3話 悲劇
私は、牢屋へ連行され取り締まりを幾度となく受けた。
そんなある日、警備員が全く理解出来ないことを言ってきた。
「家宅捜査を行ったのだが、お前はシュタイン公子様暗殺未遂のみならず大罪を犯したようだな。先程、アルセナーリナ家一族郎党を1週間後に斬首せよとの命令が降った」
「どういう……意味です⁉︎ スザク公子の暗殺は企てたことなどありませんと何回言えば分かるんですか。それに、それ以外の大罪とは何なのですか?」
「お前達一族は、この国の神で有せられるピッグ様を豚肉として扱い食していたのだろう」
「え? そのような事はしておりません!」
「公子様が倒れられた後、調理場を調べたんだ。その時、ピッグ様の肉と思わしき物が幾つも見つかった。これは、日常的に豚肉として食していたのだろう。このような罪を犯してもなおシラを切るとは……余程、我等が神を舐めているのだな」
そんな訳ない……。
豚肉なんて使ったことも食べたこともないのに……。
……いや、あの食べたことのない肉の味は豚肉だったのかしら?
そういう事であれば合点がいく。
もう、分かってしまった。
このようなことをする人物を私は一人しか知らない。
天をも恐れない人物、マルエラ・シェスタールの仕業だと分かってしまったわ。
一族郎党という事はお父様、お母様のみならずアルセナーリナ家に仕えた者全ての斬首刑という意味なのでしょうね……。
私があの日肉の確認を怠ったばかりに……。
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牢屋の中で何日過ごしたのだろう。
そんなある日、マルエラが訪ねて来た。
看守へ労いの言葉を掛け、悪びれもなく私の牢屋前まで姿を現した。
「フィオーレ……まさか貴女達家族がピッグ様を豚肉として扱っていただなんて。信じられないわ。神様を食すだなんて恐ろしいと思わないの?」
「私はそんな事していないわ」
私が、大きな声でそう反論するとマルエラはビックリした様に涙ぐみ肩を震わせた。
きっと、この演技は看守が居るからなのだろう。
そして、私にしか聞こえないくらい小さな声で話し掛けてきた。
「そんな事知っているわよ。コーンウォールの牛肉を豚肉に変えるよう指示したのは私だもの。ついでに言っておくとスザク公子に毒を盛ったのも私の指示よ。あの方は、どうやら貴女の事を好きみたいだから死なない程度に罰を与えたの。どう考えても、貴女が私に勝っている所なんてないのに……まぁ、安心しなさい。貴女が死んだ後、スザク公子は私がいただくわ」
彼女の仕業だと分かっていた為、今更驚く事など無いと思っていた。
「なんですって⁉︎ マルエラ、貴女正気なの⁉︎ スザクに毒を盛った人間が彼と一緒になれる訳ないじゃない。それに、貴女のような性格悪い女が私の全てに勝っている? 冗談じゃないわ。そもそも、貴女のような人間をスザクが好むはずないもの」
「それはどうかしらね…… 大体、私が毒を持ったと信じる人間はいないわよ。私は貴女が彼と幼馴染だと知った時から、全てを壊してやりたいと思ったのよ。彼は昔から私の憧れだったのに……まさか、フィオーレあんたなんかに想いを寄せてるだなんてね。驚きだったわ。ふふっ……でも、あんたの人生もこれで終わりね」
そう言うと、マルエラは声を普通の大きさに戻した。
彼女は、看守を意識し涙ぐんだような声で私に別れの挨拶をした。
どこまでも、姑息な女だと思う。
自分が優位な立場であっても他人の目を気にする。
きっと、大逆罪を犯した女にでさえ優しくする聖女のような存在だと思われたいのでしょうね……。
実際は、聖女どころか悪魔のような性格なのに……。
「フィオーレ、さようなら。貴女と過ごした日々は忘れないわ……」
そう言うと、マルエラは悲しそうな表情をして牢屋を後にした。
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次の日、私たちの一族郎党は斬首される事になっていた。
本当に斬首刑に処されるべきは、マルエラであるにも関わらずそれを証明してくれる人物なんて居ないのだ。
天へ伸びる断頭台を目前にして、そのようなもどかしい事を考えてしまう。
「悪魔の一味が来たぞ!」
「全員神への冒涜を犯した悪魔だ‼︎ 早く断罪しろ!」
そのように、平民が口々に叫んできた。
そのような罵声を浴びながら、こんな事になった原因の人物に目をやる。
諸悪の根源である、マルエラ・シェスタールがこちらを怯えた演技をしながら見ていた。
そんな中処刑人の声が聞こえた。
「これより、我らが神であらせられるピッグ様を豚肉として扱うという大罪を犯し、それでは飽き足らずシュタイン公爵閣下の御子息であるスザク公子様を毒殺しようとした罪によりフィオーレ・アルセナーリナの刑を執行する」
どうやら、私から斬首されるようね……。
この罪名を口にされると、ついつい言い返してしまいたくなる。
誰にも信じては貰えないでしょうけれども、私は一度もピッグ様を食用とした事なんてなかったのだと……。
……でも、全ては遅いのね。
もしも、もう一度人生をやり直せるのだとしたら、私の家門に汚名を着せ滅門まで追いやったマルエラへ復讐を果たしたい。
そう思っている内に私は頭を柱へ押し付けられ、上からも断頭台の柱が落ちてきて首を固定された。
死を覚悟してはいたもののいざ目前に迫ると本当に私の人生に終焉が訪れるのかと恐怖が先立ってしまう。
首を切られるのは一瞬なのかもしれない。
だが、私はそんな事をしておらずマルエラが全て仕組んだ事だと彼に言えないまま死ぬというのがとても心残りだわ。
そう考えている間に断頭台の刃は、私の首へと落とされた。
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