3話 エウレカ祭りへ
馬車に乗り込む時、スザクがエスコートしてくれた。
その仕草は、とても自然で他の女性たちに好意を抱かれる理由が分かる。
「お祭りなんて初めてだから楽しみだけど同時に緊張するわ。それに、エウレカ祭りってどんな風に盛り上がるのかしらね?」
「僕も良く分からないんだけど……友人から聞くところによればお店が沢山出て盛り上がるらしいよ。お店とかサーカス団、劇団とか色々来るらしい。エウレカ祭りの最大の特徴は、ピッグ様が帝都の関門から神殿に向けて歩く所から始まるみたいだね。ピッグ様が神殿へ入ったところがお祭りの開始の合図らしいよ」
「へぇ〜そうなのね。ピッグ様を普通に見るには、そこに参加するしかないという事ね」
私を過去に戻してくれたであろう、ピッグ様を見られるなんて不思議な気持ちだ。
ちゃんと感謝を込めて拝まないと……。
「ピッグ様を見たいの? なら、最前列に行かないとね!」
「ええ! そうしましょう!」
そうしている内に、関門へ着いた。
そこにいた兵士が、御者に身分証の提出を求めているのが聞こえてきた。
「身分証のご提示をお願いいたします」
御者がシュタイン公爵家の紋章を見せると、あっさり通過出来た。
ここでは、貴族でなかったら書類審査があるらしい。
一々、こんな事をするというのはいつも思うが面倒だ。
「シュタイン家の紋章のおかげですんなり通されたわね!」
「まぁ……そうだね。身分証の確認なんてあまり必要じゃないのにどうしてやるんだろう……」
そう言い、スザクは悩み始めてしまった。
彼は、そう言うけれども身分証の確認は重要だ。
これのおかげで、帝都で大きな犯罪が起こることはほぼ無いのだ。
……。
何かを悩んでいるスザクなんて久しぶりに見る為、ずっと眺めていたい気分に落ち入ってしまう。
その時、御者が目的地へ到着したことを伝えてきた。
「スザク様、到着いたしました」
「うん、ありがとう」
着いたと言われ、残念な事にスザクはすんなり悩むのを止めてしまった。
御者が馬車のドアを開けてくれた為、スザクにエスコートをして貰い馬車から降りた。
降車すると、目立たない所に馬車を停めてくれたのだと分かる。
平民でも、シュタイン公爵家の紋章は一目見たら分かるでしょうね……。
「ヘンリー、君はある程度距離をとって後ろを付いてきてくれるかい? 今日は、お金も僕が持つよ!」
「……何故ですか、スザク様!? 貴方様に金貨のように重いものを持たせるわけにはまいりません! それに、エウレカ祭りは、人が大勢おります。いくら関門を通過する必要があるとはいえ……危険思想の持ち主が、紛れ込んでいる可能性もございます!」
「え? うん……でも、平民は従者も居ないのだから君が近くにいたら貴族だとばれてしまうよ……」
「スザク様……ですが、貴方様に何かあってからでは遅いのです。遠くにいたら、身代わりになることすら出来ないではございませんか!?」
「そんな……大袈裟だよ。それに、そんな事件そうそう起きないよ……」
「私は、常にあらゆる事態を予測しております! 貴方様に危害の及ぶ可能性が1%でもあるのでしたら……たとえ、スザク様の御意見であったとしても同意しかねます」
「うぅ……」
スザクは、言い返せないようだがそれだと困る。
彼との会話を、常に聞かれていると思うと会話も弾まないものだ……。
「ヘンリーさん、近くにいても構わないけれども……近過ぎるのは、良くないと思うわ。私たちは、わざわざ平民に見える格好で来ているのよ? 今、貴方は執事服を着ているじゃない。そんな方が、近くにいると貴族だといっているようなものよ。それは、私たちの趣旨とは違うと思わないかしら?」
「お言葉ですが、フィオーレ様。スザク様は、平民の洋服を御着用なさっていようとその麗しさと気品で誰もが貴族だと気付くことでしょう……寧ろ、気付かない方がおかしいのです! 貴族だと気付けば、金品を狙おうとする輩が少なからずおります。私は、武術の心得がございますので……スザク様に何人たりとも近寄らせない自信がございます」
「え!? そこまで言うのなら分かったよ。でも、僕だけでなくフィオーレのことも守ってあげてね。それと、僕たちの会話が聞こえないくらいの距離を保って着いてきてね」
「承知いたしました。……それが、貴方様の御命令なのでしたら必ずやご期待にお応えしてみせましょう」
「言い忘れていたけど、金貨はやっぱり僕が持つよ」
「!! それは……」
「折角、エウレカ祭りに参加するんだ。だから、気持ちだけでも平民になってみたいんだよ……平民は、お金を自分で持つんだよね?」
「左様でございます……貴方様が、そこまで仰るのでしたら……従いましょう。ですが、今の状態ですとやはり重たいのでこちらをお渡しいたしますね」
そう言い、ヘンリーが小さい巾着袋をスザクに渡していた。
中には、金貨が二枚程入っていた。
残りのじゃらじゃらと重そうな物は、ヘンリーが持つということになった。
スザクは、なんとも言えないような表情をしていた。
でも、これ以上ヘンリーが譲歩してくれそうにないと判断したのだろう……。
スザクは、渋々口を開いた。
「うん、ありがとう」
なんだか、面倒なことになってしまった……。
私たちが、歩き出すとスザクの命令通り少し距離をとって付いてきた。
大通りへ出るとまだお祭りは始まって居ないが、出店の準備を始めている人たちが大勢いた。