大工仕事は協力して
工事着工前日、縁はジャノメと共にドラム缶風呂の前に居た。
温泉は今日から湯抜きをして二週間近く入れない、その間に使用する為に設置したドラム缶風呂の囲いを作り仕上げるのだ。
「別に壁なんか要らんのにの〜」
狐音は全く気にしないように言っていたが、縁はそうじゃないのである。
「さて、おめぇさんが作るって事で資材は持って来てやったぞ」
「ジャノメさん温泉工事前日にありがとうございます」
「まあ構わねぇよ!俺だって男だ、おめぇさんと同じ状況なら作るわな」
二週間近くやり過ごせれば良いので、簡単な壁とドラム缶風呂に入る際の小さな足場。ジャノメの提案で簡易脱衣所、こちらはジャノメ直々に作ってくれるらしい。
「本格的に何か大工っぽいのは初めてですが、頑張ります!」
「おう!横で見とくからまずやってみろ」
早速作業を始める。
ドラム缶風呂の焚き口を塞がないよう寸法を取り壁板を加工していく、工具を貸してもらえたとは言え中々難しい。
横の少し離れた所でジャノメはサクサクと必要資材を揃えていく、いつの間にかヘビメも居て親子作業になっている。
「えっと、支柱の角材に切れ込み入れて壁板差し込むようにするから……」
ブツブツと考えを呟きながら手を動かしていく、大きな工作をしている感覚だが細かなズレが大きな物は特に響いてくる。
確認しながら修正しながらを繰り返し時間を忘れて作っていく。
「三人共〜お昼ごはん用意しましたよ〜」
ほわほわと伸びのある声で縁の集中が途絶えた。
見れば調理場の方からおにぎりを沢山持って歩いてくるスズメとネコメが見えた。
「あ、もうそんな時間か!」
朝から始めて気が付いたら太陽は真上に登っている。ジャノメ親子が手掛ける脱衣所は既に形が見えてきていた。
ありがたくスズメとネコメの作ったお昼ごはんに預かり休憩となる。
「お兄ちゃん、はい」
ネコメが小さな手で握ってくれただろうおにぎりが美味しい。
「美味しい!」
「良かった」
「ネコメさんが皆作ってる様子を見てて、私も手伝うって言ってくれたんですよ〜」
なんて優しい子なんだろう、少し照れてる様子でお茶の準備もしてくれている。スズメも今日を見越して動いてくれていたのだろう二人に感謝する縁だったが、ふと場に居ないお姉さん二人が気になった。
「狐音さんとユウメさんはどこか行きました?」
「アンタが集中してる時、街に行くって車乗って行ったじゃない」
ヘビメが聞こえてなかったのかと呆れた顔で言う。
そうか街に行ったのか、気付かなかった……街……車……車?
縁はパッと自分の軽トラがある場所を見た!
「えっ!!軽トラ乗っていったの!?」
「大丈夫よネットで一日保険入ってたし二人共免許持ってるから」
「何年運転してないかわからんがな、ガハハ!」
ヘビメからは安心?する事を聞けたがジャノメからは不安な事が聞ける。
(あの二人が軽トラ運転するって想像付かないんだが……)
しかし、実際にもう無い物は無い。色々無事に帰ってくる事を祈るしかあるまい。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「ああ……ネコメちゃんは俺が街に連れてってあげるからね?危ない事しないでね……」
「あらあら、スズメも入れてくださいな〜」
「アタシも免許取ろうかな、それか大型バイク」
「ヘビメ!お前はまだ早い!バイクなんかもっての外だ!」
穏やかに過ぎる昼休み、それぞれが語らう時間に癒されて仕事の仕上げに向かう。
「集中力も回復したし一気に頑張れそうだな」
縁は後は組み上げるだけの部材を見つめて奮起した。
ドラム缶風呂を囲う壁作成はジャノメ監修の下、素人でも作れるよう簡単な工程で出来ていた。
その最初の部分であり一番のキモになると言われた支柱打ち込みが始まる。
「……四隅のポイント確定して、垂直に打ち込む!」
両手で振るう大きな木槌を落とし、用意した支柱杭がドスっと埋められる。
「おお、凄い……」
「こんな感じだな、向きに気を付けて打ち込んでから最後に微調整していきな」
ジャノメに渡された木槌が想像以上に重い、受け取りはしたがふらついてしまう。
「腰入れて体格に合うポジション探れ!怪我すんなよ!」
ゆっくり慎重に打ち込み用の土台を登り息を吐く。
集中力を高めて一振り
ガチ!乾いた音がする、素人でも分かる打ち損じだ。
「ホレ!日が暮れるぞ!」
「ハイ!……ふっ!」
ドンッと今度は芯をとらえた音がして「これか!」となる。
「やるじゃない、ほら次打って」
いつの間にかジャノメから離れたヘビメが見学している。
「あれ?ヘビメさん脱衣所は?」
「もう完成するわよ、ホラ」
指差す先には今朝まで何も無かった空き地に簡素ながらも安定感ある小さな小屋が建っている。
「ついでに片手間で建てるレベルじゃないぞ……」
さすがの腕前に舌を巻く、競いは出来ないが自分の出来る事を遂行しようと縁は木槌を振い続けた。
四隅の支柱が立てば、あらかじめ支柱に付けた溝に沿って壁板を差し込むのだが……
なかなか一人では難しい、どうしても壁の板を上から両支柱の溝に合わせて差し込むのは文字通り手が足りない。
さすがにジャノメに助けを求めようとした時だった、目の前にネコメとスズメの二人が立っていた。
「お片付け終わったの」
「大丈夫ですか縁さん?端を持ちますよ〜」
ありがたい援軍だ、特にスズメは背が高い方なので合わせやすいし見た目に寄らない力持ちである。
ネコメとヘビメが両サイドの下から溝に合ってるかを確認し、縁とスズメで板を差し込む。
「良いよ良いよーそのままそのまま」
二人の掛け声に従いスズメとアイコンタクトを取りながら……スッと壁板が入り、立派な壁の一面が出来上がった。
続けて二面、三面とスムーズに入れて……完成だ。
「三人共ありがとうございます!」
「なかなかしっかり出来たじゃない、壁はアタシ絵描こうかな」
ヘビメから見て合格のようで嬉しい限りだ、ネコメとスズメも手を取り喜んでくれている。
「オメェさんやるじゃねぇか、それだけ出来てりゃ充分だ!」
ジャノメがいつの間にか腕を組んで、喜ぶ四人を見ていた。
「あ、ジャノメさん脱衣所はどうですか?」
「ホレ、確認してみな」
四人でぐるりと周りを見て中を見る。機能的な造りになっておりコンパクトだが棚も多く女性陣には助かる造りとなっている。
「やっぱ本職の方は凄いわねぇ〜」
「うん、私の身長でも使いやすそう」
「ジャノメさん、本当にありがとうございます」
「なーに、これぐらいは簡単よ!」
笑い合っている中でヘビメが歩き出した。
「ヘビメさんどうしたの?」
「良いデザインが降りてきたわ、今から装飾するから道具持ってくる」
そう言って自分の部屋に向かってしまった。
「ヘビメは変わらんなぁ、ああいうとこは母ちゃんに似たな!」
そう言えばお母さんについては聞いた事無いな。
「母ちゃんは画家でよ、世界中飛び回ってるから帰ってこねぇのよ」
「え?世界中ですか?」
「ああ、こないだ久しぶりに手紙送ってきたけどナイル川でワニ描いてるって書いてたぜ」
想像する画家と違うのだろうか?ワイルドなハンターの間違いでは無いか?少しばかり失礼な事を考えてしまった。
「ヘビメさんはお母様が憧れって言ってますからね〜何年かしたら世界に飛び出るのかしら〜」
スズメがのほほんと言うがジャノメには相当なダメージを与えているようで胸を押さえてる。
「ヘビメちゃんが居なくなるのは悲しいけど……夢なら私応援する」
ネコメも想像して悲しくなったか表情が曇る、しかしすぐに夢の応援に向けて強い表情へ変えた。
ジャノメだけが悶えてる……子離れに時間がかかりそうだなと縁は男として同情だけしておいた。
ともあれ無事にドラム缶風呂の壁と簡易脱衣所は完成を果たし、ジャノメはまた明日の温泉改修本番でな!と帰って行った。
後は実際の運用を少し定めないといけない。
これまで温泉と言う事で皆好きな時間に好きなだけ入浴できたが、ドラム缶風呂は一人が入り一人が火の番で居た方が安心できる。頑張れば一人でいけなくもないが、やはり危険である。
そして壁を作った目的がそもそも縁と女性陣の交差を防ぐ為に作られた物である。健全な男なら覗きもあるだろうが、覗かないように物理的に労力を使って壁を作った精神性もまた健全なはずだ。
ただ色々考えた末に作った壁だが、当の女性陣達はあまり見られても気にしてないのが悲しい所である。
基本は二人一組、一人で使う際は誰かに声を掛けるのが望ましい。
時間帯についてはどうするか、これは皆と擦り合わせたいが今現在街に行くと言って出てしまった年長組二人が帰らないと進まない……
「朝から出てもう夕方近いけど……狐音さんユウメさんどこ行ったんだろ?」
「あの二人ならもう帰ると思いますよ〜暗くなるまでには帰るからって言ってましたから」
「どこ行ったんですか?」
「私も行き先は聞いてませんね〜久しぶりの二人で街行きにウキウキはしてましたけど」
スズメも行き先までは知らないようだ。
遅くならない内に帰ってきて欲しいものだが……
「別に大丈夫でしょ、なんだかんだで二人共大人なんだし」
ヘビメはペタペタと風呂壁に絵を描きながら言う。
(だと良いんだけど……あの二人だから心配なんだよなぁ)
縁は年長児二人が酒を飲んで運転してないかが一番心配なのだった。




