224話 スフィンクス撃破
レムリアスは心の底から嬉しそうな顔を浮かべると、その身を翻してスフィンクスへと突っ込んでいく。
「レムリアス。自身を強化だ」
「はい!」
その背を見つめながら、俺は手札のカードを発動した。
「肉体強化の呪印、発動! 対象はレムリアスだ!」
レムリアスの体が緑色の光に包まれる。現在の彼女は、6/5だ。小型でありながらこの能力は、今回の作戦には正に打ってつけだった。
レムリアスの飛行速度がより上昇する。強化された効果だろう。
「後は頼む!」
そして、レムリアスはゼド爺さんたちと連携しながら、スフィンクスへと肉薄した。
「グガアア!」
スフインクスも何かを感じ取ったのだろう。もしくは、水原の持っていたレムリアスの知識が残っているのか。ともかく、スフィンクスは全身の目を光らせ、魔術の光線をレムリアスに集中させた。
これが直撃すれば、強化されていたとしても一たまりもないだろう。しかし、レムリアスは驚異の機動力を発揮する。
光線の嵐を、縦横に飛び回りながら躱し続けたのだ。時にはバレルロールのような派手な動きを見せつつ、凄まじい速度でスフィンクスに肉薄した。
彼我の距離は数メートル。レムリアスがそのまま大口目がけて突進する。
「グガァァァ!」
まるでレムリアスを迎え入れるようにカパッと大きく開かれた、その醜い大口。
小煩い羽虫を噛み砕こうとでもいうのだろうか?
違う。
スフィンクスは狡猾であった。
光線の軌道は計算されていたのだ。それで倒せずとも、大技の射線にレムリアスを誘い込めるように。
大口の奥で黒い光が煌いたかと思うと、まるで巨大なレーザーのように黒い光の奔流が放たれる。
「っ!」
「ゴアアアアアァァァァァァ!」
高速で突き進むレムリアスに、回避する余裕はない。
俺たちが叫び声をあげる間もなく、レムリアスは黒い光線に呑み込まれ――なかった。
「ぬりゃあああ!」
ゼド爺さんだった。レムリアスの援護をするために、彼女とは別の方向からスフィンクスに近づいていたのである。
そして、間一髪レムリアスに体当たりを仕掛け、その軌道をずらしたのだった。
「ぐぅぅぅああぁぁ!」
「ゼド様!」
「儂は、いい! 行ってくれ!」
ゼド爺さんの両足は膝から下が光線に呑み込まれ、恐ろしいほど綺麗に消失する。即死はせずとも、危険な状態だろう。
レムリアスが悲鳴を上げる。だが、ゼド爺さんの血を吐くような叫びを聞き、すぐに彼に背を向けた。
「たああぁぁぁ!」
「グガァァッ?」
腹の中へと飛び込まれたスフィンクスが、苦し気に咆哮を上げる。明らかに嫌がっていた。
落下してきたゼド爺さんは、なんとかフォルが回収する。だが、かなり危険な状態だ。
「ゼド爺さん! 大丈夫か!」
「くはは……即死せんかったか……」
「笑ってる場合か!」
俺たちはゼド爺さんにポーションを振りかける。だが、今の手持ちのポーションでは、足を生やすような真似は無理だ。止血するのが精一杯である。
「かの妖精は……どうなった?」
「まだ分からない。スフィンクスの腹に飛び込むのは成功したんだが……」
スフィンクスは未だに空中で身を捩り、腹を大きく蠕動させながら「ゲッゲッ」と呻いている。腹の中のレムリアスを吐き出そうとしているのだろう。
しかし、もう遅かった。
「ゲッゲ――ギシィィアイイィィァアアアアアアアァァッァ!」
突如、スフィンクスが今までにないほどの大きな悲鳴を上げる。
そう。それは悲鳴だった。俺たちでもスフィンクスが泣き叫んでいると分かる程の、哀れさと痛々しさを含んでいる。
「ギイイイイイイィィィィィィイ!」
スフィンクスの下半身である獅子の腹が、ボゴリと膨れ上がった。ミチミチという肉が引きちぎられるような音を立てながら、少しずつ腹が裂けていく。
裂け目から漏れ出すのは、白い光だ。膨れ上がる光に押し負けるように、腹は肥大化し続け、裂け目が広がっていく。
そして、スフィンクスの悲鳴が響く中、ついにその腹が爆発するような勢いで破裂した。
皮膚と内臓が引きちぎられ、粉々になって周囲へと降り注ぐ。
「ギアアアアアアアアアアアァァァッァッ!」
レムリアスの姿はもうない。しかし、彼女は自分の仕事を果たした。それは間違いなかった。
下半身が砕け散ったとはいえ、まだ上半身は残っている。その始末を付けなくてはならなかった。
「いくぞ! エミルは爺さんを頼む!」
「了解でありますぞ!」
「わかりました!」
俺は残った仲間たちを引き連れて上半身の落下地点へと走った。ここまできて再生されては最悪なのだ。
「近接戦で、再生不能になるまですり潰す! いいな?」
「任せてくだされ! ワフの槍が火を噴きますぞ!」
人型をグチャグチャに潰すって言っているのに、ワフはやる気満々である。頼りになるね。
だが、上半身を取り囲んだ俺たちは、攻撃をすることを止めてしまっていた。武器を振り上げようとして、躊躇してしまったのである。
「……あなたは……カード使い……なの?」
「……!」
上半身の目には理性の色が戻っていた。それだけではない、まるで人のように話し出したのだ。
「お前は、水原伊織か?」
「ええ、そうよ……」




