9話 不穏な銅像
「帰ったら、ベルに手紙を書くことにするわ!」
「承知いたしました! では、帰宅次第手紙の用意をいたしますね」
「ありがとう」
そういえば、スザクが宮殿に行った時ベルと会ったのだろうか……?
お互い、苦手意識を持っているのだと思う。
けれども、三人で剣術の稽古をするというのなら険悪な雰囲気を作らないで欲しい……。
二人が揃った時の空気は本当に重苦しかったのを覚えている。
ベルが、皮肉を言う度にスザクは我慢していたように思える。
仲良くなれるかは別として、稽古中くらいは重い空気にならないように祈ろう……。
そう考えながら、ふと外を見ると美しい草原が広がっていた。
ここは、歴史的戦いがあった場所だ。
たしか、エウレカ紛争でレオ皇帝と反乱軍のジャック・ハミルトンが戦った草原だ。
リエンナ草原といっただろうか?
此処を通過しているということは、もうそろそろローミスオペジスクの街が見えてくる筈だ。
「もうそろそろ到着するわね」
「そうですね! あと、10分程で街が見えてくるはずです」
ポクターとの待ち合わせ時間は正午だ。
今、到着しても早すぎる……。
「何処か時間を潰せる場所はないかしら? スペンシー令息と待ち合わせの時間は正午なのよ。彼が来るまで何もせず待っているのは、時間の無駄だもの……」
「そうですね……たしか、ローミスオペジスクの街には名物があります! 住民に讃えられている変な銅像のような塔があると聞いたことがあります」
「讃えるって……英雄やピッグ様ってこと? リエンナ草原の近くだからレオ皇帝っていう事も有り得るわね」
「いえ、その方々でしたら何処でも讃えられてますよね? ローミスオペジスクの住人ですら知らない変な形の銅像だそうですよ! 讃えるという表現も可笑しいかもしれませんね……昔から……そう、それこそ起源の時代から街の象徴と言われているそうです。でも、何の銅像か。というのは不明だそうです。何なのかも分からないけれど、銅像に頭を下げたりする人が多いそうですよ」
「まるで、宗教みたいな感じね……」
「はい、仰る通りなんですよ! もちろん、ピッグ様を信仰しているようなのですが、その銅像の事も信仰しているようです。何千年も前からこの土地を守ってくれている土地神様と呼ばれているみたいですよ!」
銅像が、土地神ね?
そんな事、有り得るのかしら?
回帰前、ローミスオペジスクの街を訪問したことがなかったため、知らなかった。
まぁ、エウレカ帝国は領土が広いから可笑しな物を信仰する人がいてもおかしくはないわね……。
「へぇ〜、なんだか興味が湧いてきたわ! 合流する前に、行ってみましょう」
「承知いたしました!」
そう言うと、リリスは御者に伝えてくれた。
それから、数分後に街へと入った。
その瞬間、リリスが話していた銅像の一部が目に入った。
私が、想像していたよりもはるかに大きい。
私は、窓を開け身を乗り出して銅像の高さを確認する。
確認した所、天に届くほどの高さがある。
おそらく、銅像自体は街の中心にあるのだろう……。
私達が、今通っている場所は街の入り口付近だ。
なのに、窓から身を乗り出さなければてっぺんが見えない程だ。
たしかに、信仰対象になるというのは分からないこともない。
けれども、ピッグ教ははっきりと言えば一神教だ。
その為、ピッグ教上この街の住民は全員咎人ということになるのではなかろうか……?
「リリス、此処の街の住民たちはピッグ教なのよね?」
「はい、そうです」
「なら、この銅像を信仰している人は咎人ということになるのかしら? 貴女が知っていたという事は、有名な話なのでしょう?」
「いえ…………。お嬢様、窓をお閉めください」
「!! 分かったわ」
リリスが、真剣な表情でそう言ったため、窓を急いで閉めた。
「銅像を信仰していると知っているのは、ローミスオペジスクの住民だけです。これを、口外するというのは街の掟に反します……私が何故知っているかというと、母がこの街出身だからです」
掟?
そんなものを、まだ定めている街があるということに驚きだ。
「それなら、私に言うのもいけないのではないかしら?」
「そうですね……ですが、お嬢様には伝えておきたいと思ったのです! 観光地としては、変な大きな銅像という事で有名です。お嬢様は、気付きませんでしたか? この街に入るまで銅像が一切見えなかったことに……」
「え?」
「此処には、魔法が掛けられています。阻害魔法により、この街がおかしいという思考にいたらないようになっているのです。村の真実を知っているものには、阻害魔法は発動されません」
「うーん、入る前の銅像のことは思い出せないわ……阻害魔法?? という事は、ブラヴェッダ出身の人が掛けたって事? そうだとしても、どういう意図で? 全く訳が分からないわ……それに、貴女の言い方だと真実を知っているリリスでも村に入るまで銅像は見えなかったって事?」
「お嬢様、魔法はブラヴェッダ人が掛けた訳ではありませんよ。これは、まだお嬢様にも伝えられません。……ですが、きっとお嬢様ならこの謎も絶対に解けますよ……あと、私に見えていたかというお話でしたよね? 銅像は、入るまで影すら見えませんでしたよ? これは、おそらく結界魔法の類だと思います。私にも、あの銅像が何なのか分かりませんし、この街に何故結界魔法や阻害魔法が張られているのかも分かりません。起源から銅像が建っているという事は、その時代から隠されている何かがあるのかもしれませんね……」
リリスは、淡々とそう語った。
彼女の言っている意味は、半分以上理解出来なかった。
それに、リリスの母親がシェスタール領出身というのも初耳だ。
明日は、お昼頃投稿となります!




