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12

 ヴィロス城に戻ってすぐに体重を確認した私は、現実にうちひしがれた。


 王都からの脱出の際にかなり体重が減ったように感じていたから、もしかしたらと期待していたのだが駄目だった。

 療養中ということもあって、身体を締めつけないゆるっとしたドレスばかりを選んできていたせいで、野営前からちゃくちゃくと太っていたのに気づいていなかったようだ。


「さすがに、ここまでとは……。これでは今まで作ったドレスが着られなくなっているかもしれませんね」


 体重を計る為の秤に重りを乗せてくれていたエリスが、以前より格段に増えた重りに愕然としている。


「この機会に、いっそダニエル兄様に弟子入りしようかしら……」


 剣を習いながら身体を絞れるならば一石二鳥ではないかと思ったのだが、手の平に剣ダコができるのはまずいとエリスに止められた。


「別にかまわないんじゃない? 侯爵令嬢として王都でダンスを踊る機会なんて、もうないかもしれないわよ」

「それでも駄目です」


 きっぱりと駄目だしされて、渋々諦める。が、ふと思う。


「太って困ることも、もうないんじゃないかしら」


 王都の社交界に出る機会はたぶんもうない。ということは、ドレスを着て正装する必要もないということだ。

 それに、オズヴァルド様とだってもう会う機会はないのだ。

 無理に痩せる必要なんてないんじゃないか?


「それは絶対に駄目です!」


 私がそう言うと、エリスは鬼のように怖い顔になった。

 侯爵家の令嬢として、いつ王都に呼び出されても応じられる状態を維持しなければならないのだと厳しく言う。

 明日から料理長から頼まれる試食は一口だけにしてくださいねと言われて、泣く泣く頷いた。

 だが、その程度のことで体重が減るとも思えない。


「とりあえず体調も良くなったし、帰って来たばかりで領地内の状況がよく分からないから、あちこち馬で視察しようと思うの」


 乗馬は全身運動だ。

 定期的に領地を馬で回ることで身体を絞ることもできるし、領地の情報を直接得ることもできる。

 我ながら良いアイデアだと、さっそく護衛隊長に話をしてみた。


「それなら、こちらの私兵団から何人か護衛に加えて欲しい。アメリア様の護衛は王都産まれが多いし、こっちの出身者も郷土を離れて長いから状況がよくわかってないんだ」


 危険な道や賊の情報など、現状を知っている者が必要だと護衛隊長は言う。

 それならばと、私兵団の副隊長であるダニエルに話をしてみたら、さっそく候補者を募って集めてくれた。


「この二十人の中から好きに選べ」


 私の前には、十代から三十代までの兵士がずらりと並んでいる。

 騎士らしく鍛えられた者だけでなく、通信兵や兵站科の者達のような普通の体型の者もいた。

 選べと言われて困った私は、護衛隊長に人数と選別を任せることにした。


「連れていけるのは三人まででしょうな。まずはそれぞれの得意分野を聞いてから、乗馬の腕と剣の腕前を確認しましょうか」


 護衛隊長の提案に従って、その日は兵士達との面談に終始した。


 こういうことは専門家に任せるべきで、素人が口を出すべきではない。

 そう思っている私は、ひとりひとり個別に呼び出して話を聞く役目を護衛隊長に任せることにした。

 護衛隊長は快く応じてくれたが、私にも同席を求めた。


「人間にはどうしたって相性というか、好き嫌いってのがありますからね。面接を側で見ていて、どうしても気に入らない奴がいたら候補から外しましょう」

「わかったわ」


 言われるまま面接に同席した。同席と言っても、口を挟むつもりはまったくないので、護衛隊長の後ろに座ってエリスが入れてくれた紅茶を飲んでいただけだ。

 が、途中で不思議なことに気づいた。

 面接の最中、私に何度も視線を向けたり、それだけならまだしも微笑みかけてくる者さえいるのだ。


『あの者達、見合いと勘違いしてるんじゃないか?』

(……やっぱりそう思う?)


 呆れたような()()()の声に、私も溜め息をついた。


 王太子殿下との婚約内定が取り消されて、私が失恋したのだという噂が領内に広がっていることは知っていたが、それがこんな影響を及ぼすとは思ってもみなかった。


――結婚相手がいなくなった領主の娘と個人的に親しくなることが出来たら、領主一族の仲間入りも夢じゃない。


 そんな期待を抱いている者が複数現れるなんて……。


『気持ちは分かる。アメリアは優良物件だからな』

(物件って……。物扱いしないでちょうだい)


 ()()()に文句を言いつつも、私にもその気持ちは理解できた。

 領内の者達なら、ローダンデール侯爵家が平民との婚姻を頭ごなしに否定しないことを誰でもが知っている。

 私にとっては迷惑きまわりない話だが、もしかしたらと夢を見たくなってしまってもしょうがないのかもしれない。


(領地内だし、危険はないと思うけど……)

『なんらかの理由で思い詰める者がいないとも限らない。油断は禁物だ』

(わかったわ。とりあえず、こちらに何度も目線を向けてくる者は、さっくり候補から外すことにする)


 私は()()()の助言に素直に頷いた。

次回あたりから、やっと乙女のピンチパートに入れそう。

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