206話 塔のガーディアン
塔に突入した俺たちは、各階を探索しながらゆっくりと塔を登っていった。
「次で6階か」
「ここまでは何もありませんでしたな」
「ああ、こんなに何もないとは思わなかったぜ」
2~5階までは、1階と全く変わりがなかった。広いホールが広がり、階段以外の人工物は存在しない。罠も無ければ、敵もいなかった。
ただ、それは5階までだ。
「構造が変わったな」
「ですね」
今までは階段がホールの中央に位置し、その気になれば1階から5階まで一気に登ってこれる構造だった。
しかし、6階以降は階段が続いていなかったのだ。他にあるのか、それとも特殊な方法を使わなければ上れないのか。
今まで以上に真剣に探索せねばなるまい。
「ウゥァ!」
壁の放つ光量が落ち、暗さを増したフロアに俺たちが足を踏み入れた直後だ。ポルターガイストメイドが警戒するような声をあげた。
俺たちも身構えて、周囲に目を走らせる。俺には特に異常があるようには見えない。
それに最初に気付いたのは、感覚も強化されているゼド爺さんだ。
「む、あれを見よ」
「何かありますな!」
ゼド爺さんやワフには見えているようだった。俺は自分の背負う背嚢から、魔導ランプを取り出してみた。野営用の淡い光を放つだけのタイプなので、それほど明るくはない。
何があるか分からない場所では、周囲を刺激するのは危険な場合もあるし、これくらいがちょうどいいのだ。
「うん? 確かに、なんかいる――いや、あるな」
「生物の気配は感じられん」
俺が掲げたランプの灯に照らされ、何かのシルエットが見えていた。背の高い人っぽくも見えるが……。微動だにしない。
ゼド爺さんの言う通り生物っぽさは伝わってこず、彫像やマネキンの様な雰囲気があった。
「メイドさん、フォル。偵察を頼む」
「ウア!」
「任せて下さい」
2人は、送り出されてから10秒もせずに戻ってきた。
「ウアァ!」
「う、動いちゃいました! 動いちゃいましたよ!」
メイドさんもフォルも、随分と慌てた様子だ。
「なにが――」
慌てている理由を聞こうとしたが、すぐに必要なくなった。
ホールの奥の影が、僅かに動き始めていたのだ。微かに震えながら、金属がこすれ合うような異音を放っている。
「ギギ……」
「な、なんだ? 敵なのか?」
塔のガーディアン的存在なのかもしれない。
「ええい! 仕方ない! ワフ、大型ランプだ!」
「了解でありますぞ!」
ワフがここまで使ってこなかった、大型の魔力ランプを拡張袋から取り出す。強い光が、フロアを照らし出した。町で購入したランプの中でも、一番明りが強いタイプだ。
そのお陰で、謎の影の姿もある程度確認できる。
「鎧……いや、ゴーレムか?」
「魔力はほとんど感じられないであります」
銀色の、巨大な鉄の塊だった。全身鎧を着込んだ巨漢の騎士にも見えるが、その動きには人らしさはない。それに、良く見ると関節部分なども全てが金属でできていた。
アイアンゴーレムとか、そんな奴なのだろう。この塔を作った古代エルフが作り上げたのであれば、ロボット的な存在の可能性もある。
「ギギ……ガガ!」
「攻撃してきたか!」
ゴーレムが、目の前にいたメイドさん目がけて腕を振り下ろした。ゴーレムであっても、幽霊が見えているらしい。ただ、その腕はすり抜け、メイドさんにダメージはない。
そんなゴーレムに対し、バルツの森の主が反撃を繰り出す。一気に背後に回り込むと、その背中に前足を叩き込んだのだ。
しかし、その一撃でもゴーレムは倒れなかった。バルツの森の主を強敵と認識したのか、振り返ろうと動き出す。
ただ、重量級であるが故に、その動きはそれほど速くはない。その間に、もう1体のバルツの森の主が接近し、再びその背中に攻撃を食わらせていた。
「ギギ……!」
すると、ゴーレムは盛大にバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。必死に起き上がろうとしているのだが、どうにも動きが緩慢である。
そして、数秒もすると動かなくなってしまった。
「弱い……。いや、バルツビーストたちがいてくれたから勝てたが、弱いモンスターばかりだったら苦戦してたかもな」
「そうだな。見よ、バルツの森の主たちの連撃を受けても、多少凹んでいるだけだ。恐ろしく強靭な素材でできている」
ゼド爺さんの言う通り、ゴーレムの背中にはボコリと凹んでいる箇所がある。ただ、それだけとも言えた。
攻撃力がどれほどなのかは分からないが、防御面ではかなり堅いのだろう。
「これは、魔導鎧のオリジナルやもしれん」
「特務騎士の着てた、あれか?」
「うむ」
以前戦った特務騎士たちの着込んでいた、特級魔導鎧。凄まじい防御力に、自爆機能などまで備えていた。
あれは、古代遺跡から見つかった鎧を原型に生み出された魔道具であるらしい。言われてみると、似ているかもしれん。
「素材も、同じものでありますな。動力系統も似ているのであります」
「ワフ、もしかしてゴーレムについても知識があるのか?」
「当然でありますぞ。ワフは雑用担当でありますからな」
出ました! ワフの雑用万能説! ワフ並みに何でもこなせなきゃなれないなら、雑用ってこの世で一番難しい仕事だと思う。
「つまり、現代人にとっては古代の超兵器でも、古代エルフにとっては警備員的な存在だったってことか」
「うむ。そうなるの」
それって、この先は最低でもこのレベルの奴がバンバン出てくるかもしれないってことか?
その後、ゴーレムの調査はワフに任せ、俺たちはフロアの探索を行った。初めて変化があった階だからな、バルツビーストたちの鼻も使い、隅々まで念入りに探っていく。
その結果、もう1体のゴーレムを発見したが、こちらは動くことさえできなかった。モンスターたちの総攻撃で、動く前に破壊されてしまったのだ。
先程、目立ったダメージを与えられなかったことが悔しかったのか、バルツの森の主たちの攻撃は殊更苛烈であった。
頭部が完全に潰されてしまったのも、仕方のない事だろう。
結局、このフロアの発見はゴーレムだけだったな。ただ、これより上の階は、今まで以上に気合を入れて上っていかなくてはならないだろう。罠なども視野に入れなくては。
俺たちは武器を構えながら今まで以上に慎重に階段を上っていく。
どうやら6階からは、フロアの端に階段が設置しているらしい。しかも、次の階段を使うには、フロアの端へと移動しなくてはならない。ただ上るだけでもかなり時間がかかりそうだった。
とは言え、その後は何事もなく、10階まで登ってきてしまった。7~10階はゴーレムさえ存在していなかったのだ。拍子抜けである。
ただ、11階で、新しい発見があった。
「トールさん! これを見てください!」
「何かあったか?」
「はい。この筒の中なんですけど……」
エミルが見つけたのは、銀色の円筒形の筒であった。サイズは、電話ボックスくらいありそうだ。
扉のようなガラスが前面に取り付けられていたらしいが、粉々に砕けている。そして、その筒の中に、明らかに生物の残骸と思われる物が残されていた。
「骨ですよね、これ」
「だな。しかも結構大きいが……」
頭蓋骨は、人っぽい形である。ただ、口には鋭い牙が並んでいるので、エルフではなさそうだ。
「うーむ。獣人に似ておりますが……。骨が少し変ですな。手の爪が異様に長いのですぞ。それに尾もありませぬ」
骨を調べていたワフは、首を捻っている。どうも、ワフの知識を以ってしても魔獣の種類を特定できないらしい。
しかし、思わぬところから答えが出てきた。
「それは、エルフの作り出したキメラでしょう」
フォルだった。どうも、古代エルフは自分たちで新種の魔獣を造り出し、使役していたらしい。獣人以上の身体能力と狂暴性を持った、戦闘用の生命体だ。
「ゴーレムの次はキメラかよ。凄まじいな」
「神への冒涜です」
精霊的にはこれも許し難い存在であるようだった。フォルは憤りを隠そうともせず、骨を見つめている。11階のガーディアンだったのかな?
ゴーレムはともかく、生物であるキメラは長い年月に耐え切れず、死んでしまったということだろう。
6階がゴーレム。11階にはキメラ。となると、次に何かいるのは16階かね?




