225話 水原伊織に勝利した
地面に横たわる、ハーピーにそっくりな見た目の女性型の上半身。
レムリアスの捨て身の攻撃によって、下半身が爆散したスフィンクスの成れの果てだ。
俺たちは、スフィンクスの上半身に止めを刺そうと近づいたんだが――。
それまでの狂乱が嘘のように大人しくなったスフィンクスは、なんと俺たちに喋りかけてきたのであった。
息も絶え絶えの上半身と言葉を交わすと、驚きの事実が判明する。
なんと彼女は、死んだと思われていた青のカード使い、水原伊織だったのだ。一体、どういうことなのだろうか?
「大丈夫――ではなさそうだが……」
正直、どう接すればいいのか分からなかった。
助けてやりたい気持ちはある。だが、生命回復などを使った場合、スフィンクスとして復活するかもしれない。
その時、再び彼女の意識がなくなれば、俺たちと戦闘になる可能性が高かった。
水原も俺の懸念が分かっているらしい。力なく、首を横に振った。
「助けなくて、いい……。それよりも、話を聞いて……」
「いいのか……?」
「全部、覚えてる。私は、このまま死ぬ方が、いい……」
スフィンクスとして俺たち相手に暴れていた記憶も残っているらしい。
「水原……」
「あなたは、いい人ね……。あなたなら、後を、託せる……」
彼女はそう言って微笑むと、そのまま自分のことを途切れ途切れに語り出す。
命の火が消えかけていることは明らかだった。喋ることで、体力も消耗するはずだ。
だが、彼女を助けられない以上は、その話をキッチリ聞いてやることしか俺たちにはできなかった。
「私は――」
彼女がスフィンクスに挑むまでは、俺たちの想像通りである。
混沌の王の居場所を見つけるために、スフィンクスを排除しようとして返り討ちにあったらしい。
スフィンクスの広範囲攻撃によって召喚モンスターたちも聖霊も倒され、最後には彼女もスフィンクスに捕捉されてしまったのだ。
それでも抵抗すると、スフィンクスは混沌の力を発揮して、あっと言う間に彼女を追いつめた。
死を意識する水原伊織。
だが、そこから先は、彼女の想像を絶する事態が待っていた。
「胴体の口に、食べられ……て……」
そして、次に気が付いた時、彼女の意識はスフィンクスに混じり合っていたという。
どうやら、吸収した彼女を取り込んだらしい。そもそも、彼女が戦った時、スフィンクスは俺たちが戦った時とは違う姿をしていたそうだ。
下半身は似ているが、上半身のハーピー部分の性別は男で、顔もエルフだったらしい。
胴体の口で食らった相手の力を吸収し、自らの形質を変化させる能力があるようだった。
しかも、ただ姿形を取り込むだけではなく、その能力の大部分まで取り込むのだろう。
それが、スフィンクスがカードの力を操ることができた理由であった。
「私の、意識は……すぐに曖昧に、なって……」
半覚醒のような状態で、ボーッとしながらも何となく自我が残っていたらしい。
しかし、体が自分のものである実感は薄く、遠くで起きている映像を、ずーっと見続けているような感覚だったらしい。
次にハッキリと目が覚めたのが、俺たちに倒されたつい先ほどだったというわけだ。
ショックで意識が戻ったのかもしれない。
「……こふ……混沌、の王のこと……まかせ、て、いいで……?」
「ああ。あんたのおかげで、魔法陣の解析は完璧だし、きっと俺がどうにかする」
「……おね……がい……」
水原伊織がそう呟いて、瞳を閉じた。まだ息を引き取ってはいない。胸は上下している。
そんな時、不意に声が聞こえた。
『おめでとうございます。相手の投了により、対戦に勝利しました。報酬として、万能魔力10、各色魔力2。ポイント20が与えられます。今後、同じ相手との対戦で、互いに投了が不可能となりました』
「え?」
『対戦相手の投了による特殊勝利ですので、通常のアンティルールが適用されます。水原伊織のバインダーから5枚、柳木透様に所有権が移ります。カードをお選びください』
投了勝利なんてものがあったのか! 完全に敗北を認めた時に適用されるのか?
相手を殺しての勝利とは、報酬が違っていた。こちらの方が得られる魔力やポイントがかなり少ない。
ただ、アンティルールが少々特別だった。
今までのようにデッキのカードから選ぶのではなく、今回はバインダーのカードからも選択できるようだ。
報酬を有効化して、魔力などをゲットしていく。水原から貰った魔力だ。
「大事に使わせてもらうぞ」
そのまま、バインダーをチェックする。正直、この行動は逃避しているとも言えた。
水原を楽にしてやった方がいいのか迷ったのだが、踏ん切りがつかなかったのである。敵なら殺す覚悟はあるが、仲間意識を持った相手を殺す勇気が出なかった。
「カードの数はそれほど多くはないが……。お? このカードは……」
水原の所持するカードリストをチェックしていくと、あるカードが目に入った。
「もしかしてこのカードを使えば……」




