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 お父様の手紙の文面から推測するに、新たな護衛は数日中には到着しそうだった。

 私が毒を受けた件を報告されたお父様からの返事を持った早馬と、どちらが速く到着するか微妙なところだ。

 アビーの処分の件をある程度はっきりさせてから出発したいので、出来ることなら早馬のほうに先に到着して欲しいが、さてどうなるか……。


 とりあえず私は、できることから取りかかることにした。

 王都への出発準備は侍女達がすべて取り仕切ってくれるので、そこに私の出番はない。

 私がしなければならないのは、領地に開店予定だったスイーツのお店の開店準備だ。できることなら、夏には領地の皆にフローズンヨーグルトをお披露目したい。


「お嬢様がお帰りになってからでもよろしいのでは?」

「それでは開店が遅くなってしまうわ」


 最初、料理長に全権委任しようかと思っていたのだが、店を一軒任されるのはさすがに荷が重いと怖じ気づかれてしまった。

 だからと言って、今から店を任せられる相手を捜す暇はない。

 困った私は、仕方なく商店街の世話役を城に呼んで相談してみた。


「それでしたら、マテオに頼んでみては? あれなら商売のこともよく知っているし、お嬢さまも信用できるでしょう」

「あら、でもマテオはそろそろ自分の店を持つ頃でしょう?」


 幼馴染みのマテオは、領地では一番手広く商売をしている雑貨店の生まれだ。

 父親を早くに亡くし、年の離れた兄が商売を継いでいるが、マテオが成人したら支店をひとつ任せるようにと父親が遺言を残してくれたと聞いていたが、違ったのだろうか?


「マテオから、なにも聞いてませんでしたか……」

「なにかあったの?」


 私が促すと、戸惑った顔をしていた世話役はマテオの事情を話してくれた。


「マテオが兄嫁と折り合いが悪いことは知っておりましたか?」

「ええ。ジューン達からこっそり聞かされていたわ」


 兄嫁は、マテオに譲られるはずだった支店に、自分の弟を先にねじ込んでしまったのだそうだ。

 もちろん、その弟も雇われの身ではあるが責任者として過不足なく支店をまわしているらしく、マテオがその支店を引き継ぐつもりならば、まず弟の部下として働いて支店のことを学ぶようにと言われているのだとか。


「どうやら姉も弟も、支店長の座をマテオに譲るつもりはないようでして、マテオはあからさまに邪魔者扱いされているようです。下手に支店に向かえば、濡れ衣でも着せられて放逐されかねないほどで……」


 危険を察知したマテオは仕方なくこれまで通り本店を手伝っているが、ここでも兄嫁に邪魔者扱いされているようだ。

 嫁の尻に敷かれている兄は弟を助ける気がないらしい。


「最近、どこか自分が働ける店はないだろうかとマテオに相談されましてな。もしなかったら、兵士の登用試験を受けてみるつもりだとも言っておりました」

「そう。……そんなことになってたの」


 野営に行ったときも真剣にダニエルから剣を習っていたけれど、そういう事情があったからだったのか。

 だが、だからと言ってここで私がすんなり店を任せてしまうのは、なんだか違うような気がする。

 幼馴染みの立場を利用してすり寄ったのだとか、新たな婚約者候補なのではという困った噂も流れかねないし……。


「そうね。……では、こうしましょう。――スイーツのお店に関して私は完全に手を引いて、ギャレット叔父様に全てお任せすることにします。マテオには、兵士ではなく、ヴィロス城で働く文官の登用試験を受けてもらいます。その試験に実力で受かることができたら、叔父様の部下としての立場でお店を任せることにしましょう」

「領主代行に頼まれるのですか……」


 話を聞いた相談役の顔色が青くなる。

 さもありなん。ギャレット叔父様は、自分に娘がいないせいか私にだけは激甘だが、それ以外の人達には激辛だ。幼い頃から、あのお父様と一緒にローダンデール侯爵家の主筋の人間として教育を受けてきたのだから、甘い人間になる訳がない。

 我が領地が安定した豊かさを誇っているのもギャレット叔父様の手腕だった。

 厳しくも有能なギャレット叔父様の部下として商売に携わるか、兵士となって脳筋ダニエルに振り回される人生を選ぶか、そこはマテオ自身が選べばいい。

 マテオが駄目だった場合は、きっとギャレット叔父様が適切な人材を捜してくださるはずだ。

 この件に関してはこれで決まりとほっとしていると、早馬がお父様からの手紙を届けてくれた。

 手紙は私宛だったので、さっそくエリスに毒物の有無を検査してもらってから中に目を通した。


 お父様は毒を受けた私の身体を気遣ってくださった後で、アビーの件について言及していた。

 騙されてのことだし、私とダニエルが無傷で済んだのならば、さほど厳しい刑罰を与える必要は無い。だが気が緩んでいるのは確かなので、王都の侍女頭に厳しくみっちりと躾しなおしてもらう必要はあるだろう。急ではあるが、王都に戻る私に同行させて、王都の屋敷まで連れてくるようにと……。

 領地を離れる期間は、ちょうど一年。

 目に見える形での罰を与えられることで、アビーの一族の者達もきっと申し訳ないと思う気持ちを少しは収めてくれるだろう。


「ああ、よかった」


 さすがお父様だと、私はほっと胸を撫で下ろした。



     ◇ ◆ ◇



 そしてそれから二日後、お父様が寄こしてくださった護衛達がヴィロス城に到着したとの知らせがあった。

 急ぎ身形を整え、新たな護衛達を出迎えに出た私は、そこに思いがけないお方の姿を見つけて絶句した。


「アメリア! オールモンドの夜の女神よ。私と共に王都に戻ろう」


 そこには、私に向けて両手を広げ、満面の笑みを浮かべるキールハラルの麗しの末っ子王子、オズヴァルド様の姿があった。

第二章、領地グルメでふっくら? 汗だくで乙女の危機編、終了です。

数日お休みをいただいて、第三章、再びの王都とフローリアの記憶とやっぱり乙女の危機編に続きます。

最終章は恋愛要素大目で進行する予定。

よろしくお願いします。

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