エピソード 6
翌朝。鈴姉の父さんが運転する普通自動車で、空港まで行った。首都圏中央連絡自動車道を小一時間ほど走れば空港だ。途中、まったく疲れていないけど、鈴姉の父さんがどうしてもというんで、サービスエリアで休憩するんだってさ。
「もう、みんなも空港へ向かっている頃ね」
「ああ、早起きできなかった奴は、そのまま置いていくんだよな」
「……飛行機待ってくれないものね」
鈴姉にお別れをいいたい女子は、天台高校にたくさんいるんだ。けれど、何故か男子の方が多くて、その中には俺みたいな不良もいる。鈴姉は天台高校で人気者だった。
「……」
「……」
無言の時間ができた。でも、俺と鈴姉は全然眠いわけじゃない。鈴姉もだとは思うけどさ。ホシフリノ(星降埜神社)が頭から離れないんだよなあ。
「なあ、光太郎くんは彼女とかつくらないの?」
鈴姉の父さんが、唐突に聞いて来た。
「え? 俺?」
「あ、光太郎くんはモテるだろうから、もういるのかな?」
「いや。俺、不良だから……」
「うん? 不良の彼女がいるの?」
「そうじゃなくて」
「ううん? あ、わかった! じゃあ、真面目な優等生の彼女がいるんだ」
「なんで?」
「違うのか……うんうん」
「?」
「光太郎くんは鈴樹のことどう思ってるんだい? いつも一緒にいるから、もう本当の姉弟のようになってしまったのかも知れないけど、親が言うのもなんだがねえ。こう見えて、鈴樹はちょいと年上だがいい女だよ」
「う……それは、ううう」
鈴樹という名は鈴姉の名前だ。明石 鈴樹というのが鈴姉の本名だった。
後部座席にいる俺は照れ隠しに、窓の外へ首を向ける。
鈴姉の父さんは、そう話しながらハンドルを握って車線を変えた。しばらくすると、高速道路からサービスエリアに着いた。
「父さん……もう、休憩時間?」
「ああ、ちょっとな。ここのサービスエリアでラーメン食べようよ。光太郎くんは朝ごはん食べたの?」
「え? ああ、食ってないです……」