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最初は珍しい爽やかなそよ風のような存在、それが気がつけば嵐のように強く心をかき乱す風になった。
ずっと手元に置いておかなければ、気まぐれにどこかへ飛んで行ってしまいそうな、そんな不安ばかりが募っていく。多少、強引だと思われようと、ライナルトはどうしても手元にアイリーンを置いておきたかった。
王城へ戻ると、ライナルトは早速、父の元へ報告に向かった。引越しはあと一日もあれば終わることや、今後の予定を早口で報告し、最後に付け加えるかのようにアイリーンのことを口にした。
「…と言う訳で、フェイル家のお嬢様を貴族の子女らしく教育する為、王城で行儀見習いとして働いて貰うことになりました」
以上で報告は終わりです、と捲くし立てるかのように話し終えたライナルトの目に映ったのは、戸惑ったような表情の父と、いつもと変わらぬ表情のハドリーだった。
「…フェイル家の子女が王城に行儀見習いとして?」
「そうです。その件に関しては、私の方で手配済みですので。父上にご迷惑をおかけするような事にはなりません」
「そういう話では無く…」
何とも言いがたい気持ちを表現出来ず、国王は小さくため息をついた。
「ハドリーも言っていたのだが。お前が積極的に手伝うというのには何か裏があるのでは無いかと…まさかとは思うが、そのフェイル家の子女に興味を持ったと言う訳ではあるまいな」
ライナルトを真っ直ぐに見つめ、国王は語尾を強めるようにして問うた。それに対してライナルトは表情を変えることは無い。
「父上。例え、私がそのフェイル家のご息女に興味があったとして、何か問題でもあるのでしょうか」
「私が愚かだった故にどうなったか、お前は分かっている筈だ」
「父上と私とは全く別の人間でしょう。それに、状況も異なります」
淡々とライナルトは用意していたかのように言葉を紡いでいく。
「それに、彼女はベリアルの王族の血を引く女性です。ラベルト王家に取り込めば、未だに燻っているベリアルの残党に対しても大義名分となるでしょう」
「…お前がそこまで考えているというのなら、暫し目を瞑っておいてやろう」
「父上がご心配なさることは何もありません。ご安心を。それでは、失礼致します」
にこりと微笑み、ライナルトは踵を返す。我ながら、都合の良いことを口走ったな、などと今までの会話を他人事のように思いながら、ライナルトは重厚な作りの扉を開け、部屋から退室した。
残された部屋にて。
国王のヴェスアードと側近のハドリーは互いの顔を見合わせ、暫しの間、沈黙が続いていた。
「…殿下は」
最初に口を開いたのはハドリーだった。徐々にその声色に喜色が加わる。
「随分と賢く育ちましたね」
「…確かに。私はライナルトとの言い合いに勝つことが出来るとは思えん」
「嗜めようとなさって、逆に淡々と言い返されてしまいましたからね」
「家庭教師を間違えた」
「いいえ、家庭教師が良かったのですよ。何といっても、私がライナルト殿下の家庭教師だったのですから」
嬉しそうに語るハドリーに対し、ヴェスアードは大きくため息をつく。
その心中は複雑なものだった。血は争えないということか、と心の中でかつての自分を思い出しては気持ちが落ち込む。
「陛下、私は構わないと思うのですが」
黙り込んでしまったヴェスアードに対し、ハドリーは先ほどまでとは異なった冷静な声色で言った。
「何がだ」
「ライナルト殿下の言う通り、ベリアル王家の血を継いだ者をラベルト王家に迎え入れても」
「だが、ライナルトにはもう既に何人か用意しているのだろう。王太子妃に相応しい女性を」
「そうですね。近隣国の王女から、国内の貴族の子女まで…ざっと五人は」
「彼女の娘だ。王太子妃という立場を幸せとは考え無いだろう」
身分を捨ててまで、自分の元を去った女性の娘。
親子で同じ血の者に恋をするということも妙な話だとは思うが、それよりもヴェスアードが不安に思うのは、同じ過ちを犯さないかということ。
ライナルトの元に寄ってくる女性、そして王太子妃にと用意した女性は、その立場を心から誇りに思ってくれるような者たちばかりだ。
幼い頃からライナルトの周りにはそういった貴族意識の人物ばかりだった。
「立場で簡単に靡く相手では無い」
「そうでしょうね。まあ、暫く見守ってはいかがでしょう」
ハドリーの言葉に、ヴェスアードは黙って頷くだけだった。その表情が晴れることは無く、相変わらず眉間に皺が寄っていた。




