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241話 ユイの事情


 深夜、接触してきた白のカード使いユイと、今後のことを話し合う。ただ、最初に聞いておかなければならないことがあった。


 彼女の行動や言動を見ていると、使命について知っているようにも知らないようにも思えるのだ。


 最初に、そこをハッキリしておかないといけないだろう。


「ユイは……転生者の使命を知っているか?」

「トールさんは知ってるの? 私も、ちょっと気になってたんだ。だったら教えて!」

「つまり、知らないんだな?」

「うん」


 転生時に関わる神様によって、同じ転生者でも与えられている情報がかなり違う。


 そして、ユイも俺と同じで、使命を教えられていなかったらしい。好きに生きろと言われたが、本当にそれでいいのか分からず、悩んでいたそうだ。


「転生する時に神様に会ったよな? それは、誰だった?」

「私を転生させたのはセルエノンだけど……」

「そうか」


 まあ、使命を知らない時点でそうじゃないかと思ったけどな。


 イオリに転生時のことを詳しく話を聞いたが、彼女の場合は2柱の神と出会っている。


 彼女の魂を拾い上げ、使命などの説明をしたブラスログン様。その後、こちらの世界に送るにあたって能力を授けたセルエノン。


 以前、夢で出会ったセルエノンの話が真実なら、転生者を送り込む計画の現在の主導者はセルエノンだ。


 俺が他の第一陣転生者よりも長生きしたことで、セルエノンが賭けに勝ったからである。


 ただ、他の神様が諦めきれなかったため、第二陣転生者であるカード使いの選定には彼らも参加しているらしい。


 そして、他の神様に選ばれたイオリたちは、その神からしっかりと使命の説明を受けている。


 まあ、白井とかはそうとは思えなかったが、あいつの場合はあんな性格だしな……。使命なんか無視したのかもしれない。


 ただ、セルエノンが手ずから選んだ転生者に関しては、他の神とは出会うことなく転生させられている。これが、俺とユイだろう。


 そのせいで、俺とユイは他の神なら説明してくれるであろう事柄を、色々と伝えられていなかった。


 一番大事な使命に関する事だけではなく、混沌の危険性や、この世界の知識などもだ。


 セルエノンの考えは分かる。俺たちを追い込んで成長させたいのだろう。あと、俺たち自身で見て、決めろと言う意味もあるのだと思う。


 ただ、できればもう少し情報を教えておいて欲しかった。


「混沌憑きは知っているか?」

「うん! 何度か倒したことがあるよ」

「あれには大元がいる。混沌の王っていう、化け物だそうだ」

「そうなんだ。知らなかった……」


 とはいえ、まだユイの顔にそこまでの緊迫感はない。巨大な混沌は危険だという程度の認識なのだろう。


 逆の立場なら、俺も同じ反応をするだろうけどね。


「そして、俺たち転生者の使命は、その混沌の王を倒すことだ」

「……つまり、その混沌の王が、神様がどうにかしようとするくらい危険だってこと?」

「ああ。放っておけば世界が滅んじまうらしい」

「えええ! ほ、本当に? からかってない?」

「残念ながらな」


 俺は知っている情報を全て語った。混沌の王を放置すれば、混沌が溢れかえること。さらに放置すれば、世界全体が混沌に飲み込まれること。残り時間が5年ほどしか残っていないということ。


 そして、混沌の王がこの国の王都の近くにいるらしいということ。


 全てを教えられたユイは呆然としている。


 それはそうだろう。この世界があと5年で滅ぶかもしれないなんて、信じられないはずだ。だが、彼女の協力はぜひ欲しい。


 どうやって、俺の言葉が真実だと分かってもらうか。イオリを連れてくるか?


 俺が悩んでいると、ユイがぼそりと何かを呟いた。


「……だから、あの時……」

「どうしたんだ?」

「……ようやく、意味が分かったの」


 ユイはこの世界に転生してすぐ、リシュー子爵に拾われた。ただ、協力するかどうかまでは決められなかったらしい。


 なにせ、相手は貴族だ。俺と同じように、お近づきになることを躊躇していたそうだ。


 それでも、拾ってもらった恩がある。結局、あまり表に出ないように、力を貸すことにしたという。


 ただ、ある時に、リシュー子爵から重大な秘密を打ち明けられてしまう。


 それが、南部への反乱計画だった。


 確かに、ユイの力があれば反乱は上手くいくかもしれない。それは彼女にも分かる。


 だが、ユイは即断できなかった。何せ、戦争へ加担しろと言われたのだ。リシュー子爵が、私利私欲で戦争を起こそうとしているのではないことは分かる。


 それでも、戦争は戦争だった。人が大勢死ぬだろう。


「そこで、私はあるカードを使ってみることにしたわ」

「あるカード……?」

「占星術の猫人って分かる?」

「あれか!」


 白の初心者デッキに入っている、モンスターカードである。


占星術の猫人 モンスター:ライカン

白2 1/1 UC

このモンスターを生贄に捧げる。対象のプレイヤーの手札を見ても良い。


 そのままならば、相手の手札を覗く能力を持ったカードである。ただ、占星術という名前からして、それだけではなさそうだ。


「占星術の猫人にはフレーバーテキストがあったの。そのオッドアイは運命を見つめ、あなたに道標を与えるだろう。それって、名前の通り占星術で未来を占うってことよね?」


 そこで、思い切って占星術の猫人の特殊能力を発動させたらしい。まあ、使用を悩んでしまう理由は俺もよく分かる。


 コボルトの猫版といった感じの、二足歩行の猫なんだが、その外見はかなり可愛らしかったのだ。金と青のオッドアイを持った、真っ白な美猫である。


 こいつを生贄に捧げるのは、猫好きならかなりの躊躇いがあるだろう。


 だが、結果として彼女は、占星術による導きを得ることとなる。


「ここより南の地に向かうが吉。果たすべき使命が待っている。そういう占い結果だったわ」


 当時、リシュー子爵の領地にいた彼女にとって、南とは王都の方角である。それに気付いた彼女は、反乱に参加することを決心した。


 この世界に来た自分の使命は、リシュー子爵の反乱を助けることだと理解したからだ。


「でも、今の話を聞いて分かった。占星術の結果は、混沌の王のことを指し示していたんだわ」


 ただ、完全な勘違いとも言い難い。それは、ユイが反乱に参加してくれたおかげで、王都に近づきやすいかもしれないからだ。


 場所によっては、普通に立ち入ることが難しいかもしれない。しかし、そこが反乱軍の支配域なのであれば、ユイの権限で入り込めるかもしれない。


 もしかしたら、それも込みでの占い結果だったのかもしれないな。


「じゃあ、俺の言葉を信じてくれるか?」

「うん。勿論。私も協力するわ」

「頼む」

「ユイ殿! よろしくお願いいたしますぞ!」

「共に、混沌の王を倒そう」

「はい。よろしくおねがいします!」


次回は24日更新予定です。

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