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3歳後(完)

久しぶりと言ったきり殿下はあーちゃんに顔をうずめて泣いてしまった。

あーちゃんは殿下の頭をよしよしなででいる。

なんだこれは。

なんて可愛い光景なんだろう。

それきり固まってしまった私たちを見かねて、奥から瑠偉がでてきた。


「姉さん本当に5分で来たんだ…」


呆れて言う。あーちゃんの危機に急いで駆けつけるのは母親として当然である。


「あとその格好。ボロボロだよ。何使って来たのさ」


「ああ、飛翔したのよ」


「よく管制が許可したね。靴もないし。これでも着てて」


瑠偉は白衣と室内履きを渡してくれた。


「さて説明してもらいます」


あーちゃん、殿下、瑠偉を見渡す。

椅子に座り腕を組み、足を組んで言う。

この姿勢はあーちゃんの希望だ。

白衣着てやってほしいらしい。

お母さん、あーちゃんのお願いなら聞いちゃう。


「殿下はうちの研究生で」


瑠偉が話し始める。


「えっ殿下大学受かったんですか」


「落ちてから一年頑張りました」


「姉さん話の腰を折らないで」


「松本教授すみません」


「えっ瑠偉教授だったの!すごいじゃない!」


「姉さん知らなかったの…一応最年少の教授って少し報道されたのに。あと話し切らないで」


瑠偉は厳しい。大人しく話を待つ。


「姉さんから輝の父親の話し聞いてから、殿下に質問したんだよ。姉さんについて」


話し始めた瑠偉を殿下が止めた。


「松本教授私から話します」


殿下が真剣な目で私を見た。





静流は私付き王室警護官六人のうちの一人でした。

私付きの警護官たちはただ護衛のためにいるだけでなく、色々なことを教えてくれました。

護身技や挑発法、花札、立ち食い蕎麦、王城の抜け道など多岐にわたります。


「王室警護官なにやってんですか」


ある日私は警護官たちと酒を飲んでいました。


「重ね重ねなにやってんですか」


そう言わないで下さい松本教授警護官たちは私を慰めてくれたんです。

落ち込んだ時は酒だ!と言われて初めて口にしたんです。

大学入試に落ちたときだったので私はずっと愚痴を言っていました。


「殿下、泣上戸でずーっと泣きながらどうせ僕なんて苦労性王家だし、大学落ちるし、女の子と縁ないし、童貞だし、童貞だし、って永遠とつぶやいて」


ゴホン。

静流確かに私は『貧乏くじばかりひく苦労王家』だの言われるし、大学も落ちましたよ、恋愛もろくにしたことありませんし。

愚痴を言っていたら静流がじゃあ童貞捨てましょうと。


「おかーしゃん?!」


「姉さん?!」


「ちょっとむらむらしてて。つい」


そこから私の記憶は断片的で始めは夢かと思いました。

朝起きたら私室で一人で寝ていましたし、一月後静流は護衛官を辞していました。

先日松本教授から静流に子どもがいると聞いて、やっと夢じゃなかったと実感したくらいです。

今日は静流と会って話をしたいと松本教授に相談したら、輝からお母さんが逃げないよう秘密裏にかつ急いで面会できるようにと助言をもらい、このような呼び出しになりました。

輝は本当に賢い、いい子ですね。




殿下付きの王室警護官は楽しかった。仲間と一緒に殿下に色々教えると目を輝かせるので、悪いと思いつつも教えていた。

そういうところがあーちゃんと殿下は似ている。

あーちゃんと瑠偉がこちらを見ている。


「…姉さんこれ本当?」


「りょまんしゅがにゃい」


「まあ結果があーちゃんなわけだし」


王家の初代から続く色彩血統があーちゃんにある。


「私も憧れの女性から誘われて、誘いにのらないことはないですしね」


膝の上のあーちゃんの髪をいじりながら殿下が言う。


「これは知らない人が多いのですが、王家の色彩血統と言われる金髪、褐色の肌、紫の目の組み合わせは血によるものでないのですよ」


あーちゃんの長い髪がどんどん編み込まれていく。


「初代国王があみだした、父親が性行時に子供に刻む文言なんです」


編み込みが立体を作り出す。


「子供を目印にして愛しい女性を逃がさないためのね」


あーちゃんの小さな頭の上に金色の王冠ができていた。


「静流私の伴侶になってください」


殿下髪結いお上手ですね。

私は声が出なかった。




「おかーしゃん。殿下いや?」


「…皇太子ですし」


「嫌ならほかの兄弟に譲ります」


「年上だから」


「たかだか7歳差許容範囲です」


「襲っちゃったし」


「憧れの年上の女性から『お姉さんがいいこと教えてあげる』と言われる。男にとってご褒美です」


「子持ちだし」


「私の子ですよ」


「家族の反対が」


「姉さんなに言ってるのさっさと嫁行きなよ」


「松本教授ありがとうございます」


「おかーしゃん、けっこんしにゃさい」


「輝は親孝行ですね」


「王様の反対が」


「二つ名持ちの伴侶。諸手を挙げて賛成ですよ」


困った結婚しない理由が無い。


「あとは静流、あなたの気持ちひとつです。皇太子ではなく、(あかつき)と言う名の男は嫌いですか?」


よく泣く暁くんは好きかな。

心がこぼれた。


「嫌いじゃない、好き」


心を言葉にしたらあーちゃんごと暁くんに抱きしめられた。


「もう離しません。今日は最良の日です。妻と愛娘ができた」


抱きしめられて顔は見えないけど、暁くんは肩を震わせて泣いている。

瑠偉が手巾を貸してくれた。



「しかし姉さんなんでそんな服装だったの。仕事でしょ」


「ああこれ?社長の会合に同伴だったの。それで服用意してもらって」


「社長と言うと今働いてる大月警備の」


「そういえば私求婚されてたみたい」


「「やっぱり」」


驚いたのは私だけで、瑠偉に暁くん、あーちゃんまでうなずいている。


「警護官時代からずっと静流に声をかけていましたね」


「初めて会った焼肉屋で弟とわかるまで牽制されたし」


『私の前で、王家の色彩血統か、誰が手を出した…って憎々しげに言ってたけどね』


あーちゃんも文字盤で言う。

気がつかなかった。


「まあそう言うことなので、静流早急に結婚しましょう」


暁くんは少し赤くなった目を細めてにっこり笑った。



半年後あーちゃんが先陣をきって結婚の準備をしてくれ私は暁くんの伴侶になった。

結婚式の日婚礼衣装を着た私にあーちゃんが言った。


「おかあさんすごくかわいい。あっくんと幸せになってね」


あーちゃんは暁くんをあっくんと呼んでいる。

暁くんはお父さんと呼んで〜となげいていた。

しかし他人から冷酷人間だの表情筋死んでるだの言われる私をかわいいって言うなんて


「うちの子ちょっと変わってる」









「王室季報・特別号」

祝・皇太子殿下御成婚

お相手は元王室警護官、二つ名『氷の堅牢』!

数々の障害に一度は別れ離れた二人であったが、それを乗り越え結ばれた愛の軌跡を追っていく。

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