195話 使徒の真実
「僕ら神は混沌の王なんて呼んでいるけど、他の混沌を生み出す、一番大きい混沌の源って思ってくれればいいよ。それをどうにかしてほしいっていうのが、僕からのお願いさ」
「……混沌がヤバいっていうのは分かる。だが、それならもっとこう……やりようがあるんじゃないか?」
それこそ、優秀な人材に超チートを与えればいい。
なぜ、俺なんだ? カードなんて使い辛い能力で。なんというか、中途半端な気がした。
混沌の王を倒してほしいが、そこまで切羽詰まっていないということか?
だが、そうではないらしい。
「混沌の王を放置しておけばクレナクレムは滅びるだろうね」
「は? まじか?」
「まじだねぇ。混沌の王の影響力は日々増している。大精霊が、混沌憑きになりかけるほどにね」
「ヤバいじゃないか! なんで、そんな冷静なんだ!」
「だって、これは僕ら神々と、混沌の王の勝負みたいなものじゃないか? 世界の命運を賭けたね! 勝負中に取り乱すのは最悪なんだよ?」
「だからって、負けたら世界が滅ぶのに……」
人だったら狂っているが、相手は神だ。きっと、俺たちとは精神の作りが違うんだろう。
「だからこそ、君には期待してるよ?」
「まてまて、なんで、俺なんだ! そもそも、カード使いばかりなのはなんでだ? 確か、勇者とか賢者がいたんだろ? そういうのは?」
「あー、それね。実は、神々で賭けをしていたのさ」
この世界にはセルエノン以外にも神様が複数いる。その中でも大神と呼ばれる4柱が、主神として君臨しているらしい。
遊戯の神セルエノン。戦いの神ブラスログン。愛の神アーンセルム。知恵の神ミスティア。
彼らは混沌の王に対抗するため、異界から使徒を召喚する決断を下した。自身が定めた法によって、下界に直接手を下すことが不可能な神々にとっては、唯一下界に干渉する方法であるそうだ。
クレナクレムの人間に加護を与えるんじゃダメなのかと思ったが、それも難しいらしい。異界から呼んだ魂じゃないと、大きな力を与えられないんだとか。
しかし、神々の意見が割れてしまう。神々であっても、何十人もの使徒を呼ぶことはできないし、与えられる力は無限ではない。
混沌の王を滅ぼすともなれば、神々が力を結集させる必要があった。
その際、どの神が主導し、どんな使徒を召喚するかで揉めたそうだ。それぞれが我こそが絶対と考える、主神同士。話し合いは平行線で進まない。
そこで、彼らはそれぞれが一人ずつ使徒を作り出し、その成果で競うことにした。他の3人の使徒が死ぬか、1年経って最も混沌を倒した者が勝者となり、真の使徒と認められる。
あとは他の神々が残していた力を、勝った神に譲渡し、その力を使って使徒をさらに強化するなどして、混沌の王への対策を任せるのだ。
「その結果勝利したのが、君と僕って訳さ!」
「ちょっと待て、たしか、他の転生者って、10日くらいで死んだって言ってたよな?」
「うん」
「期限が1年って言ったか?」
「あははは。早過ぎたよね。僕も驚いたよ。アーンセルムは人間を少しは分かってるし、彼女の使徒ならもう少し長生きするかと思ったんだけど……。まさか、ああなるとはねぇ」
セルエノンが苦笑しながら肩をすくめる。
「他の神々は、君だけが死んで、生き残った他の3人の中から真の使徒を選ぶつもりだったみたいだよ?」
そりゃあ、俺だって他の神様と同じようなことを考えるだろう。勇者や賢者は、元々地球でもエリートだった人間に、まともなチートを授けていたはずなのだ。俺だけが、落ちこぼれに面白能力だった。
セルエノンは思い付きで俺にカード能力を与えたって言ってたよな? 世界の命運を握る賭けの最中に、そんなことしてたのか?
「カード使いの力は、僕の神格と相性がいいし、悪くない選択なんだよ? 君とともにゆっくりと成長することで、君にしっかりと馴染むんだ。実際、賭けには勝ったしね!」
そうしてセルエノンは他の神々から力を奪い、主導権を握ったそうだ。
「あれ? 俺、特に強化とかしてもらったか? 効果時間を明記してもらったアレか?」
「いや、その力を既にいる使徒の強化に使うかどうかなんて、僕次第だから。単に君を強化しても面白くないだろ?」
「……」
あー、こういうやつだよね。怒りよりも、納得の方が強くなってしまう。
「じゃあ、その力の行方は……他のカード使いたちか?」
「そのとーり! 君も僕のことが分かってきたねぇ」
「残念ながらな……」
「睨むねぇ。いいよ。そういう目ができなきゃ、生き残ることなんてできやしないからね」
「転生者同士の殺し合いを誘導した訳じゃ、ないんだよな?」
「勿論さ。信じてくれるのかな?」
「ああ。お前のやり口じゃないからな」
「ふふ。君たちが殺し合うように誘導したって面白くないし、別にそれで得もないしね」
どうも、収まりが付かない他の神々を完全に黙らせるために、セルエノンが新たな使徒召喚を認めたらしい。
「あいつら、僕のやり方じゃ心配だーとか喚くから煩くてねぇ。力の譲渡は済んでるから無視してもいいんだけど、余りにも嘆くからさぁ」
他の神々の気持ちが痛いほどよく分かる。そりゃあ、こいつと俺に、世界の命運は託せないだろう。
他の3柱の神々が新たに転生者を選び、その転生者にセルエノンがカードの力を与える。そういうことになったらしい。
だが、それにしては他の転生者が微妙なんだが……。
「君が考えていることはよーくわかるよ? まあ、奴らの基準だと、優秀な人間だったみたいだね」
「そ、そうか」
「あいつら、人間を全然分かってないからね。だから、保険をかけたんだよ? 君が気になってる、他のカード使いを倒した時にもらえる勝利報酬のことさ」
セルエノンは、他の神々が選んだ新たな転生者が暴走し、殺し合いに発展することも織り込み済みだったようだ。
その際に、勝った側の消耗の補填として、勝利報酬を設定していたらしい。潰し合って、両者が死んでしまうことは避けたかったのだろう。
それだけではなく、実は勝利数に応じて、能力が強化される仕組みになっているらしい。
つまり神々にとっては、全員で力を合せてくれても、殺し合いになったとしても、彼らが使徒に与えた力の総量は変わらないようになっているようだ。
不慮の事故で死んでしまった際は、セルエノンに力が戻ってくるので、やはり問題ないという。
最終的に混沌の王さえ倒せればそれでいいという考え方なのだろう。
人によっては、駒扱いされたとかで、怒り出す奴がいる場面だと思う。滅ぶかもしれない世界に転生させられたんだ。騙されたといってもいい。だが、今の俺にはどうしても強い怒りの気持ちが湧いてこなかった。
こっちの世界にやってくることができて良かったと、心の底から思ってしまっているからだろう。たくさんの大切な人たちに出会い、その人たちに囲まれて生きる。
その生き方ができているのも、セルエノンが俺をクレナクレムに転生させてくれたおかげなのだ。
怒りや疑念がないわけではないが、それ以上に感謝の念が強かった。そもそも、死ぬところを転生させてもらい、チートを与えられているんだからな。文句を言うのは贅沢すぎるだろう。
「じゃあ、勝利した俺の力も強化されてるのか? 実はモンスターたちが強くなっていたり?」
「ワフのスペックが超強化されてるはずだけど。戦闘面とか」
「カードじゃないのかよ!」
「そんな、カードの能力を後から弄って変更するなんてズル、遊戯の神としては許容できないよ! それに、ワフがいれば君が生き残る確率も上がるし、悪くないだろう?」
「ま、まあ。実際命を救われたしな……」
ワフのハイスペックは、実は密かにセルエノンによって強化されていたお陰であったようだ。納得だぜ。
「……言いたいことはあるが、今は一番大事なことを知りたい。混沌の王はどこにいる?」
「うんうん。その前向きな姿勢はいいよ! 成長したね! 転生前の君だったら、きっと取り乱してたんじゃないかな?」
「かもな」
「でも、残念なお知らせ。僕らでも正確な場所は分からないんだ」
「はあ? 神様でも?」
「それだけ厄介な相手なんだよ。でもね、関係ありそうな場所はある。そこを調べれば、きっと色々分かるはずさ。だからこそ、使徒たちはその近辺に転生させたんだから」
「それは、どこだ?」
「樹海の北部。君が塔と呼んでいる場所だ」
「あそこか!」
樹海の北側。細長い塔のような建造物があるのは、拠点からでも見えていた。だが、樹海を北に行けば行くほど魔獣も強力になるというし、俺たちがそこまで到達したことはない。
「できるだけ早く、あそこを調べてほしい」
「……期限は?」
「今日明日にとは言わないけど……。この世界、5年は持たないだろうね。それに、滅びなかったからって、被害がないわけじゃないんだ。早ければ早い方がいい。まあ、現実的に考えれば、1ヶ月以内ってとこかな?」




