オレンジマフラー①
「まるで、夕焼けのような人」
太陽と月を繋ぐ、目を奪われる程の夕暮れ。
―オレンジマフラー①
「アツ、何色が好き?」
圭介が問う。
文化祭の看板の色を決めたいようだ。
「青」
俺は構わず素直に好きな色を答える。
こういう行事は、大抵圭介が張り切って何から何まで勝手にこなす。
ここで俺が、真剣に看板の色合いを考えたところで意見が通る訳が無い。
圭介が自らの考えを押し通すからだ。
それでも一応、形だけでも聞いてくれるのは、彼なりの優しさなのだろうか。
「ばっか、アツ。良く考えろ。看板は目立たなきゃならない。文化祭は目立たなきゃならない!目立つと言ったら…赤だろ!赤!」
思った通りだ。
俺の意見なんて、聞きやしないんだ。大澤圭介という男は。
「じゃ、赤で」
俺も自分の意見を押し通したりしない。
楽しけりゃいいんだ、文化祭なんて。
そして、圭介に任せておけば、自ずと楽しくなるに決まってる。
「やだよ、ピンクがいい!で、花柄にするの!」
「そっちのほうが嫌だよ。ふざけんなメルヘン」
「いいじゃん!可愛いよ!」
傍らでは、森野と祥太郎がもめてる。
悪い、森野。俺も花柄は嫌だ。
「里帆、ピンクも花柄も却下だ。俺は赤がいい」
そう圭介は言った後、赤色の良さを力説し出す。
よくもまあ、そこまで赤の利点をペラペラ言えるものだ。
圭介独裁政権の我がクラスの看板は、何となく赤で決定の方向に向かっていた。
みんな、なんだかんだで解ってるんだ。圭介に任せれば、楽しくやれること。
そんな雰囲気の中、挙手がひとり。
「あの…オレンジがいいです」
彼女が何故、赤色に反発したのか、今でも解らない。
ただ彼女は、明確な意思を持って、オレンジ色を推した。
そして、珍しく圭介の意見が却下され、看板はオレンジ色で造られることになった。
まあ、圭介もオレンジ色が気に入ったからでもあるんだけど。
******
看板造りは意外に大掛かりで、連日放課後遅くまで作業した。
それは、青空が橙に染まる頃まで及び、その空を見る度に、看板はオレンジ色で正解だったと思わずにはいれなかったんだ。
ペンキもスプレーも、匂いが教室に籠ってしまうのは出来れば避けたい。
だから極力、外に出て看板製作に励む。空は今日も、鮮やかなオレンジだ。
真剣にオレンジ色を塗る彼女の横顔も、夕焼け色を映し出していて、上手くは言えないけれど、なんだか儚げだった。
同時にひどく、オレンジ色が似合う人だと思った。
「寒ィよ、寒い!まだ10月だぜ?」
文句を口に出さなければ作業ができないのが圭介の癖だった。
この時も、ブレザーの上にジャージをマフラーのように巻き、グチグチ言いながら右手を動かす。
文句は言うが、しっかり働くところは圭介のいい所だと俺は思う。
まあ、文句も言わず働いてくれた方が喜ばしいのだけれど。
「圭介、それダサいよ。ジャージ的マフラー」
里帆が圭介を横目に呟く。
確かにダサいんだ。
「里帆、マフラー的ジャージだ」
祥太郎は基本的に不器用だ。
両手にオレンジ色を果てしなくこびりつかせている。その左手が、また乾き切っていないオレンジ色の上に乗っていることは黙っておこう。
どうせ、言ったところで意味は無いんだ。繰り返すんだから、祥太郎は。
「ジャジマフの何がダサいんだ!」
「見た目」
「名前」
「存在」
ひたすら圭介は、ジャジマフの最先端ぶりを主張していたけれど、聞き流した。
オレンジの横顔の彼女が、俺達の様子に微笑んだのが視界に入ったからだ。
君にはきっと、オレンジのマフラーが良く似合う。
まるで夕焼けのような人。
看板の完成は、近い。




