謎の儀式
山を抜け街に出て、しばらく進めば見えて来た和風家屋の狐火酒造、以前狐音のお使いに来たきりだが変わらない。と言うよりかなり昔から変わらないままで営まれているのだろう。
車を止め販売店の方に入る。
「ごめんください」
前回は横の死角から狐音にそっくりな双子の狐子が現れ驚いてしまった、今度はそうならないように……
「おにーさん来たんやね!」
天井からバサっと降りて来た人影に驚いてしまった。
「狐子さん……なんで上から降ってくるんです……」
「あはは!そろそろ来るかと思って取りに行ってたんよ、ホラ!」
そう言ってなかなか良いお値段しそうな一升瓶を渡される、和紙に包まれた神聖なお酒って感じがしている代物だ。
「しかし狐音から聞いた時は驚いたよ、何十年と手を入れなかった幽荘に工事入れるなんて」
そうなのか?いやあのアパート全体のボロさから改修すらしていない気もする。
「工事に来た親方さんは知ってるんですか?」
「ジャノメやろ?腕は確かだから任せておきんさいな、親バカは酷いが一番安心出来る職人やからね」
信頼はあるようだ、男というだけで殺されるかと思ったがヘビメへの溺愛からくるものだ。我慢しよう。
「では確かに受け取りました、持っていきますね」
「ああ、これから大変だけどがんばりんさいな」
店の前で別れ縁は幽荘へと帰る、助手席に置いた御神酒を横目で見ながらゆっくりと。
(そういえばドラム缶風呂の目隠しどうしよう……)
忘れていた問題を思い出し、更にゆっくりと帰るのであった。
ゆっくりでも進みさえすれば目的地に辿り着く。
幽荘が見えて来た。
あまり待たせても迷惑になる、とりあえず御神酒をお持ちしよう。
車から降りて御神酒を抱えながら温泉側に向かう、人影が無かったので居るとすればこちらだろう。
いつものようにアパート横を歩き抜け温泉を視界に捉えた時だった。
「ただい……え?」
縁は固まった、何か和文字の記された幕が全体に張られ入り口らしき所に女性陣が集まっている。
だが皆同じ服を着ている、まるで巫女さんのような儀装に金色の髪飾りを付け、儀式を始める前と言った出立ちで面食らう。
「おお、縁よ遅かったの」
「狐音さん、皆……その姿は?」
「この姿は何年振りか、調理場作る時以来かの」
答えになっていないが皆の雰囲気が違う。
「早速始めるかの、縁よ御神酒を貰おう」
「あ、は、はい」
しっかり両手で受け渡しニコリと笑った狐音は御神酒を抱え皆の下へと歩いていく。
その顔や服、歩き方に雰囲気で皆が神聖な塊に見えた。そろそろと一人ずつ幕の中へ入っていく。
「さあ兄ちゃん!俺達はここまでだ!終わるまで時間潰すぞ!」
バン!とジャノメが肩を叩きアパート正面に誘導されていく、一体何が行われるんだ?
「ところでおめぇさん、なんでまた男一人でここにやってこれたんだ?」
ジャノメはとても不思議そうに聞いてきたが、その辺りは自分が知りたいと思う縁であった。
掻い摘んで幽荘に来た経緯を話す。
「なるほどね……隆二と里子も想いは変わらねぇな」
「ジャノメさんは両親知ってるんですか?」
「おお!よく知っとるも何もアイツら子供の時からの付き合いだからな!突然居なくなった時は探し回ったもんだ!」
「すみません自由な両親達がご迷惑を……」
「何、色々あったんだが……その様子じゃまだ聞いてねぇんだろ?俺から話す事じゃねぇな」
この村?の出身で駆け落ちした両親と聞いてはいるが深くは聞けていない、一度実家に帰る計画は立てた方が良さそうだ。
縁は一旦両親を置いといてジャノメを見て思い付いた事を言ってみる。
「あのジャノメさんは大工?さんですよね?」
「あん?まあ建築も解体もやるが」
「僕に大工仕事と言うか簡易的な壁の作り方を教えて頂けないですか?」
「簡易的な壁?なんだそりゃ?」
「実は——」
今現在悩むドラム缶風呂の事をジャノメに打ち明ける。本職に教わる事が出来れば女性陣がドラム缶風呂を使っていても火の番が出来るし、唯一の男である縁が入る時も困らない。
温泉工事が着工すればドラム缶風呂しかないのだから、それに今後も使えるスキルになればと思ったのだ。
「おめぇさん……」
話を聞いたジャノメは目を抑え震えてる、何で感極まってるんだろう……
「本当に男か?ヘビメを見たら殺すけど美人揃いのここでそんな気遣いできるなんてな!」
サラッと怖い事を挟まれたが少し認めて貰えたのだろうか?
「よし!温泉着工は明後日だが明日俺が教えてやる!建ててみろ!」
「あ、はいありがとうございます!」
無事に教わる事が出来そうだ、必要な物はくれるらしいのでありがたい。
ドラム缶風呂の前にジャノメと立ち、何がどれだけ必要か寸法を取っていく。
流石に職人であり、素人の縁とは段違いの手際の良さに見惚れているとジャノメは聞いてくる。
「コレおめぇが作ったのか?」
「いえいえ、皆で作りましたよ」
「なるほどなぁ、有り合わせでよく出来てるじゃねぇか」
「皆、それぞれ頑張ってくれましたから」
縁は協力して作ったドラム缶風呂を褒められて嬉しくなる。成り行きとは言え初めて皆で作れた設備である。
「細かな補強はしといてやる、おめぇは目隠し壁のイメージをしときな。ついでに簡単な脱衣所も作るか」
仕事に向ける職人の目は鋭い、以前にヘビメが見せたアートへの眼差しと親子そっくりだなと縁は笑った。
ジャノメとジャノメが率いて来た職人達に混じって縁も温泉改修計画の会議に参加している。
今現在狐音達の詳細はわからないが何やら儀式をしている最中なので、幽荘の前で青空会議である。
「とりあえず優先は脱衣所として他に意見は無かったのか?皆ああ見えて女性なんだから悩みもあるだろ?」
ジャノメが皆の要望が無かったのか聞いてくる。
要望……
狐音、酒飲みスペース
ユウメ、牛乳とアイスの貯蔵庫
ネコメ、プール
ヘビメ、アートデザイン出来るスペース
スズメ……?
皆それぞれ何かしら言ってはいたがスズメだけ要望を聞けていない、シャワーが欲しいと言っていたような気もするが儀式終わりに聞いてみよう。
今現在で分かる範囲を伝えジャノメは腕を組んだ。
「温泉あんま関係ないもんばっかな気もするが……まあいい、兄ちゃんは脱衣所のデザイン案をヘビメに出したんだろ?あれで良いのか?」
ヘビメに手伝いしてもらい脱衣所デザインの案は渡していた。
「はい、調理場みたいな落ち着けて安定感ある丸太小屋?コテージ?って言うようなのが良いなと」
「アレに一つ提案なんだがな——」
「——え?そんな事出来るんですか?」
「任しときな、ついでに作ってやらぁ」
ジャノメからの提案は嬉しい物であった、工事の最終に手を入れてくれるらしい。
あらかた話し合いも済んで皆でまったり語り合っていると、温泉側から人影が見えてきた。どうやら狐音達の儀式が終わった様である。
「ふー終わったぞジャノメ、後は任せるぞ」
「よーし野郎ども現場調査すっぞ!」
オオー!と野太い声が発せられる、女性陣に囲まれ生活する縁には何げに新鮮だった。
ゾロゾロと入れ替わるように職人達は温泉に向かい、目の前には神聖なオーラを感じられる儀装に身を包んだ女性陣達になる。
「お疲れ様でした皆さん……で、あの……その格好は?」
労いつつも気になっていた事を聞いてみる。
「ふふ、これはこの地の礼装じゃ。今回は工事に際して事故や怪我が無い祈願の儀式をしたんじゃよ」
狐音は袖をパタパタ振りながら説明をしてくれた。
「へ〜皆さんでやるもんなんですね」
「ん〜まあこの場所に縁がある女の役目じゃて」
一番若いはずのネコメを見て縁は話しかけた。
「ネコメちゃんも凄いね」
「昔からやってるから慣れたよ」
照れたのかユウメの身体に身を隠しながら言っている。
「皆でこの格好自体久しぶりでしたわ〜何もイベントやハプニング無いのが幽荘の良いところですから」
のんびりとユウメはそう言うが、割とハプニングを受けているのは自分だけなんだろうかと考えた縁だった。幸い命に関わる事は無いので納得しておいた。
「アタシ、パパの調査見てくるわ」
ヘビメは着替えもせず温泉側へと行ってしまった。
「ヘビメさんはデザイン担当ですから気合い入ってますね〜今晩は体力付く焼肉にしましょうか〜」
スズメがニコニコと今晩のご飯を考えている、そう言えばスズメに温泉改修に組み込む要望が無いか聞かなくては。
「あのスズメさん、改修に当たって何か取り入れたい要望とかありますか?実現出来るかは分かりませんが」
「要望ですか〜そうですね〜あ、温泉の区間一人分欲しいです〜」
区間を一人分?どういうことだ?
「私、山で薬草も採ってますので薬湯に出来る部分があると嬉しいなぁ〜って」
さすがスズメさんだ、一番温泉っぽいまともな案が出てきた。
「了解です!ちょっと急いでジャノメさんに言ってきますね!」
縁は走り出し温泉側に向かった。
「なんじゃあいつ儂の案には食い付きもせんかったくせに」
「あら?皆さんは何を要望したんですか?」
「儂はの——」
女性陣は温泉についての要望、縁はジャノメを巻き込んで温泉改修を進める。
なんだかんだで皆楽しみにしている空気感が縁は嬉しかった。
そしてその日の晩御飯は皆でスズメが捌いた様々なお肉で焼肉をし、改修後にどんな温泉になるのかで皆と語り合った。




