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デートの日、午前はルークの執務があり、午後から出掛けることになった。
とても楽しみにしていたので朝から少し浮かれていて、マナーのレッスン中に何度か上の空になり、カインからクスクスと笑われた。
お昼ご飯を食べたらすぐに出掛けられるように予め服などを選んでおいたが、これにはマリンからダメ出しがあった。街へはお忍びで行くので、できるだけシンプルにするのが鉄則らしい。
「まあ、ルーク様やレイ様がいて誘拐はないと思いますが念のためです。ルーク様からのネックレスは着けたままにしていてくださいね」
「んー…それなら、こっちのブルーのワンピースはどうかな?」
「良いと思います。出しておきますね」
合格がもらえたようだ。
お昼になるとルークが来て昼食を取るのだが、今日は何度も何度も念を押された。
「絶対に私から離れてはいけませんよ」
街はそんなに怖いところなのだろうか。不安に思っていると
「私といる限りは安全ですよ。ただ、私がアリスが見えないと不安になるのです。だから、絶対に私から離れてはいけませんよ」
と。
「わかりました。ルーク様から離れないようにします」
食事が終わると着替えをさっと済ませ、マリンに簡単にメイクを直してもらったところで、ルークがレイと共に迎えに来た。
ルークとレイはそのまま行くと騒がれてしまうので少し魔法で変装をしていた。髪の色を変えるだけで別人のように見えるが、イケメンにはかわりない。髪の色がかわってもカッコいい。
「街までは歩いても近いですが、途中までは馬車で行きますね。では行きましょうか」
初めての街に楽しみにしていた私はずっとニヤニヤ笑っていたようで、レイからも「姫様は顔に出るタイプですね」とニッコリされた。
馬車が出るときマリンや他の侍女たちから見送られたが、カインの姿もライトの姿もなかった。めずらしいなと思いつつ、ルークに馬車に乗せてもらった。膝の上に座らせられると、レイがなんとも言えない顔をしていた。
街に着くと馬車専用の待機所があり、いろんなマークが入った馬車が停めてあった。日本でいう家紋みたいなもので、ルークのローズ家は大公になったときに新しく作ったらしく、ルークの香水の薔薇がモデルだそうだ。ただし、今日はお忍びということもあり、家紋なしの馬車だった。
「それでは行きましょうか」
ルークは私の手を引いて歩き出した。レイはすぐ後ろを歩いている。
町並みは行ったことはないがヨーロッパというイメージ。街の中は馬車は通れないようにしてあるようで、石畳で歩くのには辛そうだけど、風景は抜群によかった。
街には屋台があったり、服屋さん、喫茶店、文具屋さんなどいろんなお店がところ狭しとあった。
「アリスは見たいお店がありますか?」
「うーん、ルーク様がいろいろ用意して下さるのであまりほしいと思ったものはこれといってないのですが…。あ、あのお店、あのお店に行きたいです!」
私がそのときちょうど見つけたのはハチミツ専門店。実はハチミツが大好きだったが、今まで食事に出たことがなかったからないのかと思っていた。
「ハチミツですか。そういえばうちでは見ませんね。行ってみましょう」
お店の中はいろんなハチミツが置いてあり、甘い匂いがしていた。
「すごく良い香り!どれにしよう。迷っちゃう」
「アリス、ほしいのであれば全種類でもかまいませんよ」
「ルーク様、今日は1つにします。そしたらまたデートする楽しみができるもの」
「うん。そうだね」
ルークの微笑みに店員さんがやられたっぽいけど、私もだ。ルークの笑顔にいつもやられてる。
「ご試食いかがですか?」
店員さんがスプーンからトロトロなハチミツを見せるように垂らす。甘く優しい香りがした。
しばらく悩んでオレンジのハチミツにすることにし、包んでもらい店をあとにした。
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