれから周囲をさっとライトで照らして見せた。
そこで俺は自分の立ち位置に気が付いてぞっとした。
シャワールームの向かいは壁となっており、高杉のライトが消えれば真っ暗となる環境だと気が付いたのだ。
追い詰めた筈の俺達が追い詰められていたような気がしたのである。
俺達の数メートル先に感染者はいるが、俺達があと数歩近づくまで動きはしない距離だ。
今までに爆発するものと爆発しないものが混ざっていたのはどういうことだ?
これは考え過ぎなのか?
「高杉!下がるぞ。」
「隊長?」
「いいから!退却、退却だ!」
俺達は一斉に後ろに下がり、よって、俺達は助かった。
ガシャーーーン。
窓を突き破って俺達の眼前へと飛び込んで来た者があったのだ。
俺達が下がるのがあと数秒遅ければ、二人仲良く奴に突き倒されていたことだろう。
あるいは、完全に逃げ道のない闇の中に追い込まれていた事だろう。
ガラスの破片をまき散らして廊下の真ん中、月明かりに照らされたそこに姿を現わせたそれは、服から出ている肌の部分を月明かりで煌いた美梨の様に光り輝かせていた。
しかし、光り輝けど異形でしかない。
二本足ではなく四つん這いとなっているパジャマ姿のそれは、獣のようにして俺達に顔を上げた。
俺は弟の出現にたじろいだ。
亨だったものは俺と目が合うと、俺に向かってニカっと笑顔を作った。
この天真爛漫にも見える笑顔は俺が初めて見たものだ。
「お前はだれだあ!」
俺は弟に向かって銃を構えていた。
笑顔一つで俺は弟であったものにぞっと脅えたのだ。
そいつは立ち上がった。
その後は俺の視界は天井を向いていた。
俺は亨だったものに突き倒されており、奴の身体に完全に抑え込まれていた。
亨の両膝によって俺の肩は床に打ち付けられて固定され、亨の両手は俺の頭をボールのようにして掴んでいる。
「高杉!お前は逃げろ!」
高杉に叫ぶことが、俺が出来た唯一の事だ。
高杉が逃げ切れたかわからない。
俺は亨によって首を捩じられた。
骨が折れる時って良い音がするんだな。




