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もっと早く知りたかった  作者: 蔵前
転機となせるのか
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十九 大丈夫だけど不思議だね

 俺は不幸な目に遭った美梨を抱きしめながら、大声で笑っていた。

 立神が連れてきた宇賀神達樹(うがじんたつき)という医者は、立神がうんざりしたように語ったところによると意欲と知識はあるという事だ。


 宇賀神は俺よりも身長は少し低いが、俺よりも横がある。

 眉毛が濃くて無精ひげも濃いところから、美梨がクマゴローと呟いてから俺は彼がクマにしか見えなくなった。

 そしてこのクマはこの事態に自分から政府関係者に連絡をして現れたらしいが、彼の言葉を聞くよりも次々と起きるアウトブレイクの対応で彼は放って置かれ、それを自由に動いて良いと考えた彼は立神を移動手段として貼り付いて離れないのだそうだ。


 まあ、外見は怖いが懐も心も広い立神だ。


 宇賀神がその他大勢の助けになると主張すれば、彼が宇賀神を振り払えるはずもない。

 よって、簡単に振り払える俺が美梨の着替えをのぞき見していたからと宇賀神を怒鳴りつけるべきであろうが、宇賀神が美梨は大丈夫だろうと言い放ったことで俺は全面的に彼を許した。

 俺が美梨を殺す事態は免れたのだと、俺に縋る彼女を抱きしめながらほっとした事で大笑いが出ていたのだ。


「もう!笑うばっかりで酷いです!」


「大丈夫だろ。相手は医者で、君は大丈夫だと言っているんだ。大丈夫なんだ。良かった、ああよかったよ。」


「うん。今のところはね。寄生虫は不思議だね。仲良くできれば素晴らしい共生関係になれるし、他の悪い虫を寄せ付けなくもなるんだからさ。怖いのが迷入って奴。間違えて宿主でない生き物に入り込んだ寄生虫は、暴れて暴れて寄生された生き物の身体をずたずたにしてしまう。それから、最終宿主が人間だとしてもリンパ管に潜むことでリンパ管を破壊して象皮病を引き起こすフィラリアや、皮膚の下をはい回るメジナ虫って怖いのもいるね。今回の虫は本当に意味がわからないけど、ね。」


「おい、どういうことだよ。」


「どういうも何も、君が何も見たくないのはわかるけど、彼女は完全に宿主になっているじゃないの。でも、あの破裂するような状態じゃない。不思議だね。でも、人を殺しながら病院から逃げた感染者もいる事だし、やっぱり美梨ちゃんはまだ監視対象、かな。」


「おい、ちょっと待て、なんだその人を殺しながら病院から逃げたって。病院で人殺しをしたのはこんな虫を広めたテロの仲間じゃ無いのか。」


 宇賀神は濃い顔がもっと濃くなるぐらいに顔をしかめて、うーんと悩み始めた。

 事態がわからないというよりも、俺達に説明する言葉を探しているような感じだ。


「ええとさ、美梨ちゃんのような被害者が運ばれた病院が三か所、そして、都庁も入れれば凄い規模だよね。そこ全部や街中でも殺人が起きているでしょう。どれだけの人員が必要かなって。ほら、テロだと仮定すると。2・26事件のクーデター並みに人数が必要じゃないの?それも素手で人殺しが出来るという、歩く殺人マシーンな熟練兵。」


 俺は美梨のいた病院の四階の惨状を思い出し、あっと小さく叫んだ。


 そうだ。


 俺と高杉はその大量殺人が全て同じ人物だろうと思える惨状を目にして、これを引き起こした犯人が一人では無理だろうとの固定願念によって、いや、希望的観測か、つまり組織的犯罪と思い込んでいたのである。


「殺して回っていたのは一人か。」


「あるいは複数。目覚めちゃった美梨ちゃんみたいなそのまんまの姿かな。ねぇ、美梨ちゃん。君は本当に最初から四階にいたのかな。」


 俺の腕の中の少女はびくりと動き、怖々と俺を見上げた。

 大きな目を不安でいっぱいにして、居場所がなくなった捨て猫のような、そんな表情をした小さな女の子だ。

 そして、弟が大事にしていた想い人なのだ。


「大丈夫だ。俺が守ってやる。心配するな。」


 高杉のやっぱり惚れていたんじゃないか、というぼやきなんてどうでも良い。

 俺は彼女を守り、そして、俺が自分の手で事態の収拾をつける。

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