過去?それとも……
僕は華子にこのまま中井美穂子の笑い声も言葉も聞かせたくなかった。
両親が誠に話し掛けた。
「誠君、暫く華子は私の家で暮らさせるよ。」
「あ………はい。」
「ここでは、色々話せないこともあるだろう。
退院したら、私の家で君の話を聞くことにする。」
「……はい。」
「華子、もう家に帰ろう。
ここに居ても辛いだろう。」
「華子さん、そうしましょうね。」
「…………お父様、お母様………。」
カーテンの向こうから声が聞こえて来た。
「奥さんが居るのね。」
「美穂子! 止めないか。」
「………分かったわよ。」
カーテンが開いて、夫と名乗った中井良太が出て来た。
⦅まだ居たんだ……居たのに、あんなこと言わせたんだ。⦆
「済みません。事故の後で混乱していると思います。
それから、子どもは俺の子です。
血液型も俺と同じO型です。
顔も俺にそっくりです。
間違いありません。
それだけはお伝えしておきます。」
「分かりました。
中井さんも親ならお分かりになることと存じます。
誠君に嫁いだ私の娘は、私どもにとりまして大切な娘でございます。
娘に関わることでございましたら、私にも知る権利があると存じます。
そちらの奥様と誠君が何故同じ車に乗って居たか……。
退院されましたら教えて頂きますようお願い致します。」
「……はい、俺も知りたいことですので……。」
「では、失礼します。」
父はそう言ってカーテンを閉めた。
「お義父さん、済みません。」
「誠君、私は君を信頼して華子を委ねた。」
「はい。」
「ただ、その判断が間違っていたように今は思っている。」
「お義父さん!」
「誠君、落ち着き給え。 傷に障る。」
「あ………はい。」
「入院しているのに妻が見舞いに来ないのは可笑しい事だが……。
今の状況では見舞いには来られない、と思ってくれ給え。」
「………それが、華子の気持ちなら……致し方無いことだと存じます。」
「………誠さん、お隣の方がいらっしゃるでしょう。
……華子にとって辛いと思いますわ。
ご理解下さいまし、ね。」
「……お義母さん………そのことについてお話したいのです。華子に……。」
「誠君、ここでは無理だ。
退院してから我が家で話して欲しい。いいね。」
「……はい………華子……ごめんな。」
「……………………。」
「華子、僕を信じて欲しい。頼むから……信じてくれ。」
「……………………。」
華子は俯いたままだった。
「華子……頼む。
僕を信じてくれ。」
昨日と同じだった。
カーテンを開けて出て行く時、誠は華子に手を差し伸べて「華子……頼む。僕を信じてくれ。」と言ったのだ。
華子は答えられなかった。
俯いた顔を僅かに上げて、誠の方を見た。
懸命に笑みを作った華子が言葉を発することが無いまま病棟を出た。
救急病棟でなければ、男女がカーテンがあるとはいえ、同じ部屋ではないだろう。
それも華子にとって辛いことだ。
華子が可哀想で仕方なかった。
◇◇◇◇
高嶋家に帰った父は、華子の傍に母を付き添わせた。
眠れない日を過ごしている華子の身体が心配だ。
リビングで父に聞いた。
「どうする気ですか?」
「調査をする。」
「調査?」
「あの中井美穂子という女性と誠君の間に何があったのか。
同じ車に乗るような間柄なのか。」
「不倫かどうか……ですか?」
「それを調べる。」
「分かりました。僕に出来ることはありますか?」
「何も無い。」
「何も無い……ですか。」
「ただ、華子の味方で居てやって欲しい。頼む。」
「お父様、僕は華子の兄です。誠君の味方にはなれません。」
「ありがとう。頼んだよ。」
「はい、お父様。」
調査結果を父と母、そして……高嶋家の皆が待った。




