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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第六章 あなたを落としたい

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③ 美人でも オトコ落とすにゃ 命かけ

 ナツヒに理解できるわけもない。

 自分の足元を見ると一緒に落ちてきたらしい“ござ”がある。


 大人ふたりがせいぜいの穴の中。


「なんだこの穴、最初からあったのか?」

「いえ、朝から掘って掘って掘り続けて、先ほどやっとできた穴ですの」

「! 朝から掘ってこんなのできるわけ……」

「うちの下男3人と小さい娘たちで、協力して作りました。晩から雨が降ると予想できたので、急ぎましたわ」

「雨が予想できたからって」

「きっと降る頃に、こちらにおいでだと」


 ナツヒは驚きを通り越して感心してしまった。


 腰の痛みに耐えて立ち上がる。

 彼が腕を伸ばしても手首が地面になんとか届く、というほどの深い穴だ。


「その下男たちすげえな、うちで働かねえかな」

なんて独り言を呟いた。


「で、なんでそんな落とし穴作ったんだ?」

「あなた様を嵌めるために」

「はぁ??」


 そこでシュイは、穴の壁に彼を追い込んで不平を言う。

「だって、ちっとも相手にして下さらないんですもの」

「ちょっと落ち着け」


 こんなに至近距離で迫られた経験のないナツヒは一層たじろいだ。


「嵌めた俺をお前が待ち伏せするって計画は分かったが、俺がお前の上に落っこちて事故にでもなってたらどうするんだよ?」

「もしそれで死んだら、そういう運命だったと諦めます。もし打ち所が悪く身体を不自由にしたら、それこそあなた様に囲って頂けないかしらと。腕や脚の一本不自由にしても、私、役目を果たせますわよ」


 まったく開いた口が塞がらない。しかしどこか感心してしまう。


「私、ここ2日間あなた様のことを、下の者に調べさせましたの」

「調べた? 何を?」

「お家柄やお役目のこと。ご気性やご家族のことまでも、喋る侍女はいくらでもいますのよね」


 改めて彼は黙ってしまった。


「知れば知るほどあなた様は理想どおりのお方。なのであなた様に身受けされたいです。私、末端の妻でも構いませんし、ご身分の高い方に対し、身の程を弁えた振る舞いも心得ておりますわ」


 ここでナツヒは一度、伏し目がちになる。


「地位や裕福な暮らしが目当てなら、ここにはそんな男いくらでもいる。俺の知り合いにも色々いるから紹介してやってもいい」

「あなた様がいい」

 シュイは彼に、徐々に迫りながら続ける。


「あなた様は丞相(じょうしょう)のご子息なのでしょう? そのうえ強くて見目もいい。そんな方、他にいらして?」

「いやだから、それ俺じゃなくても」


「地位が目当てだと蔑まれますか? 女は強い男を求めるもの。あなた様のそのご身分は、ご先祖から継がれる強者の証。私には、見目が美しいからとか、歌が素晴らしいからとか、理由をつけて寄ってくる男性もいますけれど、それは神から贈られた力ですわ。身分や血筋で人を好むのは、それと何が違うのです?」


 ナツヒは言葉に詰まる。その時とうとう雨が降り始めた。


「そう言われてもさ。調べたんだろ。俺に妻はいない。いらないからだ」

「今までとこれからは違いますでしょ。それとも、(みさお)を立てているお方がいらっしゃるの?」

「そんなのはいない。……単に妻なんて、職務を全うする上で持て余すだろうと」

「それなら、なおさら私でいいではないですか。子さえ授けてくだされば、ないがしろにされていても一向に構いません」

「ならやっぱり俺が必要なんじゃなくて、子種目当てじゃねえか!」


 少し喧嘩腰になった。


「女が男を求めるのはそのためでしょう!? その人目当てなら、他にも妻を抱える事実に耐えられませんわ」


 ナツヒは彼女との意見の噛み合わなさに、同じ国の人間なのかと戸惑う。それとも表現者とはこういうものなのだろうか。

 思えばユウナギは女王の舞いを大絶賛するが、自分はまぁ綺麗だよなと感じるくらいで、唸るような感動はない。ユウナギですら舞っている時だけは綺麗なのだし。

 むしろ舞っただけで神が憑依するなんて滅法便利だ、という感想が先立つような自分とは、そこらは違う人種なのだ。


 そうだ、彼女の言うことは理解できなくても仕方ない。そういう結論が彼の中で導かれた。


 その時、上でがたがたと音がして、人の来た気配があった。ナツヒは手をめいっぱい上げて「お──い」と叫ぶ。


「きゃああ! 地面から手えええ!!」


 ああ、ユウナギだな、と分かった。

 そう、雨が降ってきたのでユウナギが、あの仕掛けたちを片付けてあるだろうか、とやってきたのだった。


「おい、ユウナギ! 梯子持ってきてくれ!」

「ナツヒ?」


 地面から生えて横揺れする手のひらの持ち主に声で気付き、穴の方に寄っていく。


「あ、こっち来るなよ! 念のため」

 止められた。


 とにかく梯子を持って来いと小間使いにされる王女だが、素直に言うことを聞くユウナギだった。

 とりあえずは安堵。


「穴、埋めておけよ」

「埋めておくので、またふたりきりでお話ししてくださいませ」


 にっこり微笑むシュイに、声にならない声をあげるナツヒであった。




 屋敷まで戻る途中、ナツヒはユウナギに呟いた。

「なんで女はそんなに子どもを生みたがるんだ」


 ユウナギにとっては愚にもつかない疑問だ。

「男も望むから子が生まれるんでしょう?」


 いや男にとっては結果的に子が生まれてくるわけで、などと彼女の前では言えないが。


「生むには自分の命を懸ける必要があるだろ。子どもは自分とは違う人間なのに」


 ユウナギは、ナツヒってそんなこと考える子だっけ、とふしぎに思う。


「可能性よ」

「可能性?」

「自分が15で子を生むとしたら、その子は自分より15年長くこの世に留まる可能性があるわ。自分とは違う人間だけど、命は違うと思わない。そう考えないと、人ひとりの命なんて3,40年で終わってしまうもの」


「ああ、その可能性のために俺は穴に落とされたのか」

「?」


 あんな目に遭ったナツヒだが、それほど機嫌は悪くなかった。



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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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