115話 アイオールは知っている
「まあ、カード使いさんと、できれば敵対したくはないっすからね」
「何?」
見えるのか? いや、俺は手札もバインダーも可視化していない。アイオールには見えていないはずだ。
ルファスとの戦いで肉体強化の呪印を使用したため、それを見ていたのかもしれないが……。
それだけで「カード使い」と言うか?
「いやー、視線でバレバレっすよ? 明らかに俺には見えない手札を見てるでしょう?」
あっさりとそう告げるアイオール。しかし、それが何故わかる? 見えない何かを見ている。確かにそれは、観察力がある人間なら見抜けるだろう。
しかし、その見えない何かがカードであると言い当てることなど可能か? しかもアイオールの口ぶりからすると、確信があるようだ。
「お前は何を――っ!」
アイオールの正体が分からず、さらに質問をぶつけようとした時だった。
俺は思わず動きを止めてしまっていた。
カードが戻ってきたのだ。しかもかなりの枚数である。俺はアイオールを警戒しつつも、バインダーを開いた。そして、視線だけを僅かに動かし、墓地のカードを確認する。
すると、アイオールが何かを理解した様子で頷いた。
「何かありましたか? 見てるのは手札じゃないようっすね?」
「……」
俺はその言葉を無視して、バインダーに視線を落とす。何を言っても、無駄に情報を与えるだけだと思ったからだ。
戻ってきたのは巨人殺しのニシキヘビを筆頭とした、囮役のモンスターたちだった。このタイミングということは、全てのモンスターが同時に倒されたということだ。
特務騎士なら可能かもしれない。その力の一端を見た後なら、そう思える。
だが、ルファスもアイオールもここにいた。じゃあ、誰の仕業だ? アイオールの仲間? それとも、全く関係ない? たまたま通りがかった超強い冒険者が討伐した?
「……他にも、この近くに特務騎士がいるのか?」
「え? ああ、もしかしてモンスターカードが戻ってきました? しかもその質問。切り札級のモンスターが倒された感じっすかね? 例の巨大な蛇っすか?」
ああ、もう確定だ。アイオールはカード使いを知っている。どう見ても日本人ではないから、アイオール本人ではないと思うが……。
「あー、ひとつ言わせてもらいますと。マジでここで敵対するつもりはないんすよ? ただ、あの蛇は放置できなかったんで、俺の主が相手をしていたはずなんすけどね……。うっかり倒しちまったみたいです。そこはすいませんね」
倒しちまったって……。巨人殺しのニシキヘビはうっかり倒せるような雑魚じゃないぞ?
「お前は……お前らは何なんだ?」
「さてさて? なんと答えればいいっすかね? 特務騎士にして、王国の裏切り者。そして、ある人物に忠誠を誓う者でもあるっすね」
「ある人物……」
「それはまだ内緒ということで。ただ、さっきも言ったっすが、俺たちは現状あなたと敵対するつもりはないっす。それが主の方針っすから」
ルファスを邪魔だと思う人物が、アイオールの主人であるらしい。そして、アイオールの仲間には確実にカード使い――つまり俺や白井と同じ転生者がいる。
敵か味方かも分からなかった。白井と殺し合っておいて、今さら同郷だから仲間に成れるかもしれないなどとは思わない。
「その――」
「ああ、そろそろ行かないといけないっす。質問はまた今度で」
俺がさらに質問をぶつける前に、アイオールは踵を返して走り出した。
「ま、今日のところは顔見せってことで! そうそう! お探しの犬耳娘ですが、屋敷の2階にいるっすよ! 北の部屋っす!」
そんな言葉だけを残して去っていくアイオール。メチャクチャ速い! あっと言う間に視えなくなってしまった。
しかし、追うことはしない。むしろ、見逃してもらったのは満身創痍のこっちだ。それに、今はワフの救出が最重要であった。
「ガ……」
「大剣士! 大丈夫か?」
強敵が去ったことで緊張が解けたのだろう。虎人の大剣士がその場で片膝をついた。いや、それだけではなく、+2/+2強化の効果時間が終わってしまったらしい。
能力によって変貌していた肉体が、元の状態に戻っていく。筋肉が収縮し、毛皮から元の皮膚へと、ゆっくり変化していった。
同時に大量の血が大剣士の体から溢れ出していく。ルファスとの戦闘で受けたダメージは、8/6状態であれば瀕死に陥るほどの大怪我ではなかった。だが、6/4に戻った大剣士にとっては、危険なレベルの怪我なのだろう。このまま肉体強化の呪印の効果が切れれば、そのままカード化してしまうかもしれなかった。
顔色は毛皮のせいで分からないが、弱々しい呼吸が大剣士の生命力の退化具合を教えてくれていた。
「ほら、これを飲め!」
「……ガル」
もうポーションを吸う力もないか? 俺は大剣士を支えると、ポーションの瓶を口に持っていった。
「頑張れ! なんとか飲んでくれ!」
「ガ」
半ば無理やり口に注ぎ込む形になってしまったが、なんとか飲み込んでくれた。
直後、半分ほどの傷が消え、血が止まる。こういう魔法的な現象は、何度見ても驚きだ。特に傷が治る様は、違和感しかなかった。
ただ、今飲ませたのは下級ポーションだ。ルファスの奇襲を受けた際に使ったものと違い、効果が薄かった。
小さな傷は塞がっても、大きな傷はまだ残っているし、完治には程遠い。
「動けるか?」
生命回復を使うと、魔力が一気になくなってしまう。申し訳ないが、この状態で歩いてもらおう。
「ガオ」
立ち上がる時に軽くフラついたものの、足取りはしっかりしている。危険な状態は脱したのだろう。
「よし、ワフを捜すぞ」
仕事が立て込んでおり、執筆が少し難しい状況です。
次回は3/8更新とさせてください。




