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第2話 まず、準備

※第2話は、主人公が置かれた状況を整理し、

生き延びるための準備を進める回です。

派手な展開はありませんが、

この世界でどうやって生きていくのかを描いています。

立ち上がろうとして、

すぐに転んだ。


「痛っ」


声が出て、また固まる。


高い、軽い声。


思ったより、

足が前に出ない。


覚えている歩幅と違う。


地面に座り込んだまま、

両足を見る。


小さい。

脚が細い。


そのうえ、

着ているものが最悪だった。


スーツ。


しかも、ぶかぶか。


袖は指先まで覆い、

裾は地面を引きずる。


歩けば、

裾を踏んで転ぶ。


これでは、

自由に動けない。


――脱いじゃおうか。


でも、

そこで思考が切り替わる。


まずは、

持ち物の確認。


ポケットを探る。


財布。

社員証。

鍵。


この世界では

意味を持たないものばかり。


右の内ポケットに、

硬い感触。


赤い柄の

折り畳みナイフ。


刃を出し、

軽く指で撫でる。


問題ない。

切れる。


スーツを地面に広げ、

しばらく眺めた。


スーツは、

鮮やかな濃紺だった。


仕事着としては

真面目で、


でも、

少女が身に着けても

不思議と浮かない色。


布はしっかりしていて、

刃を入れても崩れない。


考えて、刃を入れた。


袖を外し、

短く整える。


ズボンは

股の縫い目を切り、

左右を開く。


余分な布を落とし、

腰の位置で

まとめる。


縫うためのものも

必要だった。


草の繊維を撚り、

糸にする。


針は、

近くに転がっていた動物の骨を

削って作った。


草の繊維を撚った糸で、

切り口を仮留めする。


上着の端も同じように処理し、

ほつれないよう、

最低限だけ縫い止めた。


出来上がったのは――


スカートのような

何かと、


袖の無い

スーツのジャケット。


試しに立ち上がる。


着心地は、悪くない。


「……まあ、

こんなもんかな。」


見た目より、

動けることが優先だ。


次は、足もと。


靴がないだけで、

世界は一気に凶器になる。


草を踏む感触が、

直接伝わってくる。


周囲を見回し、

繊維の強そうな植物を選ぶ。


裂き、

水に浸し、

柔らかくする。


編む。

結ぶ。


即席の草鞋が、

なんとか形になった。


足を通し、立つ。


不格好だが、

裸足よりはずっといい。


軽く走ってみる。


布が絡まない分、

動きはかなり楽だった。


ふと、

どうでもいいことを思い出す。


アニメや映画に出てくる女戦士は、

やけに軽装なことが多い。


あれは、

見せるためじゃない。


重い鎧を着れば、

この身体では動けなくなる。


今は、

守るよりも避ける。


当てるよりも動く。


軽い服装で、

機敏に動ける方が有利だ。


合理的だ。


ただし、

誰もそう説明して

くれなかっただけで。


火を起こす。


乾いた枝を集め、

摩擦を避け、

石を打つ。


時間はかかったが、

やがて小さな炎が上がった。


近くで死んでいた、

動物の肉を炙る。


腐敗はない。

異臭もない。


生で食べるという選択肢は、

最初からなかった。


腹を壊せば、

ここで終わりだ。


噛む。


思ったより、

普通の味だった。


腹の奥に、

温かさが落ちていく。


それだけで、

今日は生き延びたと分かった。


食後、

足元に残った動物の骨に

目が留まる。


細く、

軽く、

弾力がある。


……使える。


削り、

炙り、

ゆっくり

曲げる。


形は半円。


草の繊維で

留め具を作り、

頭に当ててみる。


即席のカチューシャ。

これで髪を整えてまとめる。


「うん」

悪くない。


むしろ――

可愛い。


気分が少し上がる。


背筋が伸びる。


生き延びるためには、

体力だけじゃ

足りない。


気分が折れないことも、

条件だ。


もう一つ、

気になるものがあった。


スーツの上着から外した、

赤いネクタイ。


これは――

娘が選んでくれた。


少し迷ってから、

ナイフで切った。


細く、

必要な長さだけ。


後ろに流した髪をまとめ、

その切れ端で縛る。


きゅっと

結んで、

軽く

引っ張ってみる。


――邪魔にならない。


水たまりに映った姿を、

ちらりと見る。


高い位置で揺れる、

短いポニーテール。


骨のカチューシャと、

赤いリボン。


「いいね」


しっくりきた。


目立つ色だという自覚はある。


でも、

後ろ姿だけなら問題ない。


高い場所へ移動する。


遠くに、

人影が見えた。


揃った隊列。

金属音。

規則正しい動き。


――あれに、近づいちゃだめ


危険な人たち。

そう判断した。


視線をずらすと、


草原の縁で

動物の群れが

動いている。


子を囲むように、位置を変えてる。

無意味に争ってない。


――あれは、危険じゃなさそう。

でも、気をつけてないとね。


日が傾いていた。


ここに留まる理由はない。


目的地もない。


でも、

足は自然と前を向いた。


旅をするつもりはなかった。


ただ、

安全な場所を探さないと。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

第2話では「まず、生き延びるための準備」をテーマにしました。

力よりも、判断と工夫が大事な物語です。

次話から、少しずつ他者との関わりが増えていきます。

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