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白銀の髪にルビーの瞳、艶やかな褐色の肌のキールハラルの麗しの末っ子王子が、蕩けるような笑みを浮かべ、私に向かって両手を広げ歩み寄ってくる。
「アメリア! オールモンドの夜の女神よ。私と共に王都に戻ろう」
夢を見ているのかもしれない。
オズヴァルド様が私の目の前にいるだなんて……。
だが、これは現実だった。
あともう少しで抱き締めていただけるところだったのに、なんとダニエル兄様がすいっと私の前に出てオズヴァルド様を遮ってしまったのだから。
(ダニエル兄様、邪魔しないで)
『残念だったな』
思わず心の中で怒る私に、笑みを含んだアリアの声が答えた。
「失礼。身分卑しからぬ方とお見受けするが、我らがお守りする姫君に気安く触れてもらっては困る。――まずは名乗られよ」
「待って、ダニエル兄様。このお方なら大丈夫よ」
私は、厳しい態度を取るダニエル兄様を慌てて遮った。
王都から迎えが来たことを知らせてくれたのは私の護衛隊長だ。
彼が大丈夫だと保証できる相手だからこそヴィロス城の中へと招き入れられたのだ。ここで不信感をあらわにする必要は無いはずだった。
「アメリア、良いんだ。名乗らせてくれ。――私は、キールハラルの第四王子、オズヴァルドだ。アメリアを迎えに来ることに関しては、ローダンデール侯爵から許可をもらっている。……生憎と、その旨をしたためた書状を持っている従者がヴィロス城にまだ到着していないので、今すぐに証明することはできないのだが」
オズヴァルド様は困った顔で、自分が入ってきた扉を振り返った。
そこには誰もいない。
本来側にいるべき従者も護衛も、ひとりとしていなかった。
「……オズヴァルド様、まさか、また、おひとりでいらしたのですか?」
「あ、いや、違う。途中までは皆一緒だったのだ」
丘の上で偶然出会った日のことを思いだして聞くと、オズヴァルド様はあからさまにギクッとした。
まずいと言わんばかりの、まるで子供のようなその仕草に思わず笑みが零れそうになったが、ここは笑ってはいけない場面だと表情を引き締める。
「では、途中からはおひとりだったのですね?」
「……つい、気が急いて……。でも大丈夫だ! なにも問題はなかった」
「ですが、次もまたご無事とは限りませんよ。どうかご自分のお立場を自覚して、必ず護衛達と同行してください。――今回は、こうしてご無事にお目にかかれたから良かったものの、もしもオズヴァルド様の身に何かあったらと考えただけで胸が潰れそうです」
しかも、私を訪ねてくる道中だったのだ。もしかしたらと想像することさえ恐ろしい。
私は思わず身を震わせたのに、そんな私を見たオズヴァルド様は逆に嬉しそうに笑った。
「それほどに私を心配してくれるのか」
「もう! 笑い事ではありません」
「――そこまで」
笑うオズヴァルド様に怒りかけた私を、ダニエル兄様が止めた。
「オズヴァルド殿下が、我らの姫君の親しい方だということは、もう充分に理解できました」
ダニエル兄様は、なぜか苦笑していた。
「そうか。――ところで、其方は? アメリアの兄上はひとりだと記憶していたのだが」
「オズヴァルド様、こちらの騎士はダニエル・ローダンデール。お父様の代理としてローダンデール侯爵領を直接治めてくださっているギャレット叔父様の第一子で、私の従兄弟です」
「そうか、其方がアメリアに乗馬を教えた従兄弟殿か……。ローダンデール侯爵から依頼は?」
「ありました」
「では……」
「私に異存はありません」
「そうか。そうか」
オズヴァルド様が嬉しそうな顔で何度も頷いている。
(依頼ってなんのことだと思う?)
『ワタシが知るわけなかろう』
話の見えない私が聞くと、アリアが呆れたように答える。
「ただし、今後はひとりで行動するような軽挙を控えると誓っていただきたい。殿下の身が損なわれることで悲しむ者が居ることをお忘れなきよう」
「分かった。軽挙妄動はしないと誓おう」
「なにとぞ、よろしくお頼み申し上げます」
「ああ。ありがとう」
オズヴァルド様とダニエル兄様は、しっかりと握手を交わし合った。
最後まで理解できなかった私がなんの話だったのかと聞いても、ふたりとも微笑むばかりで答えてくれない。
(アリアは分かる?)
『……』
アリアもだんまりだ。
これも自分で考えれば答えが分かることなのだろうか?
この際、もう愚か者で良いから答えを教えて欲しいと思ってしまった。
◇ ◆ ◇
その日の夜、オズヴァルド様の従者のラルコと護衛達もヴィロス城に到着した。
「他国の知らぬ土地でひとりで行動するなど有り得ませんよ!」
「……すまなかった」
顔を合わせるなりラルコに怒られたオズヴァルド様は、珍しく口答えせず素直に怒られていた。
その後、ラルコから聞いた話では、王都からは普通に馬車で出発したのだそうだ。
だが、途中の宿場町で、馬でならヴィロス城まであと一日ぐらいだと聞いたオズヴァルド様が、それならばと勝手に馬に乗り換えてひとりで飛び出してしまったのだとか。
「オズヴァルド様、先程は確か途中まで皆と一緒だったとおっしゃいましたよね?」
「いや、嘘は言ってない。一度、振り返って見たときに皆の姿は見えていたのだ」
「きっと私達は豆粒程度の大きさだったことでしょうよ」
勝手に飛び出したオズヴァルド様の後をラルコと護衛達は慌てて追ったらしいのだが、ずば抜けて身体能力に優れているオズヴァルド様が操る馬には誰も追いつけず、距離が空くばかりだったのだとか。
「さすがに私も、今日一日で乗馬の腕が上がりました」
「お疲れ様でした。――ところで、聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「もちろんだ、アメリア。なんでも聞いてくれ」
「以前聞いた話では、確かオズヴァルド様は卒業式が終わったら、すぐにでもお国に帰る予定だと伺ったように思うのですが……」
だからこそ、もう二度とオズヴァルド様にお会いすることは無いだろうと覚悟していたし、さっきもそのお姿を見て夢ではないかと我が目を疑ってしまったのだ。
こうして再びお目にかかれたことはなににも勝る幸せだけれど、なぜ国に帰らずわざわざ私を迎えに来てくださったのだろう。
「どうして、まだオールモンドにいらっしゃるのですか?」
理由が分からず小首を傾げる私を見て、オズヴァルド様はあからさまに狼狽え、その視線を泳がせた。
最終章はじめます。
ここからの更新は一日置きぐらいになるかもしれません。
それと会話文だけではなく地の文でのダニエルの呼び方もダニエル兄様に変えました。前章までの文章は、完結後に修正する予定です。
よろしくお願いします。




