見合い
私は何度か見合いをした。
今日の見合い相手は、父の友人の息子だという。
母の言う「女は愛された方が幸せ」の言葉通りに、私を愛してくれる人との結婚を私は望んだ。
結婚出来たら、雄一を忘れ去ることが出来るようになりたいと切望した。
見合いするのは雄一への想いを完全に断ち切りたいからだった。
でも、見合い相手との結婚を考えることさえ出来なかった。
どうしても比較してしまうのだ。雄一と……。
無意識だったが、雄一の顔が、声が、姿が、現れてしまい、どうしても断りたくなるのだった。
華子が断ってしまうので、見合いがなかなか決まらなかった。
「このまま家に居させるのは如何なものか?」と兄が言ったことで、短大を卒業して1年後に私が就職することを父は許した。
その就職先は高嶋家が経営する会社だった。
私は父が作った籠の中から出られなかった。
◇◇◇◇
今日は見合いの日。
今度の相手は、父の古くからの知人の息子だという。
仲人から紹介された相手は、雄一のような美丈夫ではない。
見劣りがした。
その男性は耳まで真っ赤にして私を見ていた。
そのような熱い視線を私は生まれて初めて感じた。
「若いお二人で。」という言葉がきっかけで私は見合い相手とホテルの庭園を歩いた。
在り来たりの質問をする私に、相手の男性は全て真剣に答えている。
私は早く帰りたかった。
相手の言葉を聞いていなかった。
「華子さん、僕のことがお嫌でしたら………今、お断り下さい。」
「えっ?……今、なんと仰いました?」
「僕のことが気に入らないのでしたら、今直ぐにお断り頂いても宜しいのです。
僕のことは気になさらないで下さい。
華子さんからお断りし辛いのでしたら、その……僕からお話します。」
「………あの、お仲人さんには、その、どのようにお話になるのですか?」
「そのまま、お話致します。
あ、でも少し変えた方が華子さんに傷が付きませんね。」
「えっ?」
「そうだな………理由は………お互いに……合わないと思いました。
どうでしょう?」
「私は助かりますが………宜しいのですか?」
「はい………華子さんの体裁が整えばどういう理由でも僕は気にしません。
女性から好かれること自体がありませんから……。」
「あの………お見合いは何度かなさいましたの?」
「いいえ……今日が初めてです。」
「初めて……それなのに、私の体裁とか考えて下さいますのね。」
「それは、当然のことでしょう。
僕は男ですから、周囲は気にしません。
でも、女性は違うように思います。」
「お優しいのですね。」
「………そ……そんなこと……ありません。」
そう言った男性は顔が真っ赤になっていた。
そして、取り出したハンカチで顔を拭きながら「今日は暑いですね。」と言った。
冬なのに………。
その様子が身体と顔と不釣り合いで私は思わず笑いそうになった。
笑わないように我慢して居る私の目に、少しモジモジしている見合い相手を見てしまった。
もう我慢出来なかった。
そして、ついに見合いの席で私は初めて笑ってしまった。
⦅可愛い。⦆と思ってしまったのだ。
笑っている私を見て「良かった……。」と見合い相手は言った。
それからの時間はお互いに少し打ち解けて話せた。
今日の見合い相手の名は、矢沢和宏。
兄・氏郷と同い年。
雄一とも同い年である。
その見合いの後、矢沢和宏が私に確認するように聞いた。
「この見合い、どうしましょう?
華子さんが嫌だと御思いで……断りにくかったら僕から断ります。
先ほどお話しましたように、お仲人さんにお伝えします。
あの………華子さんは僕が嫌ですか?
あの……偽りなく仰って下さい。
華子さんのお気持ちを大切にします。」
華子は返事が出来なかった。
嫌では無かったからだ。
返事が無い事で和宏は「あの……僕でも宜しければ……友達から付き合って頂けませんか?」と言った。
⦅えっ? お見合いなのに……お友達から?⦆
私は和宏の言葉の意味が分からないまま、その返事も出来ずにお見合いは終わった。




