101話 ワフの居場所は?
夜、情報収集を終えた俺たちは、宿の部屋で作戦会議をしていた。その場にはトビアの姿もある。
一応の偽装として、夕食時に意気投合して部屋でさらに飲むという体をとっていた。
「奴隷商人に獣人が売られたっていう話はまだない。獣人は珍しいから、その情報が完全に隠し通せるわけはない。確実だと思う」
「やはり、領主の館か」
「間違いないだろう。とは言え、正確な場所は分からなかった。済まん」
「それは仕方あるまい」
トビアは領主の館に勤める兵士に酒をしこたま飲ませて話を聞いたそうだが、彼らもワフの居場所は分からなかった。
ただ、馬車の中から連れ出される獣人の子供を見た兵士がいたというので、ワフはやはり領主の館にいる可能性が高そうだ。
もう1つ良い情報がある。領主御用達の奴隷商人が町を出ているらしい。戻ってくるのは明後日の夜になるそうだ。
その日までは、ワフが売られてしまうことはないと思われた。
ただ、その日が来れば、すぐに売り払われてしまう可能性もある。猶予は明日と明後日だけということだろう。
となると、明日で準備を終えないといけないわけか。侵入経路のチェックに、逃走経路の確認も必要だろう。
それと、召喚をどうするか。理想は、潜入能力の高い魔獣を使って事前にワフの居場所を突き止め、短時間で救う方法だろう。
だが、現在の手札にそれ系の魔獣はいない。無駄に使うには少々勿体ないカードが多いのも、悩ませる要因の1つだ。
ただ、大地の魔力、鉱石発見という2種類のマナを生み出すカードがあるので、それを先に使ってしまい、ドローに賭けるという手もある。
実は、町に入ったことで、試練が達成されているので、魔力を少し得ることができた。
初めて訪れる町に入る:万能魔力2、ポイント2
これって、もしかして初見の町なら何度でも達成されるんだろうか? だとしたら、町や村が多い地域を旅すれば、ポイントをためやすいかもしれないな。
ともかく、現在の万能魔力が5、緑魔力が1、黒魔力が1。この万能魔力とマナ湧出カードがあれば、巨人殺しのニシキヘビを召喚してもまだ余裕があるだろう。
さらに、トビアたちと逃走経路を話し合った。
領主の館の周囲には壁があるが、精々3メートルほどだという。身体能力が強化された今のゼド爺さん、エミルであれば普通に登れるだろう。2人に補助してもらえば、俺でもなんとかなるはずだ。
そして、領主館のすぐ西側に、町に出入りが可能な門がある。夜にならなければ門が閉まることはないので、町の兵士たちに騒ぎが伝わる前ならばここから脱出することも可能だという。
最悪、強行突破だな。
潜入に関しては、ワフの居場所が分からなければどうしようもない。
明日一日トビアたちが調べてくれるそうだが、俺たちも動くつもりだ。蔦鼠なら誰にも気づかれずに、ワフを捜せるだろう。
チェシャ猫がもう少し普通の猫に近い毛色だったら、捜索の手を2倍にできるんだがな。さすがにこの派手な猫では目立って仕方ないのだ。
「では、明日の夜にまた来ます」
「頼む。だが、無理はするなよ?」
「……マリティアの容体が、安定したんだ」
「おお、そうか! それは良かった」
「本当ですね」
トビアはすでに俺たちが渡した薬をマリティアに飲ませていたらしい。完治したかどうかは分からないが、少なくとも日常生活が問題ない程度には回復したそうだ。
「この恩は、絶対に返す。かならず獣人の嬢ちゃんの場所は突き止めてみせる」
「もう一度言うが、無理はするな。焦って露見しては元も子もないのだ」
「分かっている。そこは任せておいてくれ」
トビアが最後にもう1度頭を下げて、宿を去っていった。
「女の子の病気が治ってよかったですね」
「まったくだな」
「これでワフを取り戻せれば、完璧だ」
「うむ」
「はい!」
日付が変わった直後、俺は明日の準備をすることにした。
「このカードを使っておくか」
俺が使用するのは、鉱石発見のカードだ。
「石よ。力を秘めし石よ。お前はどこにいるのだろうか? 私の前に姿を見せよ。鉱石発見!」
呪文とともに、手札の鉱石発見が一瞬光り、虚空へと溶けるように消えていった。だが、何も起こらない。
見ていたゼド爺さんとエミルも拍子抜けした顔で、首を傾げている。
「何も起きぬな?」
「失敗ですか?」
「いや、失敗じゃない。これで成功だ。魔力もちゃんと消費されているからな」
鉱石発見の効果が発揮されるのは、今ではないのだ。
鉱石発見 魔力4 UC スペル
詠唱、3日間、零時になる度に好きな色の魔力を2点生み出せる。
つまり、明日の零時になった時、好きな色の魔力を生み出せるというわけだった。これで、明後日から使える魔力が増える。戦略の幅が広がるはずだ。
そして、ここではかなり重要となるドローだが、中々当たりのカードであった。
「蔦鼠だ。早速呼び出しておこう」
これでワフ捜索の目が2倍になる。
「で、蔦鼠の次に引いたのがこいつか!」
「その反応。何か良いカードを引いたのか?」
「ああ! こいつがあれば、逃走がかなり楽になるぞ!」
「ほう? これは……」
「翼の生えたお馬さんですか?」
そう、俺が引き当てたのは、白い馬の体に、やや黄味がかった翼の生えたペガサスのカードだった。
「伝令のペガサスだ」
伝令のペガサス モンスター:霊獣
黄3 1/2 C
飛行
イラストのペガサスには鞍も置かれ、手綱もかけられている。明らかに人が乗ることを想定しているカードだった。
馬なんか乗った経験はないが、カードの魔獣は総じて頭がいい。乗馬スキルがなくとも、乗ることはできるだろう。
目立ちはするものの、逃走するには適したカードだ。
「よしよし、運が向いてきてるぞ」




