表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第3話 ウルフィとの戦い

三日目の夜だった。


焚き火の前で、少女は膝を抱えていた。

火の温度と、闇の深さの境目が、

だいぶ分かるようになってきた。


生き延びた、という感覚が、

ようやく現実味を帯びてきている。


分かったことはいくつかある。


まず、兵士たち。

彼らは自分たちを「帝国」と呼んでいた。


遠くから聞こえてくる号令や、装備の統一感。

あれは、組織だ。

そして、彼らは動物たちと戦っている。


――動物たち


動物、と呼ぶには、少しおかしい。


割と強い。

数で押すだけじゃなく、動きがいい。


中には、体の奥から淡い光を放ちながら

応戦している個体もいた。

狼に似た姿で、牙と爪だけじゃない

何かを使っている。


――魔獣。


そう呼んだ方が、近い気がした。


時々、新しい魔獣の死体が見つかる。

傷の付き方からして、

帝国にやられたものだろう。


おかげで、少女は

魔獣を殺さずに食事ができている。

生き延びるためには助かっている。


……だからこそ、

気分は少し複雑だった。


焚き火が、ぱちりと音を立てた。


その瞬間だった。


草を踏む、軽い音。

風とは違う。


遅れた、と思った時には、

すでに遅い。


闇の縁から、影が一つ、姿を現す。

狼のような輪郭。

低い姿勢。

光る目。


次の瞬間、もう一つ。

さらに、もう一つ。


囲まれている。


逃げるには遅い。

背中を見せたら終わる距離だった。


少女は焚き火の枝を構え、前に踏み出した。


炎を振りかざし、距離を取ろうとする。


――その瞬間、足がもつれた。


踏み込みが、半拍遅れた。


身体が前に流れ、

地面に、叩きつけられる。


「痛っ!」


幼なくて可愛い声。苦笑する。


肘と膝に、熱が走った。

遅れて、ひりつくような痛み。


砂利と草で、擦り傷が出来て

血が滲んでいる。


スカートの下は、生足だ。

守るものが、何もない。


――そうか。


軽い服は、動きやすい。

でも、転べば怪我をする。


息を詰め、すぐに体を丸める。

立ち上がろうとしない。


走る前提の動きは、

今は使えない。


この服装、この身体。

弱点は、はっきりしている。


――動き方を、合わせないといけない。


滑らせる。

避ける。

当たらない前提で、動く。


次に動くなら、

真正面からじゃない。


「……来る」


声は、思ったより落ち着いていた。

身体は震えているのに。


一匹が、低く唸る。

呼応するように、別の個体が回り込む。


狩りの動きだ。

獣のそれと、変わらない。


枝を振る。

炎が揺れ、熱が伝わる。


一瞬、距離が開いた。

だが、それだけだ。


次の瞬間、

左右から同時に踏み込まれる。


ひときわ大きな魔獣が、

牙を剥いたまま間合いを詰めてきた。

逃げ場を塞ぐように、ゆっくりと。


その体が、次第に淡い光を帯び始める。


――まずい、魔法か。


帝国と、あいつらとの戦いで見たやつだ。

あの光に当たった兵士は、

次の瞬間、倒れていた。


反射的に、隠れる場所を探す。

だが、周囲には草原しかない。


逃げ場が、ない。


あれをまともに受けたら、

ただじゃ済まない。


魔獣の体から放たれる光が、さらに強まる。

淡かった輝きが、

はっきりとした青に変わっていく。


――やられる。


反射的に、息を止めた。

思わず、両腕で頭を庇うようにして目を閉じる。

そのまま、身を固くする。


観念しかけた、

その時だった。


『うぉん』


スマートフォンが

大きな音で吠えた。


着信音でも、通知音でもない。

ましてや、声ではない。


聞いたことのない音。


高くも低くもなく、

どこにも分類できない振動。


音は、連続していない。

だが、意味があると分かる。


それに反応するように、

魔獣たちの動きが、ぴたりと止まった。


牙を剥いたまま、

踏み込んだ姿勢のまま。


「グルッ」


魔獣が、低く唸った。


威嚇ではない。

戸惑いに近い、短い音だった。


次の瞬間、

はっきりとした声が、

スマートフォンから聞こえた。


「――お前は、一体何者だ?」


低く、落ち着いた声。

人間の言葉だ。


だが、人間のものではない。


少女は、焚き火の枝を握ったまま、

ゆっくりと顔を上げた。


目の前には、

狼型の魔獣がいる。


牙を見せてはいない。

だが、距離は詰めない。


動かない。


ただ、こちらを見ている。


少女は、

手の中の感触を、

確かめるように握り直した。


そこにある、

小さな板。


これが、通訳してる。


少女は、悟った。


いつの間にか、

指が、深く食い込んでいる。


視線を逸らさず、

魔獣と、向き合う。


会話は、まだない。


でも、

この距離で、

互いに動きが止まった。


何かが変わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ